グローバル信用格付け会社のフィッチは先日、米国債の格付けを従来の最高等級AAAからAA+へと一段階引き下げた。金融市場は驚き、米政府は怒りをあらわにした。米国のジャネット・イエレン財務長官は、米国債は依然として世界で最も安全であり、米国経済は強いと述べて反発した。しかし、フィッチの決定は米国経済に対する警告ではなく、米国政治に対する警告だった。妥協はなく崖っぷちの対決ばかりがある政治、問題解決能力がないため世界で最も安全な資産までデフォルト(不渡り)させうる政治に対する警告だった。韓国政治の姿も米国政治の姿に急速に似てきている。根底には経済の両極化がある。
国の信用は、政府が発行した債券が不渡りを出す危険性を評価して格付けられる。イエレン長官が言ったように、米国債は世界で最も安全な資産だ。米国経済の規模とドルが持つ地位のおかげだ。グローバル市場で取り引きされる金融資産と商品の大半はドルで表示され、ドルで決済される。そのため、各国の中央銀行の外貨準備高も大半がドルであり、そのドルで米国債を購入する。米国は赤字を埋めるために大規模に国債を発行しても、あまり負担とはならない。債券が国内で消化されなければ、海外で消化すればよい。リスクプレミアムもなく、需要も豊富なため調達金利も非常に低い。すでに半世紀前に、フランスのバレリー・ジスカールデスタン大統領はこのようなドルの地位を「とんでもない特権」だと非難している。
半世紀にわたって維持されてきたこの特権が不能の政治のために危うくなっている、というのがフィッチの判断だ。他の格付け会社も、同じ理由で2011年に米政府の格付けを引き下げたことがある。この特権を危うくしたのは経済ではなく政治だ。今、米国経済は非常に強固だ。財政赤字は増えてはいるものの、国家債務の割合は下がっている。問題は、この安全な国債の発行限度をめぐって米政界がほぼ毎年崖っぷちの対決を繰り広げているところにある。万が一この妥協が成立していなかったなら、満期を迎えた国債が償還できずデフォルトにもなりえた。イエレン長官自身もわずか2カ月前には「Xデート」、すなわちデフォルトの日が迫っていると警告していた。いくら安全な資産だといっても、このような政治的ばくちを毎年見せられたら、格付け会社が格付けを下げるのは十分に理解できる。
儀礼的に承認されていた負債限度は、10年あまり前から民主-共和両党の政治的対決の人質となってしまった。下院を掌握した保守共和党が、民主党政権の財政支出拡大の足を引っ張る手段として利用しているのだ。オバマ政権とバイデン政権では、ほぼ毎年崖っぷちの対決が繰り返されている。大きくみると、これは経済的利害関係をめぐる対立だ。脆弱階層と公共サービス拡充のために政府支出を拡大するのか(民主党)、それとも小さな政府を目指して減税するのか(共和党)の対立だ。また、経済危機のコストを誰が支払うのかをめぐって繰り広げられる争いでもあった。2011年には2008年のサブプライムローン危機、今年はコロナ危機のコストの分担をめぐる対立だと評しうる。
学者たちはこのような極端な対決と非妥協的政治の原因の一つとして、政治の両極化を指摘する。民主党と共和党の理念的へだたりが徐々に拡大しているということだ。共和党の一部議員の保守化が極端に進んでいるのが特に問題だ。さらなる深みには経済の両極化の問題がある。トマ・ピケティが指摘したように、米国の階層間の不平等は日増しに悪化している。国の保護が足りない低所得層は既存の制度と既成の政界に不信を抱き、ポピュリズム的扇動にますます引き付けられる。その一方で天文学的な所得をあげる高所得層と巨大企業は保守政治家を後援し、減税などによって利益を得る。経済の両極化が生んだ非妥協と不能の政治の現実だ。
韓国はどうか。妥協の政治は失われた。幸い金権政治は米国ほどひどくはないが、政治家たちは刺激的な言葉とSNSを用いて味方を集めることばかりに力を注いでいる。光復節の祝辞で大統領が用いた言葉にはぞっとさせられる。統合ではなく分裂と保守の極端化を導くものだ。経済的統合の未来も否定的だ。相次ぐ減税と所得再分配機能の縮小により、階層間の不平等はさらにひどくなるだろう。無能にとどまらず不能へと向かう政治が経済すら危うくするというのは、もはや他国の話ではない。妥協の政治を回復し、経済の両極化を軽減しなければならない。
パク・ポギョン|慶煕大学教授・元大統領府経済補佐官 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )