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[コラム]尹錫悦政権はなぜ極右に退行するのか

登録:2023-07-04 01:07 修正:2023-07-04 03:20
尹錫悦大統領が6月28日、ソウル中区奨忠体育館で開かれた韓国自由総連盟第69周年創立記念行事で、カン・ソクホ韓国自由総連盟総裁の紹介を受け、手を挙げて歓声に応えている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 李明博(イ・ミョンバク)政権末期、イ・ドングァン大統領室対外協力特別補佐官がプライベートな席でこのような話をした。「李明博大統領が懐かしくなる日が来るだろう」と。民間人査察などで政権が窮地に追い込まれるなど、李明博政権に対する国民の不満が高かったため、その時は最後のあがきだと思っていた。ところが数年後「意思疎通を拒否する」朴槿恵(パク・クネ)政権時代に、その言葉を思い出した。しかしその時は「朴槿恵政権」を懐かしむ日が来るとは思いもよらなかった。最近「朴槿恵政府はここまで乱暴ではなかった」という話をする人たちが増えている。

 先月28日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は自由総連盟の行事に出席し、終戦宣言を進めたという理由で、文在寅(ムン・ジェイン)政権を「反国家勢力」と称した。翌日には「金正恩(キム・ジョンウン)政権打倒」を主張する誠信女子大学のキム・ヨンホ教授を統一部長官に指名し、「軍人のマスクを外させた文在寅前大統領は、軍人を(新型コロナウイルス感染症の)生体実験の対象に差し出すように指示したのも同然だ」と主張したユーチューバーのキム・チェファン氏(62)を国家公務員人材開発院長(次官級)に任命した。それ以前にも尹大統領は、真実・和解のための過去事整理委員長にキム・グァンドン氏、警察制度発展委員長にパク・インファン氏、国家人権委員会常任委員にイ・チュンサン氏など、様々な極右勢力の人物たちをふさわしくないポストに任命してきた。野党はもちろん、与党の一部にもこのような極右一辺倒の言動と人事に懸念を表する人たちが極少数だが存在する。何が尹大統領をイデオロギーの化身にしたのだろうか。哲学が乏しいうえ、極右ユーチューブを見すぎたのだろうか、それとも、極右の本性を現したのだろうか。

 6月第4週目の韓国ギャラップ調査によると、尹大統領の国政支持率は36%。大統領たちは常に世論調査に「一喜一憂しない」というが、実は一喜一憂を繰り返す。だからこそ、世論の推移を見ながら発言を選んだり、政策を修正したりもする。今の支持率なら「中道の拡大」を目指すのが妥当だろう。しかし、尹大統領は一喜するばかりで、一憂はしていないようだ。なぜだろうか。

 第一に、自分なりの召命意識に囚われているからだ。これはかなりの与党関係者が証言している。尹大統領が政治宣言をする時に叫んだのが「検捜完剥(検察捜査権の完全はく奪)は腐敗の温床を作る」だった。国民が彼を大統領に選んだのだから、これからは「腐敗カルテル」を撲滅する任務を遂行しなければならないということだ。検事としてのアイデンティティを大統領の職務にまで引きずってきたわけだ。世の中は検事と犯罪者に二分されるわけではないのに、カラーテレビに白黒画面を送出しているようなものだ。政治を知らないのに知ろうともしない。政治とは妥協と調停の産物だが、「政治的」という単語は策略を意味するものだと認識しているから、ひたすら捜査に邁進するばかりだ。

 第二に、誰も制御できないからだ。「59分」というニックネームどおり、会議で一人でまくしたてたというエピソードが絶えない。さらに、検事時代の習性である荒っぽい言葉で責め立てるため、長い信頼関係を築いていない限り、面と向かって意見を言えない。だから一方通行で暴走しても止めるどころか「大統領からたくさん学ばせてもらった」と機嫌を取るのに余念がない。大統領にとって良いはずがない。大統領室、国務委員らの職務遺棄だ。自己確信にますます陥っていく構造だ。

 第三に、韓国社会の支配エリートの磁場に埋没しているからだ。「太極旗部隊(極右団体)にはアスファルト右派だけでなく、教授出身、ソウル大学出身の引退者も少なくない」といわれている。実際そうだ。極右ユーチューブの温床は60代以上の老齢引退層であり、彼らの中には有識者や富裕層も少なくない。尹大統領に言葉をかけることができるのは彼らだ。尹大統領はその中にいる。

 第四に、検察の存在である。支持率30%台の大統領に対して与党が今のように何も言えないのは、政権初期であることを考えても珍しいことだ。朴槿恵大統領のように党内に親衛勢力が最初から根強く存在しているわけでもなかった。しかし、尹大統領には歴代のどの大統領にもなかった「検察」がいる。野党に向かう刃がいつ自分に向かうか分からないため、何度も自己検閲を行い、ためらってしまう。軍事政権における軍と中央情報部の役割を今、検察や監査院などが果たしている。

 最後に、陣営の二極化で中間地帯が消えたことも関連がある。昨年の貨物連帯の一斉ストライキへの強硬対応以降の労組バッシング、日本との外交問題、(大学修学能力試験における)キラー(高難度)問題、汚染水をめぐる議論にもかかわらず、支持率がさらに低下しないのをみて、特有の強攻が有効だと判断しているようだ。大統領選挙で尹大統領を支持した層のうち、「合理的中道」勢力はかなり離脱したものとみられる。残ったのは極右勢力と反民主党勢力だ。「尹大統領の方向性は気に入らないが、それでも野党(共に民主党)は嫌いだ」という人々が尹大統領の人質となっている。そのため、適切な極右寄りの言動は総選挙で有利に働くという計算もあるようだ。本格的な「極右への道」はまだ始まっていないかもしれない。

//ハンギョレ新聞社
クォン・テホ|論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1098539.html韓国語原文入力: 2023-07-03 22:12
訳H.J

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