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[寄稿]破局の可能性を高める韓国の家計負債…総選挙まで放置していてはならない

登録:2023-08-10 01:27 修正:2023-08-10 23:22
アン・ジェファン|仁荷大学経営大学院副院長
市民がある銀行に掲げられている特例住宅ローンの案内の前を通り過ぎている/聯合ニュース

 市場の要求は明確だ。家計負債というバブルを取り除くのはやめて、むしろバブルをさらに膨らませてほしいというのだ。新たな不動産購入者が融資を受けて市場に登場してはじめて、既存の不動産投資家は差益を得たうえで、市場から脱出できるからだ。

 家計負債の規模が所得によって耐えられる水準なら、このようなシナリオは現実とはなりえない。実際に「借金して家を買え」というような不動産規制緩和策が実施された2014年の国内総生産(GDP)に対する家計負債の比率は76%で、借金をしていなかったすべての経済主体の所得まで動員すれば家計負債問題は解決できる水準だった。しかし2023年現在、家計負債はGDPに対して103%にのぼる。これは韓国国民の所得では決して返済できない水準であり、韓国経済にとって雷管になるのに十分な規模だ。さらに憂うつなのは所得、消費、生産が減少しているということだ。すでに日本と米国は歴史的に、家計負債比率が韓国より低い水準で最悪の不動産バブルの崩壊を経験している。このような破局を避けるために必要な対応手段はただ一つ。家計負債規模を縮小するとともに、すでに発生してしまっている不良債権を局地的ではあるが早く取り除くことだ。

 しかし、状況はこれとは真逆に動いている。金融通貨委員会(金通委)の度重なる家計負債縮小要求にもかかわらず、政府は上半期に39兆ウォン(約4兆2500億円)の特例住宅ローンを不動産市場に注ぎ込み、7月からは逆伝貰(伝貰(チョンセ)は契約時に高額の保証金を賃貸人に預けることで、月々の家賃は発生しない不動産賃貸方式。逆伝貰は不動産価格の下落によって賃貸人が賃借人に保証金を返せなくなったり、安い伝貰住宅が増えて賃貸人が新たな賃借人を見つけられなくなったりすること)に直面しているギャップ投資(売買価格と伝貰保証金の差額だけで不動産を購入し、不動産価格が上がった時に売却する)家に対して総負債元利金返済比率(DSR・債務返済額(元利金)が可処分所得に占める比率)規制の例外を適用している。どん欲な市場はこの機会を逃さなかった。株式市場とは異なって相場調整行為の規律がない不動産市場で一部の投資家が言い値をつり上げ、その値を根拠に一部メディアが相場の再上昇を後押しする記事をあふれさせた、とのうわさは絶えない。結局、融資金利が上昇する中で不動産担保融資が急増するという奇怪な現象が発生した。ソウルを中心として不動産価格も再び上昇をはじめている。市場の望み通りにバブルの上にバブルを重ねているのだ。

 今や破局の可能性はさらに高まった。市場の強欲が韓国経済を完全に破壊してしまう前に、政府は非常対策を講じなければならない。ゴールデンタイムがすでに過ぎてしまったのか、あるいは急速に迫ってきているのかは分からないが、家計負債をこのまま放置すれば最悪の事態を避けるのは困難になる。

 金融監督院と金融委員会は、せめてこれからは債務返済能力にもとづいて融資を実行するDSR制度に例外を認めてはならない。これは伝貰資金融資にもDSRを適用しなければならないということを意味する。現在、DSR規制が本格的に実施中であるにもかかわらず、家計負債は私たちの期待とは裏腹にむしろ増加している。これは企画財政部がDSRの例外の適用を要求し続けているためだが、金融監督当局はこのような景気浮揚基調とは関係なしに断固として健全性監督機能を果たさなければならない。特に現在は、諸銀行がDSRを計算しつつ満期50年の商品を発売している。国内の借主の絶対多数は50年間も所得を創出することはできないにもかかわらず、不可能な所得期間を仮定するというやり方で融資を増やしているのだ。これは早急に是正しなければならない。

 金融企業に対する構造調整も局地的だが、早急に進めなければならない。最近、一部の金融機関が返済を滞らせている借主の利子を任意に帳消しにするという報道があった。金融機関がこのようなやり方で融資を管理すれば不良債権が隠蔽され、義務であるはずの引当金の積立も怠るようになる。これは会計的粉飾行為であり、限界に直面する金融機関の相当数がこのような状態だと推定される。金融監督院は全国の不動産プロジェクトファイナンス(PF)の事業所と限界金融企業に対する積極的な現場点検と検査によって不良債権を突き止めるとともに、必要な構造調整を適切な時期に実施すべきだ。2011年の貯蓄銀行の構造調整がその良い例だ。

 それと共に、金通委は家計負債についての警告を口先だけにとどめてはならない。景気低迷が現実化する現状にあって、経済省庁には不動産を通じた景気浮揚をあきらめる誘引がない。しかし、金通委は独立的な通貨政策の決定機関として金利引き上げをこれ以上先送りするのをやめ、家計負債縮小に向けて積極的な金利政策を取らなければならない。消費者物価指数(CPI)に直接含まれない不動産価格は、いかなるインフレ問題よりも深刻だからだ。

 局地的な構造調整はもはや避けられなくなった。家計負債問題は流動性の拡大で解決できるという幻想も、今や捨てなければならない。加えて、このような構造調整を総選挙などの政治日程を理由として遅らせれば、不良債権は金融圏全体に拡大し、もはや手が打てなくなるということも肝に銘じなければならない。

//ハンギョレ新聞社

アン・ジェファン|仁荷大学経営大学院副院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1103702.html韓国語原文入力:2023-08-09 18:16
訳D.K

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