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[コラム]これまで経験したことのない大統領、大統領夫人、参謀

登録:2023-07-18 06:35 修正:2023-07-18 07:45
ウクライナを電撃訪問した尹錫悦大統領と夫人のキム・ゴンヒ女史が15日(現地時間)、キーウの聖ソフィア聖堂で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領夫妻と記念撮影をしている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 盧武鉉(ノ・ムヒョン) 大統領は自伝『運命だ』で、「雨が降らなくても、降りすぎても、全ては自分の責任のように思えた。大統領という職責はそういうものだった」と書いた。歴代大統領は皆、そのような心構えだったはずだ。システムで危機に対応すべきであり、大統領一人の行動に頼るのは時代錯誤的だという言葉は確かに正しい。だが、そのシステムをもう少し迅速に動かせるのは、ほかでもなく国政運営の司令塔である大統領と大統領室だ。

 「軍と警察を含め、集中豪雨に総力を挙げて対応せよ」という尹錫悦大統領の緊急指示がニュース速報で流れたのは土曜日(15日)午後4時ごろだった。一晩中降り続けた雨と土砂崩れで死亡・行方不明者が続出したというニュースで、全国民が土曜日の朝を迎えてから、かなりの時間が経った後だった。大統領室は一体何をしていたのだろうか。欧州との時差を考えても、このような重大な事案は大統領に直ちに報告し、指示を受けなければならないのではないか。

 おそらく、その時間に尹大統領はウクライナに向かっていたと思われる。大統領室の高官は「(行くのに)片道14時間、来るのに13時間かかった。厳しい道のりだった」と記者団に語った。今年2月のジョー・バイデン米大統領の訪問のように、尹大統領はポーランドの国境都市、プシェミシルから列車でウクライナのキーウに向かっただろう。極秘裏に進められた10時間にわたる列車移動中に、尹大統領は国内のニュースを全く聞けない状況だったのか、それとも「歴史的な戦争地域訪問」を控え、あえて国内ニュースを大統領に知らせる必要はないと参謀たちが判断したのだろうか。いずれにせよ正常な状況とはいえない。

 キム・ウンヘ広報首席は「大統領はテレビ会議などを通じて随時国内の状況に気を配っていた」と一歩遅れて強調した。しかし、たとえそれが事実だとしても、市民が命をかけて水害と戦う中でそれが大統領に伝わらないなら、危機に瀕した国民にとって政府は何の役にも立たない。大統領の海外歴訪を非難したいわけではない。海外にいても国民の生命がかかった事案は最優先に報告を受けて対応する体制を整えなければならない。梨泰院(イテウォン)惨事の時もそうだったが、現政府はそれに無関心であり、無能力だ。

 似たようなことが繰り返される理由は明らかだ。大統領室はウクライナ訪問が成功するまで、ウクライナだけに全神経を集中させていたことだろう。大統領が見たいものだけを見て、やりたいことだけをやろうとするから、参謀たちもそれに合わせて動いたはずだ。「これは違う。国内の状況が深刻になっているから、対応しなければならない」という意見を呈する雰囲気ではなかっただろう。

 端的な例がリトアニアでの大統領夫人のブランド品のショッピングだ。現地メディアの報道によると、キム・ゴンヒ女史は16人の警護員と随行員を連れて有名ブランドの売り場5店を回ったという。客引き行為による単なるウィンドーショッピングなのか、実際ブランド品を買ったのか、私には分からない。ただし、国内には集中豪雨警報が出され、緊迫したウクライナ訪問を目前にした時点で、大統領夫人がのんびりと訪問国の有名ブランドの売り場を回るというアイディアがどこから出たのかは気になる。バイデン大統領はウクライナ極秘訪問を隠すため、出発直前にワシントン市内のレストランで多くの人が見守る中、夫人と夕食を共にした。キム・ゴンヒ女史のショッピングもそのような作戦だったのだろうか。ならば「客引き行為で入ってしまった」というとんでもない言い訳をする理由もなかっただろう。重要なのは、その時点でその都市で、大統領夫人の行動が不適切だと苦言を呈する参謀が一人もいなかったということだ。

 尹大統領は戦後の韓国大統領としては初めて戦争地域を訪問する際、記者団は同行させなくても、夫人のキム女史は同行させた。マスコミよりは夫婦同伴の方がより重要だったわけだ。参謀たちの誰もそれに反対する苦言を呈したという話は全く聞こえない。今の龍山(ヨンサン)大統領室の赤裸々な姿だ。

 「なぜ日程を取り消して直ちに帰国しなかったのか」という指摘に対し、大統領室の高官は「今すぐ大統領がソウルに向かっても状況を大きく変えることはできない」と答えた。これが災害に遭った国民に大統領参謀が言うべきことなのか。同高官にとって国民は眼中にない。その目に映るのは大統領夫妻だけだ。

 「雨が降りすぎても自分の責任のように思える」という心構えで国政に取り組む大統領と、「大統領が状況を変えることはできない」とし、まるで第三者のように行動する大統領室とは天と地の差だ。今、私たちはこれまで経験したことのない大統領夫妻と参謀たちを見ている。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス|大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1100455.html韓国語原文入力:2023-07-17
訳H.J

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