日本が反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と5年以内に防衛費2倍引き上げを骨子とする新たな国家安全保障戦略を採択したことを受け、韓国でも様々な声があがっている。まず尹錫悦(ユン・ソクヨル) 大統領は「頭上でミサイルが飛び交い、核が飛んでくるかもしれないのに、それを防ぐのは容易ではない」とし、これに対応するための日本の軍備増強について「誰もとやかく言えないだろう」と述べた。
一方、韓国内の中道・革新陣営では日本の軍事大国化とこれを擁護する尹錫悦政権に対して批判の声を高めている。日本が平和憲法と専守防衛の原則を無視し、攻撃能力の保有を試みること自体が問題だという主張だ。野蛮な植民統治と慰安婦および強制徴用など歴史問題の解決に消極的な日本を見てきた韓国国民にとって、日本の軍事大国化について不快感を抱くのは当然といえる。また、日本は有事の際、韓国の同意なしに北朝鮮を攻撃できるという立場を示しているが、これは北朝鮮を領土と明示した大韓民国憲法を無視するものだという批判もある。
しかし、国内ではあまり取り上げられない、しかし直視しなければならない不都合な真実もある。まず、北朝鮮は国連加盟国であり159カ国と国交を結んでいる。厳密に言えば、国際法的には主権国家である。また、南北の和解協力と平和共存および統一の大前提は、互いの体制を認めることにある。国際法的に主権国家であり、北朝鮮政策の上で認めるべき対象である北朝鮮を韓国領土だと主張し、日本の敵基地攻撃論を批判することに果たして説得力があるのかという問いは、ここから始まる。韓国も北朝鮮の核使用の兆候を把握した場合、先制攻撃を認める軍事戦略を採択しているため、なおさらそうだ。
現実的にはさらに重要な問題もある。世界のほとんどの国は自衛力を求めており、その要となるのは抑止力であり、抑止力を強化するためには攻撃力を備えなければならないという立場だ。こうした傾向は米中戦略競争の激化、ロシアのウクライナ侵攻と戦争の長期化、そして北朝鮮の核武力の強化などと相まってさらに強まっている。韓国もその先頭グループにいる。米国の軍事力評価機関「グローバル・ファイヤーパワー」によると、韓国は2021年から3年連続で世界6位の軍事大国となっている。一方、日本は今年の順位が8位に落ちた。韓国が日本の再武装を批判することが、日本に不快感を抱かせるかもしれない理由だ。
むろん、これらは日本の軍事大国化とこれを事実上支持している尹錫悦政権の態度を擁護するためではない。韓国のリベラル勢力が朝鮮半島や韓日関係の特殊性を掲げて批判ばかりしていては、国際社会から疎外されかねないという点を指摘するためだ。さらに重要なのは、普遍的価値に基づいた新たな代案の公論化の必要性を強調するためだ。
こんにちの世界は「複合危機」に直面していると言われている。安全保障危機、暮らしの危機、そして気候危機などが同時多発的に現れているためだ。新たな代案の出発点はこれらの危機の相互関連性に注目することにある。例えば、激しい軍拡競争は安全保障ジレンマを激化させ、安保危機を煽り、貴重な資源の無駄遣いを招き、庶民の暮らしをさらに困難にし、炭素排出の増加と国際協力の低下で気候危機を深化させる。
このような複合危機の悪循環に注目すれば、代案の公論化も可能になる。多国間による軍拡統制と軍縮がまさにそれだ。ちょうど5月には日本の広島でG7サミットが開かれる。また、9月には新しい気候サミットの開催が推進されている。もちろん、主要国の政府が自発的に軍縮に乗り出す可能性はほとんどない。そのため、国際市民社会が乗り出さなければならない。「何が重要なのか」を問いかけ、軍縮を公論化することに力と知恵を集めなければならない。