「恥」はなぜ弱者にばかりあるのか。「貨物連帯は(安全運賃制を)改めて3年延長する方向で行こうと主張するような恥はかけないだろう」。ウォン・ヒリョン国土交通部長官は12日、このように述べた。安全運賃制は、貨物労働者がほぼ最低賃金で毎日16時間働くという現実を改善するために、コンテナとセメントを運ぶトラックに限って導入された。このような状況では、貨物労働者はスピード違反、過積載での運行をせざるを得ないという問題意識から出発したものだ。6月、貨物連帯が1回目のストライキを実施した時、政府は安全運賃制の幅の拡大などを議論すると約束した。
しかしこの6カ月間、国土部は何もしなかった。1回目の交渉では、「権限がない」として席を立った。国土部は安全運賃制の廃止手順を踏みながら、今になって運送協議体を設置して改善策を検討していくと言っているが、その改善策がいつ出てくるのかは誰にも分からない。いつかも分からないその日を待ちながら、貨物労働者たちは何の対策もなかった以前のように働けというのだろうか。国民の命と安全を守るのは国の責任ではないのか。彼らは国民ではないのか。国が「恥」をかかないためには、貨物連帯の労働者が要求する前に、彼らがより安全に働けるようせめて最小限の努力をすべきだったのではないか。
賃金がいくらなら「貴族労働者」になるのか。貨物連帯は安全運賃制の実施後、12時間以上運行する割合が大幅に低下したと発表した。韓国交通安全公団によると、産業用トラックの交通事故による死者は増えたが、この統計は安全運賃制の適用を受けない車両をも含んでいる。別の要因が規制されておらず、安全運賃制の交通安全効果を確認するには期間が短いという反論がなされている。この統計を根拠に「東亜日報」は「一般貨物車主の月平均純収入(燃料価格補助金含む)は378万ウォン(約39万5000円)で、2019年の289万ウォン(約30万2000円)から89万ウォン(30.8%)も上がった」とし「結局、3年間の安全運賃制の実施は、車主の収入を増やしただけ」と書いた。
私は車主たちの「収入を増やす」ことがなぜいけないのか分からない。政府は、彼らが働かなければ「国家経済に非常に深刻な危機」を招くという理由で業務開始命令を発動した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領によると、彼らが働かないことは韓国にとって「北朝鮮の核級」の脅威だ。産業界と政府は貨物連帯が2週間もストを行ったせいで、実に4兆ウォン(約4180億円)の被害が発生したという。それだけ韓国経済にとって重要な労働だと政府は認めたのではないのか。そのような労働をする人たちが、月378万ウォンを稼ぐことが「収入を増やしただけ」なのか。大企業の大卒初任給ほどの賃金だが、その新入社員たちは韓国経済に貨物労働者ほど貢献しているのか。安全運賃制が導入される前、日に10時間以上働かせて月289万ウォンしか与えていなかったことこそ搾取ではないのか。
貨物連帯がストをやめると、大統領室は「法治主義の勝利」と自ら祝った。尹錫悦大統領は「違法との妥協はない」と述べた。国土部は、貨物連帯が仕事に復帰しても損害賠償、刑事処罰などは強行すると予告した。特殊雇用労働者の団体行動権を制限すること自体が憲法精神に反すると私は考えるが、政府の言うとおり彼らのストが違法だったとしよう。これほど原則を重視する大統領は、国政壟断贈賄で実刑を宣告されたサムスン電子のイ・ジェヨン会長とロッテグループのシン・ドンビン会長を8月に赦免した。その際、政府は「経済危機の克服」のためだと述べた。韓国経済にとって貨物労働者の労働もあの会長たちに劣らず重要だということを、政府は業務開始命令で示したではないか。贈賄罪は赦免できても、安全を要求するストは「わがまま」であり、許せない犯罪なのか。
歌手のイ・ランの歌「オオカミが現れた」は、10月16日の釜馬(釜山と馬山)民主抗争43周年記念式で歌われる予定だった。行政安全部の介入で取りやめになったという問題が起きた。この歌では、苦しい身の上を訴えながら城門を叩く弱者たちにこのような非難が浴びせられる。「暴徒が現れた。オオカミが現れた」
キム・ソミン|自由寄稿家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )