近ごろの韓国は政治、外交、社会、経済と、ほぼ全分野で国家機能がまともに作動しない状態に陥っているようだ。このところの一連の事態は、韓国の国政運営システムに大きな穴が開いていることを傍証する。『目覚めてみれば先進国』という本が昨年話題を集めたが、今や「目覚めてみれば後進国」という言葉が人々の口から出るほどだ。
龍山(ヨンサン)の大統領室からわずか1.5キロしか離れていない場所で起きた惨事は、国家の不在を残酷にあらわにした事件だ。多くの人が集まる行事が行われるなら、事前に安全管理対策を立てておくのは基本中の基本だ。にもかかわらず、政府や地方自治体のいかなる組織も進んで引き受けようとはしなかった。惨事発生の4時間前から市民が切迫した危機信号を送っていたのに、それに迅速に反応する組織もなかったし、危機管理システムも作動しなかった。警察や地方自治体の責任者たちはいるべき場所にいさえしなかった。彼らを督励し調整すべきコントロールタワーである大統領室国政状況室と行政安全部中央災害安全対策本部の存在も見えなかった。
にもかかわらず、コントロールタワーの責任者たちは、自分の責任ではないとか(キム・デギ大統領室秘書室長)報告を受けていない(イ・サンミン行政安全部長官)などと言い訳し、責任転嫁に汲々とした。大統領制の国においては国政状況室が危機管理のコントロールタワーだということを知らない人はいないのに、それに責任のある秘書室長が自分の仕事ではないと言うのはあきれるばかりだ。イ長官は行政安全部に警察局を新設した張本人でありながら、警察に対する指揮・監督権限がないと図々しく言い逃れさえした。このような態度の人々がそのようなポストに座っているとは、不幸以外の何物でもない。
梨泰院惨事だけではない。経済分野でも官僚の対処の遅れが繰り返され、金融市場の不安をあおっている。キム・ジンテ江原道知事が触発したレゴランド発の債券市場の梗塞を、政府は1カ月近く放置していた。金融官僚たちもこのことは知っていたのに、誰も自分からは手を付けなかった。資金梗塞が拡散してようやくあたふたと「50兆+アルファ」の流動性供給対策を打ち出した。そのうえ、先週は興国生命が新種資本証券の早期償還(コールオプション)延期を発表したことが、債券市場を再び不安に陥れた。金融当局はこの発表を事前に知っていながら、何ら措置を取らなかった。今のように金融市場が薄氷の上にある時は、小さな危険要素であっても火種となってあっという間に危険が広がりうるということを知らなかったということなのか。
9日のキム・ジュヒョン金融委員長の釈明はさらに見苦しかった。同氏は「興国生命が11月1日にコールオプションを行使しないと発表した。問題になりそうだったので『興国生命は問題ない会社だ』と報道資料を配布した」とし、「だがそれでは釈明にならないように思われたので、あらかじめ準備してあった措置で対応しようということになり、11月9日にコールオプション履行を改めて推進したため、事態は解決された」と述べた。政府の対処の遅さが不安を増大させたということ自体を認めないという、だから何の責任もないという破廉恥な態度だ。
今、公職社会はネジが緩んでいるにもほどがある。国はめちゃくちゃなのに、官僚たちは天下泰平とすら言いたくなる。重大事案が起きる危険性が高いのに、誰も手を打とうとしない。だから外交惨事に続き、社会、経済分野でも相次いで大きな事件が発生するのだ。これは現政権勢力の国政遂行能力が根本的な限界に直面していることを傍証する。権力機関の核心を占める検察エリートたちは国政運営の経験すらなく、彼らが下位パートナーとして手を握ったモフィア(天下りした財務官僚)をはじめとする行政官僚たちは、権力中枢の顔色をうかがうことに汲々とし、本来の役割を果たしていない。
どうして国家システムが突然めちゃくちゃになり、国格の墜落すら心配しなければならない状況に陥ったのだろうか。最大の原因はリーダーシップにある。組織やリーダーは優先順位を決めて方向を提示し、その結果に責任を取るものだ。リーダーが万事に率先して範を垂れ、敏感な事案については自らが最終的に責任を取ると言って鼓舞、督励してはじめて組織は回るものだ。
巨大な官僚組織には、このようなリーダーシップがよりいっそう必要だ。尹錫悦大統領のように自らの責任を認めず、インナーサークルにいる人たちを保護しつつ責任を下部に押し付ければ、官僚たちは忠誠を誓わないだけでなく、保身に走る。火の粉が降りかかるのではないかと顔色をうかがいながら、保身ばかりに気を使うようになるのだ。梨泰院(イテウォン)惨事に関しても、大統領はまず国政の最高責任者として責任を痛感し、国民に公式謝罪を行い、そのうえで公職者を厳しく叱責すべきだったのだ。
2つ目は官僚集団の問題だ。かつての開発時代には、官僚は有能な集団として認められていたが、今は決してそうではない。すでに支配階級化しているため、庶民層の目線で世の中を眺めていない。国民との共感能力を示せていないハン・ドクス首相、キム・デギ秘書室長、イ・サンミン長官らエリート官僚出身者の態度にも、それがよく表れている。
尹大統領はこれまでの国政運営のあり方が誤っていることに気づき、換骨奪胎しなければならない。何よりも全面的な人的刷新が必要だ。大統領が過度に検察と官僚エリートたちに依存すれば、このような危機状況は繰り返し発生するだろう。進歩・保守を問わず力量があり経験豊富な人材を要職に登用し、政府のコントロールタワー機能を復元しなければならない。そうすることではじめて官僚組織が動き、国政安定の糸口を見出すことができるだろう。
パク・ヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )