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[コラム]サムスン捜査と尹錫悦の「親企業」

登録:2022-04-11 03:06 修正:2022-04-11 07:37
//ハンギョレ新聞社

 検察は先日、サムスン電子とウェルストーリーを家宅捜索した。公正取引委員会が昨年6月、サムスン電子などがウェルストーリーに社内給食を集中発注したとして2349億ウォン(約238億円)の課徴金を科し、告発してから9カ月たってのことだ。これまで動きを見せていなかった検察が尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足を目前にして捜査に着手したことは、微妙な波紋を呼んでいる。検察と尹次期大統領の事前の共感、または尹次期大統領の意を反映した「コード捜査」である可能性が提起されているのだ。

 財界は緊張している。国政壟断事件を主導した尹次期大統領と悪縁のあるサムスンは、すっかり萎縮しているようだ。ある役員は、「私たちには何も言えない。はらはらしながら捜査を見守るしか…」と言葉を濁した。検察は朴槿恵(パク・クネ)政権発足直後の2013年5月、大統領に「にらまれた」CJに対する捜査を突如として開始した。イ・ジェヒョン会長は数千億ウォンの秘密資金運用と脱税の疑いで起訴された。

 検察は不当な援助の疑いだけでなく、イ・ジェヨン副会長の経営権継承との関連性も調べている。サムスン電子などは2013年から2020年にかけて、グループの未来戦略室の介入の下、イ副会長一家の会社であるウェルストーリーに社内給食を集中的に発注していた疑いが持たれている。ウェルストーリーはこれを通じて毎年600億~800億ウォン(約60億7000万~80億9000万円)台の利益をあげ、サムスングループのオーナー一家が筆頭株主であるサムスン物産に4000億ウォン(約404億ウォン)近い配当金を支払っていた。不当援助の最終的な恩恵を受けていたイ副会長に飛び火する可能性もあるというわけだ。

 財界からは、サムスンに対する捜査は企業経営を萎縮させかねないとして、尹次期大統領の「親企業(ビジネスフレンドリー)」基調と相反するのではないかという不満が出ている。「ビジネスフレンドリー」を掲げていた李明博(イ・ミョンバク)政権が、任期中盤に突如として大企業と中小企業の「同伴成長」へと転じたことを思い起こす企業家もいる。当時、財界は「MB(李明博)政権が右のウィンカーをつけて左折している」と強い不満を示した。

 「親企業」政権の辞書的な意味は「企業と親しくするか、企業に友好的な政策をとる」政権だ。尹次期大統領は当選あいさつで「民間中心」の成長と雇用創出を強調し、文在寅(ムン・ジェイン)政権と差別化を図った。経済6団体との会合でも、現場の困難を理由とする重大災害法の緩和要求に応えた。

 しかし尹次期大統領は、大統領選挙での公約として「公正と常識の回復」を強調した。大統領選挙の過程でも「仕事の集中的発注など、市場の公正性を阻害する行為には断固として対処する」という意志を明らかにしている。検察総長時代にも、とりわけ公正な競争秩序の確立を強調している。就任演説では「刑事法の執行における最優先の価値は、公正な競争秩序の確立」だと述べている。私的な席で、競争秩序を害する恐れが最も大きな集団として大企業(財閥)をあげた、という裏話も聞こえる。尹次期大統領としては、古くて不必要な規制をなくして自由な企業活動を保障することと、企業の違法行為と反則を厳しく取り締まることは矛盾しないと主張するだろう。

 厳密に見れば「親企業」というのは実体があいまいだ。企業を否定するいわゆる「反企業」感情は、果たして韓国国民の中にどれくらいあるだろうか。むしろ国民は企業に友好的すぎる。財閥が不法不正を犯しても先進国のように企業の株価が暴落したり、不買運動が起きたりしたことがほとんどないほどだ。「親企業」は、虚構的イデオロギーである「反企業」との双生児なのだ。

 「親企業」は政策が目指すところも曖昧だ。大企業が中小企業にパワハラをすれば、政権はどのような態度を取るべきだろうか。大企業を厳しく取り締まるべきか、それとも中小企業の苦しみを無視すべきか。財界が「反企業」感情のせいで企業経営が大変だと主張するのは、自らの不法不正をごまかし処罰を免れるための詭弁に近い。保守政権もそれをよく分かっているはずだ。にもかかわらず選挙のたびに「親企業」を掲げるのは、「アカ」のように進歩勢力を攻撃するための手段として利用するためだ。

 尹次期大統領は、法治主義の具現化を目指して片方の手に剣、もう片方の手に天秤を持つ「正義の女神」を眺めながら、27年にわたって検事生活を送った。今や大統領として片方の手には「親企業」、もう片方の手には「公正」という決して調和が容易ではない2つの旗を持って出発しようとしている。果たして成功するだろうか。

クァク・チョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1038252.html?_fr=mt2韓国語原文入力:2022-04-10 14:50
訳D.K

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