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[コラム]「尹錫悦ドラマ」の重大災害

登録:2022-03-31 04:32 修正:2022-03-31 09:31
[編集局より]キム・ナミル|社会部長
キム・ヨンヒョン元合同参謀本部作戦本部長(右)が20日、大統領職引き継ぎ委員会の会見場で開かれた大統領執務室の龍山移転に関する記者会見で、取材陣の質問に答えている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 ドラマ『太宗李芳遠(テジョン・イ・バンウォン)』は、従来の大河時代劇のようにずるずると引っ張らない。誰もが知っている歴史的な事実を、目を見開いた顔のアップでカットして翌週に持ち越すというようなじらす演出は避けている。基本100回だった大河時代劇を32回に圧縮したせいもあるが、映画やドラマを2倍速で見る最近の視聴者のスピード感覚も反映したと思われる。

 李成桂(イ・ソンゲ)は放送開始から1カ月後には、威化島回軍でウ王を廃して高麗を倒した後、朝鮮を建国した。鶏龍(ケリョン)、舞岳(ムアク)、仁王(イヌァン)の風水を見て数年かかった遷都も、チャンネルを回したらすでに漢陽(ハニャン)になっていた。第1次王子の乱が終わったと思ったら、1週間後には第2次王子の乱まで速戦即決。三峰(サンボン。朝鮮建国の功臣、鄭道伝(チョン・ドジョン)のこと)を討った李芳遠が王位に就くと、すぐさま妻の閔氏との対立が迫る。近いうちに妻の家族を虐殺する場面が出てきても驚かないほどのスピードだ。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領による大統領執務室移転を見ていると、同じようにありえないほどのスピード戦だ。問題は、李芳遠並みの演出スピードを望む総製作者の意志と、実際の出来栄えは異なるというところにある。誰もかれもが演出を担い、皆が放送枠をくれと言うので、退く大統領にやってみろと言われても、なかなか進まない。言っていることは変わり続けるが、臨機応変で見当がつかない。車中泊が流行とはいえ、「非常用のマイクロバスで国家の危機管理をしてもかまわない」などという台詞は、誰が書いて持ってきたのか。しかも台本があがったのは直前ときている。国民との意思疎通という大義名分は台本から消え去った。エキストラになった国民は、「青瓦の公園(一般開放された大統領府=青瓦台のこと)に行きたくてたまらない人」その1、その2、その3を担当することになった。ロケ地が光化門(クァンファムン)から龍山(ヨンサン)に突然変わったから、セットはめちゃくちゃだ。尹次期大統領が示したずさんな鳥瞰図が大庄洞(テジャンドン)のマンションの分譲広告だったら、メジャーを持った検事が現場検証をしていただろう。虚偽・誇張広告でだましたとして、とっくに損害賠償判決も出ていたはずだ。

 尹次期大統領と文在寅(ムン・ジェイン)政権の驚くべき関係、夫を大統領にすることに熱を上げていた配偶者の問題、しきりに否定するからこそ余計に疑われる風水問題などを、ドラマに付け加えたがる物好きが多い。憲法裁判所は首都漢陽を守るとして憲法ではなく『経国大典』を読みふけったというが、大統領職引き継ぎ委員会は執務室移転のために衛星写真ではなく『擇里志(朝鮮時代の地理書)』をひっくり返しているのかも知れない。

 大統領選挙は5年の「まず分譲してから施工」契約だというが、着工前からこのような展開では困る。2014年4月、大統領府を北朝鮮の超小型無人機が撮影していたことが明らかになったとき、「朝鮮日報」は北朝鮮の対南宣伝メディアの内容を引用してこのように報じた。「大統領府(青瓦台)は北岳山の南麓に位置しており、長距離砲や弾道ミサイルで攻撃するのは事実上不可能だ」。北朝鮮も本当に良い所に建てたと認めた大統領府を捨てて、四方がぽっかりと空いている国防部に執務室を移そうとしている人たちのうち、尹次期大統領の出身高校の1年先輩であるキム・ヨンヒョンがいる。朝鮮日報がブリキの無人機に国が滅ぼされるかのような記事を書き立てたとき、朴槿恵(パク・クネ)大統領は結局「防空網に問題がある」と叱責した。その責任者のうちの一人が当時のキム・ヨンヒョン首都防衛司令官だった。彼は今や大統領警護処長、国防長官として名があがっている。

 北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が予告されている状況であるにもかかわらず、国防部と合同参謀本部は中途半端な騎馬姿勢の苛酷行為を強いられている。いますぐ引っ越しの荷物をまとめることもできず、かといって座して何もしていないように見えてもならないという、難しい状況だ。何であれ早く結論を出してくれと思いながらじりじりと待つばかりだ。訓示で何百回も安保と騒ぎ立てていたはずの元将官たちまで国防部の引っ越しに賛成しているのだから、ふらふらになった軍人たちの口から皮肉が飛び出すのも無理はない。

 暦によれば、ちょうど5月10日は“鬼がいない”とされる縁起のいい日だ。だから引っ越しの日としてあのように固執するのかと思ったりもする。全国経済人連合会(全経連)傘下機関は、執務室移転の経済効果を3.3兆ウォン(約3320億円)と推定している。かつての経済団体は、振り替え休日制の導入によって年間で休日が3.3日増えれば、働けない日によって32兆ウォン(約3兆2200億円)の損失が出るとして反対した。1年で姿を消した計算法だ。

 やっつけで書いた台本の連続ドラマがすべて粗悪というわけではない。ただし、見る人は2倍速でも作る人はそうであってはならない。養生期間を取らない無理な工期の短縮は、重大災害へとつながるものだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ナミル|社会部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1036841.html?_fr=mt2韓国語原文入力:2022-03-30 15:47
訳D.K

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