「大統領府には絶対に入らない」と宣言した尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領は、就任後、勤務時間にはソウル通義洞(トンウィドン)の当選者執務室、退勤後は瑞草洞(ソチョドン)の自宅で過ごし、有事の際には大統領府の地下バンカー(国家危機管理センター)を活用すると明らかにしたことで、危機状況で迅速に対処できるのかという批判が高まっている。尹氏側は現在、当選者の業務空間である金融監督院研修院(通義洞)で、「龍山(ヨンサン)への移転」まで執務する計画だが、警護やセキュリティのための追加費用はかけないとしている。「執務室移転の速度戦」に伴う費用を最小限に抑えるためと説明しているが、国家安全保障を脅かす結果につながる可能性があるとして、懸念の声もあがっている。
瑞草洞の自宅から大統領府のバンカーまで30分以上
尹氏側のキム・ウンヘ報道担当は22日午前に行った記者会見で、「(尹次期大統領は通義洞の執務室へ)瑞草洞の自宅から通う可能性が高い」と述べた。尹氏が大統領府で生活することを拒否しているため、龍山に執務室が移転されるまで、瑞草洞の自宅から通義洞の執務室まで通勤するということだ。
大統領がソウル市内で12キロメートルの距離を毎日通勤するのは、警護や安全だけではなく、市民に不便を強いる問題が発生する可能性があるが、より重要なのは仕事が終わってからの状況だ。大統領は国家安保の責任者であり、安全保障上の危害や災難の状況は時を選ばず発生する。尹氏の瑞草洞の自宅から大統領府国家危機管理センター(地下壕)までの距離は約11キロ。普段は約30分の距離で、交通規制をするとしても、大統領府官邸から地下バンカーに移動する時(1分前後)より対応が遅れるのは必至だ。
軍事専門家のキム・ジョンデ前正義党議員は、「合同参謀議長は大統領の命令を待つしかない。大統領が車の中で移動しながら指示することも考えられるが、安保施設で状況報告を受けて指示するのとは大きな違いがある」とし、「有事の際は問題になるだろう」と述べた。瑞草洞の自宅から大統領府までヘリで移動することもできるが、瑞草洞周辺のヘリポートにヘリが到着する時間まで考慮すれば、移動時間の短縮には限界がある。元大統領府警護処長は「瑞草洞周辺にヘリに乗れる場所はあるが、非常に大きな騒音が発生する可能性がある」とし、「車による移動の方が容易だろう」と述べた。
通義洞の執務室から大統領府までは自宅より距離が近いものの、大統領府の執務室から移動するより複雑で、さらに時間がかかる。大統領府で勤務した経験のある人物は、「大統領府内で移動するよりもさらに3~4分はかかるだろう」と述べた。
通義洞の執務室、警護とセキュリティの面で「脆弱」
尹氏が現在使っている金融監督院研修院(通義洞)の執務室は、大統領専用の空間ではないため、セキュリティが脆弱にならざるを得ない。ここは、5年に1度、大統領就任を控えた次期大統領に提供された空間で、防弾ガラスや盗聴防止施設は備わっていない。尹氏が大統領としてここに滞在する場合、セキュリティや警護のレベルを上げる必要があるが、大統領職引継ぎ委員会の関係者は、「次期大統領は『自分のために金をかける』タイプではない。貴重な税金を使う必要はないと言っていた」と述べた。文在寅(ムン・ジェイン)政権が「龍山執務室への移転」にブレーキをかけたことで、就任後も通義洞執務室に留まることになったが、それに伴う追加費用の支出はないという点を強調しているのだ。
しかし、大統領執務室の警護やセキュリティ水準を高めなければ、重要機密が漏れたり、大統領の安全が脅かされる可能性がある。韓米連合軍司令部副司令官出身のキム・ビョンジュ共に民主党議員は、本紙との電話インタビューで、「次期大統領と大統領の身分は全く異なる。大統領の安危は国家の安危であり、防護ができる環境で指揮し、勤務することは当然のことだ」とし、「防護や警戒がしっかりしていない所で勤務するとうのは、あり得ないことだ。そうなれば、大統領としての役割を果たせないのではないか」と語った。