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[コラム]「韓国上位所得12%」の目に映った「大庄洞事態」

登録:2021-10-08 03:58 修正:2021-10-08 09:21
京畿道城南市大庄洞の開発事業特恵疑惑を捜査している検察が先月29日、同開発事業の施行会社である火天大有資産管理の本社を家宅捜索している=共同取材団//ハンギョレ新聞社

 秋夕(チュソク、陰暦8月15日の節句)の連休のことだった。1カ月に2回ほどやむをえない用事に使う16年物の小型車に乗って、我が家族は家を出た。出てすぐに信号に引っかかったところで、焦げたにおいが車内に染み込んできた。助手席側の後輪の方から煙が立ち昇っていたのだ。車を道路わきに寄せようと思って、私は周りを見回した。黒い艶消しのドイツ製の高級車に取り囲まれた真ん中に、うちの車は透明な卓上用の金魚鉢のようにぽつんとあった。初心者ドライバーの次女は、ハンドルを握ったまま驚いた金魚のように凍りついている。私はどうにかして奮い立たせたかったので、次女にこう言った。「ビビるな!うちの車は上位12%だぞ!」

 私は、正確に言えば「私たちの世帯」は、政府が公認する韓国の上位所得12%に含まれる。築25年の20坪ちょっとのマンションに住んでおり、ユン・ヒスク前議員とは異なる「純粋な賃借人」だ。伝貰(チョンセ。契約時に一定金額の保証金を賃貸人に預ける)のローンはあと5年で終わりが見える。暗号通貨どころか株一つ持ってない。所得水準で言えば、私が「上位12%」に含まれるため政府の第5次コロナ災害支援金をもらえなかった、ということを耳にした人々が「まさか!」と疑いまではせずとも「ご冗談を!」(半信半疑)といった反応を示す程度だ。一山(イルサン)新都市の端に住んでいるおかげで、京畿道から支給される災害基本所得はもらうことができたが、私の暮らし向きを知る人たちは、政府が私に与えた地位に憤慨したり、首をかしげたりする。

 政府の算式が正しければ、私と長女の健康保険料の合計が2人世帯の上位12%内に入ったという話だ。長女はヘアデザイナーと呼ばれる特殊雇用労働者で、国民健康保険に入っている。次女は住所が学校の寮なので、世帯構成員数からは除かれる。政府の考えでは、うちは共働きの2人世帯だ。相対的に経済力が過大評価される余地がなくはない。それを知りつつも、長女の所得がどうしても気になったので、気まずさに耐えながら聞き出した。我が家の“非常に高い地位”に対する彼女の貢献度は、私よりも著しく低いことが確認された。あぶなく家庭不和を招くところだった。

 私は政府が小細工したとは思わない。いや、私は主観的な感覚よりは富裕層なのかも知れない。二極化時代の構図を1対99と見るか、20対80と見るかを論争する時代だ。平均ではなく百分位で並べれば、20%どころか12%に入ったとしても驚くにはあたらない。コロナ禍で崖っぷちに立たされた400万の自営業者は、私の後ろにずらっと並ぶはずだ。私が市民団体の活動家や若年層との付き合いが多いというのもあるが、私的な会合では費用を出す際に自主的に「正規労働者加算金」を付け加え、多く払ったりもする。要するに、韓国国民の多くは私より貧しい。

 それでも、政府が私を災害支援金の支給対象から除外したことには同意できない。数式がいくら正確であっても、妥当性がなければ単なる「数字遊び」に過ぎないからだ。今の福祉予算の規模では、普遍福祉だの選別福祉だのという論争そのものが欺瞞的だ。韓国の国内総生産(GDP)に比べた公共社会福祉支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)の平均の半分にも満たない。コロナ禍での財政支出を見るとさらに悲惨だ。GDPに比べた韓国の支出は3.4%だ。米国は16.7%、日本は15.6%にのぼる。比べものにならない。

 先日、「週刊京郷」がその違いを実感できるように比較した。フランスのパリ、米国のアトランタ、カナダのトロント、日本の東京で食堂を営む4人のコリアン同胞が受け取ったコロナ支援金は、韓国ウォンで換算すると1億1000~2億8000万ウォン(約1030万円~2620万円)だった。同じ期間に忠清南道天安(チョナン)で大きなカフェを経営する人が受け取ったのは600万ウォン(約56万1000円)。今年7月、国連貿易開発会議(UNCTAD)は満場一致で韓国の地位を開発途上国から先進国に格上げした。このような事例はUNCTAD史上唯一だ。しかし同時に、韓国はコロナ禍で国民の生存を無視した唯一の先進国だ。

 社会福祉学者のユン・ホンシク氏は、近著『異常な成功』の中で、韓国の成功要因と将来の罠となる要因は一つであると力説している。すなわち「各自道生(各々が生きる道を切り開くこと)」だ。韓国の国民は、国民年金より個人年金にはるかに多くの金を納めている。政府の役割が決定的だ。私保険に入ればきっちり所得控除してくれるのだ。数年前に私は、給料から差し引かれる所得税を会社の基準の120%に引き上げた。年末調整のたびに100万ウォン(約9万3500円)前後を追加で払うのが嫌で見出した窮余の策だ。知り合いの税理士に聞いてみたら、私保険が全くないことをまず指摘するのだった。国は各自道生に無関心な私を懲罰するのだ。

 韓国国民にとって各自道生の最前線は何と言っても不動産だ。老人から若者まで万人対万人が繰り広げるこの闘争において階級が決まる。住宅を持たない者は「賃借人」という法律的身分でもなく、地代に無関心な愚か者でもない。住宅所有者になるまでは延々と収奪される植民地の下層階級だ。朴槿恵(パク・クネ)政権の経済副首相だったチェ・ギョンファンは国民に「借金して家を買え」と煽った。国民の住居生存権に国は存在しないということを象徴的に宣言するものだった。政府がいくら私に「上位12%」という王冠をかぶせても、私は「異常な先進国」の貧困層だ。

 このような国において、大庄洞問題は、はたしてそんなに気力が萎えるようなことなのか。私の目には、土建カルテルが単に変則的な技術を使ってみせた、少々特異なだけのケースに映る。

//ハンギョレ新聞社

アン・ヨンチュン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1014284.html韓国語原文入力:2021-10-07 16:26
訳D.K

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