サムスン電子のイ・ゴンヒ会長が25日に死去した。2014年5月、急性心筋梗塞で倒れ、意識を失ったまま6年5カ月にわたり入院治療を受けていが、ついに世を去った。故人の冥福を祈る。
イ会長は、文字どおり栄辱が克明に交差する人生を送った。半導体と携帯電話の分野で先駆的な投資・開発を行い、サムスンをグローバル一流企業に育てあげ、韓国経済の発展に貢献したが、一方では政経癒着、違法な経営権継承、無労組経営などで韓国社会に暗い影を落とした。これこそ、イ会長の死去が、一財閥のトップが生涯を終えたこと以上の意味を持つゆえんだ。
イ会長は1987年にグループの会長の座につき、サムスンが韓国の代表企業を超え、世界的な企業へと成長する過程を率いた。インターブランドの2020年の調査によると、サムスン電子のブランド価値は623億ドル(約71兆ウォン)と、アップル、アマゾン、マイクロソフト、グーグルに次いで世界5位。就任当時の「サムスンを世界的超一流企業に成長させる」という約束を守ったわけだ。
イ会長が成し遂げた経営成果の背景を語る時、第一に挙げられるのは1993年の「新経営宣言」だ。ドイツ・フランクフルトに主な経営陣を呼び寄せた席で、量中心から質中心への「品質経営」へと変えるべきだと注文したのがこの時だった。当時、この宣言は「妻子以外はすべて変えよう」という言葉として広く人口に膾炙された。品質経営が強調され、サムスン製品の競争力は目覚しい飛躍を遂げた。もちろん、今のサムスンは役職員の献身と国民的な声援があったからこそ可能だったものだが、イ会長の決断と革新がなければ不可能だったはずだ。
しかし、こうした成果の裏には多くの脱法や便法が色濃く影を落としている。何よりも創業者だった父親のイ・ビョンチョル前会長以来の、裏金による政経癒着を続けてきたことは、ぬぐえない汚点だ。また、「サムスン共和国」という言葉が示すように、金を前面に押し立てて法曹界、マスコミ、学界などに絶大な影響力を行使し、韓国社会のあらゆる部分を病ませた。「サムスン奨学生」という屈辱的な造語はその象徴だ。労働組合設立を妨害し弾圧してきた「無労組経営」は、労働者を深く傷つけ、苦しめてきた。
違法・便法的経営権継承問題は現在進行形だ。イ会長本人が公益法人を通じて変則贈与を受け、息子のイ・ジェヨン副会長をはじめとする3人の子どもも税金なしの世襲を行い、多くの物議を醸し、指弾を受けた。韓国を代表する企業として財界全体の手本になるどころか、悪い先例となったわけだ。残念なことと言わざるを得ない。
いまやサムスンは、イ会長が成し遂げた成果を受け継ぎ発展させると同時に、暗い遺産を清算するという宿題を抱えることになった。国内外の経済環境がいつにも増して不確実なうえ、イ副会長が違法な経営権継承と国政壟断勢力に対する贈賄の疑いで裁判を受けている状況のため、決して容易ではない課題だ。それでもイ副会長や役職員には、これからは順法経営と責任経営を果たし、サムスンをさらに一段階飛躍させることを願う。