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インドが「世界の工場」中国に取って代わるという幻想

登録:2023-07-10 06:55 修正:2023-07-10 22:40
[ハンギョレS]地政学の風景 インドと「第2の中国」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とインドのナレンドラ・モディ首相、中国の習近平主席(左から)が2016年10月、インドのゴアで開かれたBRICS首脳会議の開始に合わせ、集合写真を撮るために集まっている/AP・聯合ニュース

 インドのナレンドラ・モディ首相が米国を国賓訪問した6月22日、ニューヨーク・タイムズは、インドがウクライナ戦争後、ロシアと西側の間で中立を守りながら、いかに多くの利益を得ているかを報じた。

 ロシア産原油をほとんど輸入していなかったインドは、ウクライナ戦争で西側がロシア産原油の禁輸制裁を科すと、自国に輸入される石油の45%にあたる1日あたり200万バレルをロシアから輸入するようになった。インドは、ロシア産原油を市場価格より安く輸入し、輸出までして差益を得ている。ロシア産原油を精製し欧州や米国にまで輸出することで、事実上「ロシア産原油の洗浄」の役割まで果たしているわけだ。

 ロシアに科した西側の制裁が無力であることの理由の一つは、中国だけでなくインドもロシアとの交易などの協力をよりいっそう拡大したためだ。それでも米国はモディ首相を招待し、防衛・クリーンエネルギー・宇宙分野などで協力関係を結び、歓心を買うために必死になっている。米国メディアも、モディ首相は国賓訪問中も最高級の待遇を受けたと評し、米国のジョー・バイデン大統領は「私たちの最も重要な関係の一つ」だと述べた。

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インド経済の奇跡、30年目で「期待」のみ

 米国と中国の戦略的対決が激しくなるにつれ、インドは米国にとって最も重要な地政学的変数に浮上した。米国は中国をインド太平洋全域で封じ込めるというインド太平洋戦略を採択し、インドは世界の地政学の対決の行方を左右する国になった。またインドは、米国の中国に対するサプライチェーン再編の試みによって中国を離れる企業の新たなメッカとして注目されている。インドは今年、中国を抜いて世界最大の人口を持つ国となり、情報通信分野では豊富で良質な労働力が存在する。一言でいうと、インドが第2の中国になれるという期待だ。

 米中対決は避けられないと主張する著書『米中戦争前夜』で有名な、対中国保守強硬派であるハーバード大学のグレアム・アリソン教授は6月24日、米国誌「フォーリン・ポリシー」に「インドは中国を追い越して次の超大国になれるか」と題する寄稿を書いた。アリソン教授は寄稿文に懐疑的な見解を込めた。

 インド経済の奇跡は1990年代初めから期待されているが、現在でも期待だけに留まっている。2000年の中国の製造業・輸出・国内総生産は、インドに比べ2~3倍の規模だったが、現在は5倍にまで格差が広がった。中国の国内総生産(GDP)は17兆7000億ドル、インドは3兆2000億ドルだ。特に、2000年時点での中国の世界における製造業の割合は概算で7%、インドは1%だったが、2022年には中国は31%に成長し、インドはたった3%だった。世界における商品輸出の割合でも、中国は2%から15%に急増したが、インドは1%から2%に増えたに過ぎなかった。

 反対に、中国の文盲率は1%であるのに対し、インドは25%だ。インドの人材が豊富だとされる情報通信分野においても、中国に対しては力不足だ。世界の20大先端技術企業のうち4社が中国企業だが、インドは1社もない。中国は世界の5G通信施設の半分を担っているが、インドは1%だ。中国はTikTokなど全世界を相手にするプラットホームを保有しているが、インドは皆無だ。

 アリソン教授は、こうした統計や現実を取り上げ、シンガポールのリー・クアンユー元首相の評価を引用した。インドと長きにわたり関係を持ったリー元首相は、根深いカースト制度、蔓延する官僚主義、人種・宗教対立とそれに対する指導者層の解決意志のなさによって、インドは「未来の国」になれないと判断した。「インドと中国をつなげて話すな」というのがリー元首相の結論だ。

 インドは最近、地政学的状況によって昨年は7%の高度成長を示し、「約束の土地」と呼ばれるようになった。だが、これも統計的な錯覚だとする指摘が出ている。インドはコロナ禍によって、他のどの開発途上国より深刻な景気後退を経験した。2019年と比較すると、2022年下半期のGDPは7.6%増えた。すなわち、2022年の7%成長の勢いは、その前年にマイナスに近い成長をした後に反発したベース効果にすぎない。

 インド政府の首席経済顧問を担ったブラウン大学のアルビンド・スブラマニアン先任訪問学者は昨年11月、米国誌「フォーリン・アフェアーズ」に書いた「なぜインドは中国に取って代わることができないのか」と題する寄稿で、2000年代初めからインド投資ブームが盛り上がっているが、外国企業がインドに生産を移転したケースは少ないと指摘した。投資リスクがあまりにも大きいためだ。投資する時の政策が後になって変わり、投資した後にも政府が好む巨大インド財閥に有利になるよう規則を変えるという理由からだ。

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地政学的価値の上昇で「一石二鳥」

 インドが米国の対中国戦線に参加するという期待も幻想だとする指摘も多い。ウクライナ戦争で示したインドの「一石二鳥」戦略は、米中対決の戦線でも違いはないということだ。カーネギー国際平和財団のアシュリー・テリス先任研究員が5月にフォーリン・アフェアーズに書いた「インドに対する米国の誤った賭博――ニューデリーは北京に対抗するワシントンに味方しない」と題する寄稿が話題になった。テリス氏は2000年代、ジョージ・ブッシュ政権が原発技術の提供などを通して米印関係を「戦略的パートナー」に格上げした際に参加した経歴がある。テリス氏は「インドはワシントンとの協力が(インドに)もたらす利益を評価はするが、その代価として、いかなる危機の局面においても米国を物質的に支援しなければならないとは考えていない」と断言した。特に、インド太平洋で米国が指向する対中国合同作戦を意味する「相互作戦」という概念は、決して受け入れられないだろうと強調した。

 この寄稿後、インド政府当局者も公式にそのような基本方針を確認した。テリス氏とともにテレビ討論に出たインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相も、「同盟を求めて全世界を検索する米国のような国と(インドに)は違いが存在せざるをえない」として、「オーストラリアと日本は米国と同盟関係にあるが、インドは単なるパートナー関係だ。米国とインドは、そのような関係を維持することが望ましい」と述べた。

 スタンフォード大学の研究者のアルザン・テラポレ氏も「インド太平洋で最善の米国の賭け」と題する反論寄稿で、「米国は、インド洋でインドの軍事・経済的な能力の伸張を助けることだけでも最善」だと述べた。過剰に評価されたインドの脆弱性、そしてインドが米国・中国・ロシアの3カ国の間で徹底した等距離外交によって最大限の実利を得ることは、コインの裏表だろう。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1099287.html韓国語原文入力:2023-07-09 22:15
訳M.S

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