ウクライナをめぐりロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対峙が続く中、ロシアが核兵器を使う可能性をちらつかせたことで、核戦争に対する懸念が高まっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻初日の2月24日、「誰を問わず、われわれを妨げ、あるいはわが国と国民に脅威を与えた場合、ロシアは直ちに対応し、その結果は歴史上一度も経験したことのないものになるだろう」と述べた。核を直接取り上げたわけではないが、米国などはこれを事実上の「核兵器による威嚇」として受け止めている。プーチン大統領はそれから3日後、核運用部隊に「特殊警戒態勢」への突入を指示し、脅威のレベルをさらに高めた。先月26日には、ロシアのドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長が乗り出した。同氏はロシアメディアとのインタビューで、ロシア軍の核使用条件について、ロシアと同盟国が核攻撃を受けた場合▽ロシアの核抑止戦力インフラが攻撃を受けた場合▽ロシアと同盟国の存立が危うくなった場合など具体的に示した。
1945年8月、日本の広島と長崎に原爆が落とされて以来、核戦争の懸念が高まったのは今回が初めてではない。核保有国のインドとパキスタンが2000年に武力衝突した時、世界は両国間の「通常戦争」が「核戦争」に飛び火するのではないかと神経を尖らせた。1973年のイスラエルとアラブ諸国のヨム・キプル戦争(第4次中東戦争)の時もイスラエルが核兵器の配備を準備していたことが分かり、波紋が広がった。もう少し時間を遡れば、旧ソ連が1962年、キューバで核基地の建設を進めたことをめぐり、米国と旧ソ連が核衝突の一歩手前まで近づいたこともあった。
核兵器の使用の可能性をちらつかせたプ―チン大統領の発言以降、米軍は監視衛星などを動員し、ロシアの核基地を綿密に監視しているが、まだロシアが実際に核の使用を準備している情況はないという。米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は先月23日、「我々の核態勢を調整すべき何の理由も見つからなかった」と述べた。そのため、プーチン大統領の発言は直ちに核を使用しようとするよりも、米国とNATOがウクライナ戦争に介入することを防ぐための「威嚇」である可能性が高いとみられている。
核使用の敷居を下げたロシア
しかし、専門家らはプーチン大統領の発言を単なる「脅し」と考えてはならないと警告する。ウクライナ戦争が思い通りに解決せず、ロシアが窮地に追い込まれた場合、核使用を実際に検討する可能性があるとみている。ドイツ・ハンブルク大学のウルリッヒ・キューン教授は、「ウクライナ戦争がロシアに不利になり、西側の制裁と圧力がさらに強くなっているため、ロシアが核を使用する可能性は依然として低いものの徐々に高まっている」と分析した。
このような懸念の声があがっているのは、1989年の冷戦解体後、ロシアが核使用の敷居を下げる方向に核戦略を変えてきたためだ。米ソ冷戦時代、核兵器は手をつけてはならない最終手段という認識が強かった。米ソが熾烈な核兵器競争を繰り広げた結果、米国は広島に使用した原爆(TNT15トン規模の威力)より1千倍、旧ソ連は3千倍も強い核兵器を開発した。このような状況で核戦争を繰り広げた場合、共倒れになるという恐怖、いわゆる「相互確証破壊」(MAD)が働いた。旧ソ連は1982年、核の先制使用の放棄を公式宣言した。
このような状況は、1991年末に旧ソ連が解体され、経済難に陥ったロシア軍の通常戦力が急激に悪化したことで、劇的に変わった。米軍は湾岸戦争などで精巧な監視・偵察や情報・通信、精密誘導兵器など最先端の軍事力を誇示したが、ロシア軍はチェチェンとジョージア戦争で通常戦力の弱点を露呈した。これを受け、ロシア軍は米軍に大きく遅れを取っている通常戦力を補完するため、核兵器に対する依存度を高める軍事戦略を立てた。
ロシアは1993年、核先制不使用政策を正式に廃棄し、2000年代以降は敵国のどのような攻撃に対しても核を使用できるという点を明確にしてきた。ロシアは2010年の軍事ドクトリンで敵が核ではなく通常兵器で攻撃しても、「国家の存立が脅かされた時」は核兵器を使用できると明らかにし、2020年の軍事ドクトリンでは「核兵器を抑止力のためだけの手段とみなす」と付け加えたが、依然として使用オプションを比較的幅広く規定している。(2に続く)