国際通貨基金(IMF)の筆頭副専務理事が、ロシアに対する制裁により米国ドルの支配力が弱まると予想した。一方、暴落したロシアの通貨ルーブルの価値は明らかな回復傾向を示し、制裁をめぐる米国とロシアの貨幣の地位や価値について、やや逆説的な状況が生じている。
IMFのギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は、3月31日付の「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで対ロシア制裁に言及し、「ドルは主要なグローバル通貨として残るだろう」としながらも、「小さな水準での分裂は確かにありうる」と述べた。
ゴピナート筆頭副専務理事は、このような予想の根拠として、対ロシア制裁を見守っていた一部の国々が、貿易代金を他の通貨で受け取ろうと再交渉に乗り出しているという点を挙げた。米国などが国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの金融機関を排除し、外国に預けられていたロシアの外貨準備高を凍結したことをみて、ドル偏重から脱しようとする動きが強化されているということだ。
似たような動機により、デジタル貨幣の使用が促進されているのも、最も強力な基軸通貨であるドルの地位を揺さぶりうる要因として議論されている。貿易取引でドルの使用が減れば、各国の外貨準備高に占めるドルの割合も減る可能性が高い。中国の経済的浮上など他の理由によっても、ドルの相対的地位はすでに低くなっていた。IMFは最近の報告書で「世界の中央銀行の外貨準備高に占めるドルの割合は、1999年の71%から2021年には59%に減少した」と明らかにした。
一方、波状的な制裁により、ドルに対する価値が半分へと大幅に下がっていたロシアの貨幣ルーブルは、ほぼウクライナ戦争開始前の水準に回復した。ロイター通信は、ルーブルの急速な価値回復には、ロシア政府の資本統制と輸出企業に対する為替売却指示などの非常措置の影響があると分析した。ウクライナとの平和交渉が進展をみせているという知らせが、ルーブルの価値を押し上げているという評価もある。
何より、欧州諸国がロシア産エネルギーを買い続けていることが、ルーブルの価値の安定化に寄与しているとみられる。欧州のロシア産の石油と天然ガスの輸入額は、一日約5億ユーロ(約680億円)に達する。米国のジョー・バイデン大統領は31日、石油価格の安定のための戦略石油備蓄の大量放出を発表し、「欧州が、石油をロシアに依存することなくエネルギー独立を成し遂げていると仮定してみよう」と述べた。欧州のエネルギー依存が、ロシアに対する抑制強化の限界として作用しているという認識を示したものとみられる。
貨幣価値の暴落を根拠にロシアが金融危機に陥ったとしていた米国にとっては、ルーブルの価値急騰は困惑する部分だ。総外貨準備高6300億ドル(約77兆円)のうち半分ほどが西側諸国により凍結され、ロシアの為替レート防御は極めて困難だろうという予想も出たが、結果的にはそうなっていないためだ。
米国は、このような理由のため、制裁の手綱をさらに締めるものとみられる。米国財務省で制裁を総括するウォーリー・アデエモ副長官が欧州を歴訪し、追加制裁を協議している。アデエモ副長官は、先月29日にロンドンで行った演説で、「ロシアの軍需物資のサプライチェーンに対する制裁を推進している」と明らかにした。