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韓国半導体の「足かせになった中国投資」、不幸なだけではない

登録:2023-10-20 08:00 修正:2023-10-21 19:41
クォン・ソクチュン教授の半導体技政学の時代  半導体戦争を再考する
2022年5月20日、韓国を訪問した米国のジョー・バイデン大統領が京畿道平沢市にあるサムスン電子の半導体工場の視察後の演説を終えた後、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長と握手している/聯合ニュース

半導体戦争は21世紀の経済を象徴する単語です。米国と中国の対立だけでなく、先端産業に向けての各国の競争を象徴するキーワードだからです。技術が国際政治の覇権を決めるとする「技政学」(techno-politics)の時代を迎え、韓国の半導体産業の戦略を振り返り、『半導体三国志』の著者である成均館大学のクォン・ソクチュン教授がまとめます。

 世界的なベストセラーになった『半導体戦争』(原題:CHIP WAR)の著者であるタフツ大学のクリス・ミラー教授と私は今年、2回対談した。韓国で開かれた通商法務フォーラム(6月)と世界知識フォーラム(9月)においてだ。実際にはフォーラムの開催前にオンライン・ミーティングを何度か行ったので、クリス・ミラー教授とはかなり多くの対話をしたといえる。

 『半導体戦争』は、1945年に米国の物理学者であるウィリアム・ショックレーが半導体現象を初めて発見したときから、最近の米中半導体戦争までを扱った本だ。こんにちの半導体覇権をめぐる強国の勢力争いなどを取り上げ、世界的に話題となった。

 ミラー教授の主専攻は国際政治と政治史だ。特に、旧ソ連の政治史・産業史が彼の主要な研究テーマだ。ミラー教授は、この本を書くために7年間勉強し、資料を収集・整理したという。研究の動機は、旧ソ連崩壊の過程において、旧ソ連の産業競争力がなぜ米国に後れを取ることになったのかから始まる。

 すでに多くの学者が旧ソ連の崩壊過程を産業経済史の観点から詳しく分析した論文にも示されているように、実際に旧ソ連が体制を半世紀程度しか存続できず崩壊することになった理由の一つは、産業競争力の面で米国との格差が広がったためだ。特に、産業技術の競争力と多様性という両面で、旧ソ連は米国に後れをとった。

 競争力の格差が深刻な水準にまで広がった分野が、まさに半導体産業分野だった。1970年代半ば以降、半導体産業で本格的なイノベーションの原動力として登場した集積回路(IC)の量産過程で、旧ソ連はコアテクノロジーの確保に失敗し、これが1980年代のコンピュータ産業の技術格差につながった。ミラー教授と私は対談を行い、一つの共通した意見を導きだした。半導体チップの量産工程は、まさに精密化学プロセス業界と装置産業が重なる分野であるため、生産装置の高度化と標準化がカギだったという点だ。

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韓国半導体は「半導体戦争」の人質なのだろうか

 しかし、『半導体戦争』で示されたミラー教授の現代の半導体産業に対する理解は、残念ながら限定的だった。ミラー教授の限界は、産業に対するディテールの量が足りないことではなく、ディテールを構成するつながりに対する把握が足りない点だ。他の産業も同じだが、半導体産業に対する理解が表面的な水準を越えるためには、それぞれ細かい産業の多彩な面のディテールが織りなす構造を把握することが重要だ。単に産業に関与するバリューチェーン(value chain)に対する理解が重要だという話をしたいのではない。政治経済的に、他の分野の産業技術に対する影響力の面において、さらには、外交安全保障的な面で複雑に織りなす構造の流れを把握することが重要だ。そして、今後の変動がこの流れにどのような影響を与えるのかを理解することも欠かせない。

 『半導体戦争』の出版後、ミラー教授の著書は、米国はもちろんアジア圏、特に半導体産業に対して国家的に関心が高い韓国、台湾、日本などでベストセラーになった。そのためなのか、東アジア各国は、ミラー教授を各種のフォーラムに迎えようと必死だった。これらの国のあらゆるメディアに、ミラー教授のインタビュー記事がよく登場した。多くの場合が、今後の国際情勢の変化、特に米中対立構造のなかで自国の半導体産業がどのような影響を受けるのかについて、ミラー教授の意見を聞き、自国の半導体産業が直面する危機を打開するための特効薬の処方と今後の展望を求めるかたちで構成された。

全世界の半導体産業を主導する中核となる企業=資料『2030 半導体の地政学』太田泰彦著、ソン・アンタン訳//ハンギョレ新聞社

 しかし、ミラー教授の回答はたいていの場合、通り一辺倒で常識的な水準に過ぎなかった。各国の半導体競争力の根拠と、その根拠が今後どのような変動に直面するのかに対する彼の洞察にも限界があった。これは、各国に対するオーダーメード型の処方を出すこと自体が、初めから無理にならざるをえないことを意味するものでもある。

 特に、元中小ベンチャー企業部のパク・ヨンソン長官との最近の対談で、ミラー教授が中国にある韓国の半導体会社のファブ(半導体チップ生産施設)について、「DRAM施設の人質化」とまで述べたことは残念だ。米中覇権競争が引き起こした転換期のなか、韓国の半導体産業の1次的な不確実要素の一つである、中国にある韓国のメモリー半導体企業のファブの状況が困難に陥っていることは事実だが、極端な水準にまで広がるとは考えにくいというのが私の判断だ。

 米中対立がより激化するはるか前から、中国は半導体産業での自給化(あるいは内在化)を第12次、第13次、そして最近の第14次経済計画の主要課題として常に設定してきた。特に、「半導体崛起」「中国製造2025」などを旗印に掲げ、様々な半導体チップのなかでも、汎用半導体であるメモリー半導体の自給化を優先的な目標に定めた。

 また中国は、韓国だけでなく、日本やドイツなど従来の製造業強国から輸入した多くの製品の国産化への転換を主な目標にした。実際、中国の製造業内在化政策が続く場合、経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち最大の損害を被ることになる国は、韓国、ドイツ、日本だ。中国の半導体市場が拡大するといっても、かつての2000~2010年代のように、中国市場で巨額の収益を稼ぐことはもはや当然のシナリオではなくなった。

 ただし、米中対立が本格化したことで、その時期が予想よりも早く近づいただけだ。これは必ずしも不幸なことではない。中国への現地投資がより多くなされる前に、不確定要素として作用したカードの一つが先にテーブル上で公開されて消えているためだ。

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転換期における韓国半導体産業の戦略は

 現時点では、中国現地で稼働中の韓国のメモリーファブの最も適切な対応は、自然な減価償却を経て、ファブの転用(transform)または一部移転をすることだ。これを通じて、中国現地のメモリーファブの不確実性を減らすことができる。ソフトウェアに集中する普通の情報通信(IT)企業とは違い、半導体ファブは、1つのラインに1000を超える装置が入っており、これらの価値は、都合数兆ウォン、数十兆ウォンに達する。

 これら半導体生産・パッケージング・検査機器は、他の重化学工業あるいは装置産業の装置とは違い、減価償却率が高い。これは、生産装置を24時間365日稼動するためだが、そもそも性能向上を続ける半導体チップ生産のための装置のアップグレードの周期が他の産業よりはやいためでもある。

 例えば、自動車生産工場では、新モデルを発売するからといって生産装置を交換したり、ラインを一新することは滅多にない。もちろん、内燃機関車から電気自動車(EV)に向かう革命的な変化においてはありうるが、そう頻繁にあることではない。たいていの場合は、工業用ロボットを新しいものに交替したり、溶接機を新型に交換する程度で生産施設のアップグレードが可能だ。この周期でさえ、モデルを変える周期と常に連動するものでもない。

 一方、半導体産業では、チップのアップグレードには新規の生産装置導入が伴う。新チップの生産のためには、装置もそれに応じて性能が改善される必要があるが、部分的なアップグレードよりも丸ごと新世代の装置を持ってくるほうがはるかに効果的だからだ。そのため半導体産業では、定期的に訪れる莫大な装置取替費用(装置価格×装置台数)を賄えるくらいのキャッシュフローが確実で安定的でなければならない。キャッシュフローが一時的に悪化する場合に備え、内部留保の現金も十分に積んでおかなければならない。現金の準備が不確実になると、装置交換の周期を逃すことになり、それによってチップのアップグレードの時期を逃すことになり、市場での支配力が落ちる。これは未来のキャッシュフローにも悪い影響を与えることになるため、結局は悪循環に陥ることが避けられなくなる。

 中国の工場に先端半導体の製造装置を導入するのが難しくなった韓国企業の課題だ。次回はこの課題解決のための方法について論じる。

//ハンギョレ新聞社

クォン・ソクチュン|成均館大学教授(化学工学部、半導体融合工学部) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/economy/global/1112725.html韓国語原文入力2023-10-19 09:42
訳M.S

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