「大韓民国営業社員第1号」を自任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の今回の訪米は、122人の大規模な経済使節団が同行するなど、「経済外交」にも重点を置いて始まった。だが、5泊7日の日程を終えた後に得られた経済セクターの成績表には疑問符が付く。「韓米サプライチェーン」協力を強化し、先端産業での技術協力を強固にしたという点で評価できるところはあるが、これにより、韓国の最大の貿易相手国である中国の反発を強めかねないという火種も残したためだ。インフレ抑制法(IRA)や半導体支援法(CHIPS法)など韓国企業が頭を悩ませている懸案に対する具体的な解決策は引きだせないまま、実務交渉にボールを渡した点については、やはり残念に感じられる。
先月30日、大統領室や企画財政部、産業通商資源部などは、今回の尹大統領の訪米を通じて、半導体やバッテリーをはじめとする先端産業での韓米サプライチェーン協力がよりいっそう強化されたと意味付けした。企財部は、この日公開した報道資料で「自由市場経済の原則と価値を共有する両国が、先端産業のサプライチェーンにおいても強固なパートナーシップを構築することにしたことは、今回の訪米の最大の成果の一つ」だと明らかにした。さらに、ネットフリックスから今後4年間で25億ドルの投資を誘致するなど、米国企業から合計59億ドル(約8100億円)規模の投資の約束を得られ、両国の機関・企業間の協定書(MOU)も50件締結するなど、半導体やバッテリーなどの先端産業での技術協力を強化したという点も成果に挙げた。
韓国政府が強調する韓米サプライチェーン協力強化は、むしろ対中・対ロシア経済交流における韓国と韓国企業の身動きの幅がさらに狭まる結果につながりかねないという懸念を残した。特に韓国と輸出入規模が最大である中国との貿易における不確実性が強まり、さらに、中国の反発も拡大する可能性がある。韓国貿易協会の資料によると、昨年時点での韓中貿易の規模は3100億ドルで、韓国の総貿易に占める割合は21.9%に達する。韓米貿易の規模の割合は13.%。実際、中国の反発の兆候はすでに生じている。中国官営メディアのグローバル・タイムズはこの日、「韓国政府は『圧倒的な親米政策』を展開している」とし、「韓国が経済と安全保障の側面で体験することになる損失は、米国が提供する保護や投資より大きい」と報じた。
かといって、米国の自国優先主義政策に対する実現可能な水準の解決策も、今回の首脳会談の結果には含まれなかった。10月に満期となる中国に対する半導体装備数の規制の猶予措置について、韓国政府は「根本的措置を取ってほしい」と米国に要求したが、実務交渉へと棚上げされてしまった。米国のIRAやCHIPS法についても「緊密な協議を継続する」という原則的な立場を再確認するだけで終わった。
半導体産業構造先進化研究会のノ・ファウク会長は「米国は、経済安全保障という新しいネットワークを作り、そのネットワークに韓国の半導体とバッテリー産業は取り込まれてしまった。これまで暗黙的に維持されていた政経分離原則が崩れ、韓国企業と経済はグローバル政治の変数に巻き込まれることになった状況」だとし、「(韓国政府が)経済安全保障論を強調して米国側の列に並び、韓国企業と経済が人質にとられてしまった状況」だと述べた。韓国企業の中国とロシアにおける経営環境が悪化しかねないという懸念も出ている。匿名を要求した半導体業界関係者は「米中対立時代において、米国側に並ぶ同行だった」とし、「現地の生産施設や雇用問題が絡んでおり、すぐには直接の被害は表面化しないだろうが、中国やロシア側で事業を行う企業は、ステップ・バイ・ステップで被害を最小化する戦略を考えざるをえないだろう」と述べた。
政界からは「与えたものは見えるが、受け取ったものはろくに見えない」という批判が出ている。野党「共に民主党」のユン・ゴニョン議員はCBSラジオの番組「キム・ヒョンジョンのニュースショー」に出演してそのように批判し、「現金を与えて手形を受け取ったようなもの」だと評した。尹大統領が約束を取り付けた59億ドル相当の投資と各種MOUの締結についても、サムソンSDIとゼネラル・モータース(GM)のEV用バッテリーの合併法人の設立や、SKオンと現代自動車グループの合弁工場の建設などの韓国の対米投資の規模と比較して、損得を計算してみなければならないという意味だ。