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AIの未来予測能力、人間に追いつく…超えたらどうなるのか

登録:2024-03-12 08:29 修正:2024-03-12 11:00
[ク・ボングォンのAI時代人間の道]
//ハンギョレ新聞社

 4月10日の第22代韓国国会議員総選挙を控え、選挙結果に対する関心が高まっている。政党と報道機関によって随時実施されている世論調査は、世論の現状と動きを伝えてくれる資料だが、本当の目的は予測の正確性を高めるためだ。不確かな未来について、人々は絶えず予測して判断し行動するが、正確さは人や状況によって違う。予測してそれをもとに計画して備える能力は、個人や社会の核となる能力だ。

 人工知能(AI)が人間の知的能力に追いつき追い越す事例が相次ぐなか、AIは未来予測の能力でも人を凌駕できるだろうか。

 これに関する研究が6日、コーネル大学の論文公開サイト「アーカイブ」(arXiv)に発表され、関心を集めている。

 米国の「生命の未来研究所」(Future of Life Institute)のピーター・パク研究員らが2024年3月6日に公開した論文「シリコンチップの知恵」(Wisdom of the Silicon Crowd:LLM Ensemble Prediction Capabilities Rival Human Crowd Accuracy)は、未来予測能力でAIが人間の水準に到達したという実験結果を紹介した。

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3カ月後の予測能力、AIが人間に匹敵

 AIの未来予測能力を実験するため、研究チームは925人で構成された集団と12の巨大言語モデル(LLM)を相手に、昨年10月時点で3カ月後の状況についての結果を「はい/いいえ」で予測する質問をした。人間とAIにそれぞれ31の質問をし、2つの集団間の未来予測能力を比較する方式の研究だった。具体的には、「AI言語モデル集団」が「人間の集団的意見」(群衆の知恵)を凌駕できるかどうかの問題だ。12個で構成されたAI言語モデル集団には、GPT4、GPT3.5ターボ、Bard、Llama、Mistral、Claude2、Coral、Instruct、PaLM、Falcon、Solarなど代表的なLLMの大部分が含まており、結果的に、GPT4が最も優れた予測能力を示した。

 質問は「2024年より前にハマスはカザ地区の統制力を失うだろうか」「2024年より前に紅海で米軍の戦闘中に死亡者が発生するだろうか」のような「はい/いいえ」の質問項目で構成された。

 研究の結果、集団としてのLLMは、人間のように未来を予測でき、人間の予測値に対する若干の訓練だけを受ければ、超人的な性能によって向上しうるという結論が出た。すべての質問に対するAIの回答を検討した結果、人間の予測者に劣らない成果を示した。研究チームは、追加実験でAIモデルに人々から得た各質問に対する予測の中間値を提供して学習させた結果、予測の正確度が17~28%向上したことを公開した。

 研究結果を報道した「ファスト・カンパニー」は、「AIが未来を予測する人間の能力と未来予測の従事者の脅威になりうる」としたうえで、「すべてのものが奇怪になりうる」というAI専門家の見解を紹介した。

 研究チームは論文で「昨年までの研究では、確率的予測の文脈でLLMが人間集団に比べて性能が劣るだけでなく、簡単な性能テストさえも通過できず、それは時系列予測でも同じ結果だった」として、研究の意味を説明した。

人間の核となる知的能力である予測能力をAIが模倣しているという内容を扱ったアジェイ・アグラワル教授らによる著書『予測マシンの世紀』の表紙//ハンギョレ新聞社

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「人間は予測マシン、予測は人間の知能の基本」

 今回の研究が注目されるのは、個人と社会における未来予測の持つ役割のためだ。未来予測は、経済学の骨組みであり、個人と社会の方向性を教える尺度だ。政府の経済運用や福祉政策、企業投資の判断などはすべて未来予測に基づいており、個人の専攻や職業選択をはじめとする大小の日常の計画と判断、準備も、基本的には未来予測に基づいてなされる。

 認知科学者らは、人間が何かを見たり聞いて経験する瞬間、頭脳はたえず予測し、それに基づいて行動していると説く。予測する行為だとは意識していないが、複雑な道路で人々が互いにぶつかることなく通り過ぎる行為や誰かと対話することも、予測に基づいた状態によって進められる行為だ。

 パームコンピューティングを創業した神経科学者であり、コンピュータ工学者として『考える脳・考えるコンピューター』を執筆したジェフ・ホーキンス氏が「予測は人間の知能の基本」だと提唱して以来、人間の脳の著しい特徴は予測する能力だと思われている。ホーキンス氏は「予測は頭脳がする多くのことの一つではない。予測は新皮質の主な機能であり、知能の基盤だ。大脳皮質は予測器官だ」と語る。

 トロント大学創造的破壊ラボの設立者であるアジェイ・アグラワル教授は著書『予測マシンの世紀』で、「AIという新しい波が持ち込んできたものは、知能ではなく、知能の重要な要素である予測」だとし「予測の正確度が高まり信頼に値する水準になる瞬間、予測マシンは組織の仕事の処理方式をまるごと変える」と書いた。

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機械予測の導入により「未来予測の複雑さ」がさらに高まる

 LLMに基づく生成AIが、これまでのAIとは違い人間の水準に匹敵する予測能力を示したという研究結果は、機械が人間の中核技術を脅かすことになった状況であることを意味する。現在、驚異的なレベルの言語駆使力と画像の実現機能を誇示しているChatGPTのような生成AIも、予測能力に基本を置いている。GPT技術の核心は、グーグルが2017年に自然言語処理のために発表したトランスフォーマーモデルだが、これは基本的には予測技術だ。トランスフォーマーモデルは、文章のように次々と単語が羅列された状況において、前後の文脈と状況を考慮してパターンをとらえ、特定の単語と文章に続けて現れる確率が高い単語を予測して文章を生成する。そうした生成AIの予測機能が、「3カ月後に起きること」といった日常の一般的な予測の領域に拡大する場合も、人間レベルの正確さを示したということが今回の研究の意味だ。

 予測能力でAIが人を凌駕することになれば、今後の未来予測の領域でAIの活用と依存はよりいっそう高まることになる。未来予測は、予想できない変数の介入によって失敗することが多い。AIが未来予測に投入されることになれば、初期には効率性を示すかもしれないが、AIという変数の介入によって、結局は未来予測の複雑さと予測不可能性がよりいっそう高まる場合がある。そのため、AIが人間が未来をより良く予測するようになるという期待は、現実にはならない可能性が高い。

ク・ボングォン|ハンギョレ・人とデジタル研究所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/it/1131748.html韓国語原文入力:2024-03-11 14:43
訳M.S

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