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美しくて悲しい…眠らない地下鉄労働の世界

登録:2021-08-20 02:45 修正:2021-08-20 08:26
ドキュメンタリー映画『アンダーグラウンド』、19日公開
ドキュメンタリー映画『アンダーグラウンド』のスチールカット=シネマダル提供//ハンギョレ新聞社

 「闘争の現場ではなく、労働する姿を通じて労働問題を語りたかったのです。匿名の労働を静かに見つめさせ、その中に労働の身分差が存在することを感じさせるのが今回の作品の狙いでした」

 キム・ジョングン監督は映画『アンダーグラウンド』の演出意図をこのように明かした。19日に公開される『アンダーグラウンド』は、見慣れているがよく知らなかった地下鉄労働の世界を描いたドキュメンタリーだ。運転士から電車整備工、保線工、管制士、清掃労働者に至るまで、縁の下の労働を続ける人々の物語を淡々と描き出す。

 2011年の韓進重工業整理解雇問題を記録した『バスに乗れ』(2012)でデビューしたキム監督は、韓進重工業の30年の労働運動史を扱った『影たちの島』(2014)でソウル独立映画祭の大賞を受賞するなど、労働をテーマにした作品を作っている。地下鉄労働を扱ったきっかけについて監督は「自分は鉄道オタクだった。韓進重工業の労働運動史を扱った前作『影たちの島』を撮った時は、鉄と機械と人間の対決に関心が高かった。船を建造する姿を撮ったので、近代の産物である都市鉄道で働く方たちを撮ったらどうかと思った」と語った。

ドキュメンタリー映画『アンダーグラウンド』のスチールカット=シネマダル提供//ハンギョレ新聞社

 監督の言葉どおり、地下鉄労働は鉄の労働であり徹夜の労働だ。運行の終了した電車が整備工場に戻ってくれば、整備工たちは点検をはじめる。摩耗がひどければ車輪を交換し、車両の連結部位と電子装備をチェックする。保線工たちは線路上を移動しながら線路の磨耗度を測定し、地面の砂利をならす。トンネル整備工たちはレール上の旋盤作業台の上でトンネル壁面の異物を取り除いたり、配線などを修理したりする。清掃労働者たちは乗り換え通路やホームドアを拭く。地下鉄の労働はそれぞれ離れてはいるがつながっている。この作品は、安全で快適な地下鉄の裏に、これほど多くの人々の磨き、締め、油をさすという苦労があることを気づかせてくれる。

 かといって、この作品は労働のつらさを扱っているわけではない。自らの仕事に誇りを持って勤勉に働く人々の美しさに注目しているのだ。「群舞のように労働者の動きは美しいと思います。人々を運ぶために、多くの人々が群れて舞っているように見えるのです。バレエを見ている感じと言いますかね」。監督の言葉のように、この作品は地下鉄労働者たちの労働を観察し記録することに力を注ぐ。まるで争議がある時だけ労働現場を一瞬扱うだけのマスコミの態度をとがめているようだ。

ドキュメンタリー映画『アンダーグラウンド』のスチールカット=シネマダル提供//ハンギョレ新聞社

 もちろん地下鉄労働はロマンではない。作品の線路上には、非正規職と正規職という地下鉄労働の厳然たる身分差や、無人化システムの導入によるリストラなどの、現実の苦難も重く横たわっている。「以前は同一労働・同一賃金という非正規労働者の主張が説得力を持っていました。今は、『自分は試験を受けて入ったのではないのだからこんな待遇なのだ』という、階級のはしごを身体化した話が現場から出てきます。そのことが悲しくて寂しい」

ドキュメンタリー映画『アンダーグラウンド』のスチールカット=シネマダル提供//ハンギョレ新聞社

 作品の舞台である釜山(プサン)地下鉄は、全国の地下鉄の中でも発券や運転士の業務などに無人化システムが最も早く導入されたところだ。映画の中である運転士は「発券業務が無人化された時は、熟練度が重要な機関士は無人化とは無縁だろうと思ったのだが、今は運転業務も無人化されつつある」と話す。キム監督は公共機関の効率化などの名目で行われるリストラについて、露骨に反対するというより、果たして市民の安全のための正しい方向なのか一度考えてほしい、と語った。「公益勤務要員が1人しかいない釜山の無人駅は主に低所得層の町にあります。釜山地下鉄の線路は空間が狭くて、事故が発生したら高圧線のすぐ横に移動しなければならないんです。障害者がいたら、たった1人の公益勤務要員で安全に避難させられるのでしょうか」

 自らを工業高校出の労働者出身だと明かすキム監督の映画の中には、就職を控えた工業高校の生徒たちがよく登場する。非正規労働者の連鎖を見せてくれるこの設定について、監督は「この作品は2枚のレイヤー(層)からなっているんです。地下鉄をめぐる1日の労働の循環が1枚目のレイヤーだとすると、誕生したばかりの工業高校出身の非正規労働者と、無人化によってリストラの危機に直面する運転士というサイクルは、もう1枚のレイヤーだと考えられます」と語った。

オ・スンフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1008188.html韓国語原文入力:2021-08-18 17:55
訳D.K

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