「大統領選挙キャンプでは各自の判断で金を使った…
誰がどう集めたかは知る術もない」
「VIP(朴槿恵)は金を数えたこともない」
だったら、その金は誰のために使ったのか?
■ 汚職リストが指し示す「朴槿恵大統領」
「金淇春(キム・ギチュン)や許泰烈(ホ・テヨル)にだけ与えたはずがない」「成完鍾(ソン・ワンジョン)は顔が広い。親交を広めるために政治をやり、その政治をするために金をかけた。だいぶ金をばらまていたようだ」「彼らだけが受け取ったわけがない。(リストに載った人たちは)金を受け取った数多くの人のうち、大統領と関連する人たちだろう」「大統領選の時に汚いことをやった人たちは汝矣島(ヨイド)で噂になっていた」
いわゆる「成完鍾リスト」が発覚した直後の与党幹部らの反応だ。「起きるべくして起きた」事件だというわけだ。与党内の雰囲気を探ると、今回の事件を「朴槿恵(パク・クネ)政権を倒すための陰謀」と考える者は誰もいないようだ。成完鍾・前セヌリ党議員から裏金を受け取った人は多く、そんなことは与党内部では公然と知られていた。検察がわざわざ司法の定規を持ち出すまでもなく、すでに政治的判断はついていた。こうした雰囲気があってのことか、セヌリ党の事態収拾策は「故人の根拠ない主張を正す」ではなく、「事態の影響を最小限に抑え来年の総選挙前に沈静化させること」になった。ところが、事態収拾に謀殺されるセヌリ党の雰囲気を他所に、この混沌から身を遠ざけ、事態を他人事のように眺めている人がいる。他ならぬ朴槿恵(パク・クネ)大統領だ。
4月9日に成・前議員が自ら命を絶つ直前にリストに残した8人のうち7人が、親朴槿恵系の幹部だ。許泰烈、金淇春、そして李丙ギ(イ・ビョンギ=ギは王へん其)の3人は朴大統領の元・現職の秘書室長だ。李完九(イ・ワング)首相、劉正福(ユ・ジョンボク)仁川市長、徐秉洙(ソ・ビョンス)釜山市長、洪文鐘(ホン・ムンジョン)セヌリ党議員は、いずれも親朴系の幹部中の幹部と呼ばれてきた。彼らは2012年の朴槿恵大統領候補キャンプで、セヌリ党忠清南道選対委名誉委員長(李完九)、職能総括本部長(劉正福)、党務調整本部長(徐秉洙)、組織総括本部長(洪文鐘)などの重職に就いた。したがってリストが示すのは、彼ら個人ではなく「朴槿恵大統領」になる。
にもかかわらず朴大統領は、事件が発覚した後の一週間、得意の“幽体離脱”話法で中南米歴訪の途についてしまった。朴大統領は事件が起きた3日後の4月12日、「検察は法と原則に基づき聖域なしで厳正に対処することを望む」と発言した。現政権の中枢にいる人や側近が不法資金の疑惑を受けている状況に対する遺憾表明はなかった。その後、4月15日には「不正腐敗に責任がある人は誰も容認しない」とした上で、「過去から現在まで完全に明らかにしなければならない」と強調した。「容認しない」という表現は、今回の事件はすべて金をやりとりした者たちの過ちであり、自らは断罪を加える主体である意志を示したものと受け取られる。不正腐敗に対する政治的責任を負わねばならない中心人物が自身である事実が完全に排除された、典型的な幽体離脱発言だ。「過去から現在まで完全に明らかにしなければならない」という発言にしても、不正捜査の対象を過去の政権と野党まで含むという意味に読み取れ、事実上、検察に捜査ガイドラインを提示したのではないかと指摘された。そして4月16日、李完九首相の去就について「(中南米歴訪から)帰ってきてから決める」と言い残して国を離れた。
■ 2004年の党テント事務所での第一声
朴大統領のこうした無責任な対処は、2004年にハンナラ党(現セヌリ党)代表として総選挙勝利を導いた姿とはまるで違う。2003年末に大きくなった大統領選挙不法資金事態は、ハンナラ党に“車まるごと賄賂”の党という汚名を着させ、総選挙敗北の危機を招いた。その渦中で党代表に選出された朴大統領は、不正腐敗根絶の意味を込め、テント張りの党事務所を用意した。2004年3月24日、党テント事務所での第一声は、「国民の皆様に犯した罪を心より懺悔する」だった。「不正腐敗に関係した者を許さず、有罪が確定すれば永久除名措置を取る」と断じた。そして曹渓寺で108拝、永楽教会で改心礼拝、明洞聖堂で懺悔の行脚をした。こうした反省の姿を通して、朴大統領は危機の中にあっても議席数121席を確保し「選挙の女王」と呼ばれるに至る。
当時起きた問題と現在の問題は同根だ。党の大統領選挙不法資金が、すべての根底にある。しかし、頭を下げて謝った当時の朴大統領の姿は今見当たらない。なぜなのか。
今まで朴大統領がしてきた謝罪や遺憾表明を振り返ると、一つの共通点がある。問題の中心からの「他者化」が可能だったという点だ。2004年にハンナラ党代表だった頃は、大統領選挙不法資金の主体ではなかった。ハンナラ党から離党して韓国未来連合を創党し、2002年に復党した朴大統領は、党主流から外れていた。そんななか党が危機に陥ると、南景弼(ナム・ギョンピル)、元喜龍(ウォン・ヒリョン)、鄭柄国(チョン・ビョングク)など党内刷新派が道徳的なイメージがある朴大統領を党代表に担ぎ上げた。結局、当時の朴槿恵・ハンナラ党代表の謝罪は「代理謝罪」なのであり、自分の過ちにに対する謝罪ではなかった。本人もそれを承知していたので、なんの迷いもない謝罪と反省の歩みが可能だった。 2012年の総選挙の時も同じだ。朴大統領は当時、サイバー攻撃のDDoS(分散サービス拒否攻撃)事態などで危機に陥ったハンナラ党の“ピンチヒッター”として登場し、朴大統領とハンナラ党の不正は徹底的に分離させた。
しかし今は状況が違う。彼女は現職の大統領であり、リストに載った8人のうち7人が、政権中枢の幹部または側近だ。他者化は不可能である。大統領が謝罪すれば、そのまま大統領が自らの過ちを認める格好になる。道徳性を武器に持ちこたえてきた朴大統領としては、容認できない行為であろう。セヌリ党内でも、今回の事態と朴大統領を分離させなければならないという声があがり始めた。セヌリ党関係者は「大統領は最後まで守らなければならない共通意識がある。今回の事態が大統領まで影響することになれば、派閥とは関わりなく来年の総選挙で完敗してしまう。そうなってはならない」と危機感を募らせた。
■ VIPに資金を尋ね戻ってきた言葉は…
セヌリ党内では、成完鍾リストの事態と朴槿恵大統領を分離させる論理として「朴大統領は金には無関心な人」と語られだしている。与党関係者は「朴大統領は一生、金をめぐる打算をしてこなかった人だ。今までそうしたやり方できたので、その下で働く人たちが活動費を各自調達してきた。しかし(選挙に)金がかからないわけがない。事務所の賃貸料や常勤者の月給など、なにかと金はいる。(それを満たすため)企業家から集めた人たちもいただろう」と打ち明ける。別のセヌリ党関係者は「大統領選挙キャンプでVIP(朴槿恵)に資金を求めると、『なぜお金が必要なのですか?』と言われてしまう状況なので、各自の判断で金を使った。しかし、各自どうやって金を集めたかは分からない」と語った。結果として大統領選挙不法資金は、朴大統領本人とは関わりなく、下にいる者たちが犯したことになるわけだ。
これが実態だとしても、朴大統領の道徳的・政治的責任が免じられることはない。彼女自身が導く組織の資金の問題に全く関心もなく、どう運営させるのかも知らなかったというのでは、リーダーとして無能さを曝け出しているに過ぎない。時事評論家のキム・ジョンベ氏は「政治的脈絡と政治的責任の問題についても指摘せざるを得ない。(誰が金を受け取ろうが)朴大統領の政治資金として使われた。確かに朴大統領は知らなかったかもしれない。だからと言って究極的な責任当事者が朴大統領であることを否定できるのか。それは違う」と語った。チェ・チャンヨル龍仁大教授も「金の流れを把握していなかったとしても、候補として総体的な道徳責任がある。大統領はそこから自由にはなれない。自分のキャンプで起きたことなのに『私は知らなかった』などという言葉で国民を説得できるか」と批判した。
“知らないフリ”の朴大統領のリーダーシップこそ、こうした事態を呼び起こした原因になったという指摘もされる。セヌリ党非常対策委員を務めたイ・サンドン中央大(ソウル)名誉教授は「本人はまったく知らないのが、こうした時には得になることもある。火の粉を直接かぶらなくてもすむという意味で。逆に、そうしたリーダーシップのために根元まで揺らいでしまう両面性を持つ」と指摘する。「細い刑務所の塀の上を歩いているうち塀の内側に落ちてしまう」と言われる政界。その中で独り清廉な道徳さを維持し、世を揺るがす問題は気にもとめないとリーダーシップの不在が、身の回りの腐敗を膨らませることになった。
今回の事態は、検察の威勢を借り、ライバルに司法の刃を振りかざす権威主義的国政運営が生み出した惨劇とも言える。「ヒューマニタス」のパク・サンフン代表は「朴大統領の政府の運営方法から起きてきた側面が大きい。これまで朴大統領は、公約したことを熱心に実践するのではなく、本人の権力を澱みなく熱心に管理しようとしてきた。当初から検察を利用した政治を行い、ライバル勢力を管理してきた。今回の事態はそうした手法が生み出した奇妙な逆恨みだったような印象を持つ。自身の権力的な政治手法が今の事態を呼び寄せた面がある」と指摘した。
■ 道徳性の傷はリーダーシップの危機に直結
大統領自身がいくら否定したところで、今回の事態は朴槿恵政権の道徳的正統性とリーダーシップに致命打を与える他ない。朴槿恵政権は、その頑固なまでな道徳さに対する信頼を基に成り立つ政権だ。有権者の間では、他のことはどうか知らないが金の問題だけはきれいだという信頼があった。それが壊れた。これは李明博(イ・ミョンバク)政権のように、当選前から道徳性の問題が明るみになった政権が同じ状況で受ける打撃とは次元が異なる。イ・ジュンナン仁川大教授は「(大統領選挙不法資金が明らかになれば)政権の創出そのものが基本的に否定されることになる。だから(検察捜査は)そこまでは関連性がないという方向で結論を出す可能性が高い。しかし(政権の中枢が事件に関与しただけでも)すでに道徳的・政治的な打撃は大きい」と語る。
朴槿恵政権の無能さと責任回避の姿を見るのに国民が飽き飽きしているという点も、政権が危機を迎えている主な原因の一つだ。「昨年とは状況が違う。有権者の立場からすれば、これは最初の衝撃じゃない。この政府の正統性に関して言えば、まず執権直後に出た国家情報院による大統領選挙介入問題があった。朴大統領は『知らなかった』を通したが有権者は信じなかった。しかし選ばれたばかりの政府でもあり、他の代案もなく事なきを得た。次にセウォル号の衝撃が続いた。政府の対処は後手に回り、結局なにも解決されなかった。遺族の要求を無理強いだと感じる人たちでさえ、なんの進展も示せない政府の無能さをはっきり認識していた。そして今回が三回目の衝撃だ。有権者は臨界点に達する勢いだ」。ソ・ボクキョン西江大現代政治研究所主任研究委員の分析だ。
道徳に対する傷はリーダーシップの危機を呼び起こす。昨年末に起きた「鄭允会(チョン・ユンフェ)国政介入疑惑」、そして聴聞会の過程で問題になった新任総理の道徳的欠陥は、すでに国政動力の喪失をもたらしていた。それを克服するため推進した「不正との戦争宣言」がまたもや朴大統領につながる不正腐敗をもたらすブーメランとなって戻ってきた。政界周辺では、これで朴槿恵政権のリーダーシップは相当なダメージを負ったとみる動きが強い。
前出のチェ龍仁大教授は「きれいな選挙をすると言っていたが、大統領選挙戦資金に関わったとすれば、国民の目から見た道徳的打撃は計り知れない。執権3年目のレイムダックに直結する事態と考えるしかない」と分析した。チェ・ジンウォン慶煕大フマニタスカレッジ教授も「人事の失敗が蓄積して信頼が崩れた。国政の動力は喪失され、何か新しいことを始めるにもすでに時期を逸した。政権はノックダウン直前だ。こんな状況のなかうんざりする与野党の攻防戦を繰り返し、“道連れ作戦”へと突き進めば、さらなる打撃は避けられない。国政を刷新するには、超党派的な中立な人を首相に選ぶ中立内閣を新たに構成し、残りの任期を遂行しなければならない。それが国民に対する礼儀だ」と語った。
■ もう通じない「私は知らなかった」
今この状況にあって、朴槿恵大統領に最も必要なのは何か。事件を隠したり回避しようとせず、すべての疑惑に対し国民に事実関係を明確かつ誠実に説明することに尽きる。その過程でこそ国民が抱く不信感を政治的に緩和する効果を発揮させられる。「私は知らなかった」ではすまされず、謝罪の道を進むほかない。ソ西江大主任研究員は「喫緊の課題は有権者の不信を宥めることにあり、きちんとした捜査ができる構造を作るべきだ。それくらいはしなければ解決は厳しい」と指摘した。
政権が代わる度に問題となる大統領選挙不法資金問題を根本的に解決できる制度改善策を用意すべきとの声も出てくる。パク・ヒューマニタス代表は「まともな政治がされているなら、社会から資金も出されるし、後援者やボランティアのメンバーも出てくるだろう。だが、韓国の政治には社会的基盤もなく、権力や影響力にしがみつこうとする構造から抜け出せないでいる。これでは良い政治をしたい政治家も、この構造の中では、権力者、資産家、マスメディアなど影響力がある勢力を通じて政治的資産を得ようしてしまう。政治が社会を代表するため資金や支持を得る構造はないのだ。それが長期的に解決すべき問題であると思う」と語った。成完鍾議員が権力を得るため金をばらまく他なかった歪んだ韓国の政治構造を変えなければ、こうしたことは何度でも繰り返されることになる。
韓国語原文入力:2015-04-22 15:47