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「極右の魔法は存在しない…勢力拡大は既存政党の失敗のせい」

登録:2025-10-21 08:20 修正:2025-10-22 06:33
シン・ジヌク教授とトマス・グルムケ教授の対談「世界的な極右の台頭」
ドイツの政治学者トマス・グルムケ教授(左)と中央大学のシン・ジヌク教授が17日午後、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で、「韓国と世界の極右化傾向」について意見を交わしている=リュ・ウジョン先任記者//ハンギョレ新聞社

 「極右が勢力を広げているのは、民主主義政党が社会問題に十分に対応できなかったからです。ゴールポストの前までボールを持ち込んだのは民主主義政党ですが、極右が最後の瞬間にボールを蹴って得点を入れたのです」

 過激主義研究の世界的権威で、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン警察行政大学の教授を務めるトマス・グルムケさんは、欧州の複数の国の極右政党が主要選挙で躍進したり、政権獲得まで狙ったりするようになったのは、彼らの政策が優れているからというより、既存政党が政治的に失敗したせいだと指摘した。グルムケ教授は中央大学のシン・ジヌク教授(社会学)と17日午後、ソウル麻浦区(マポグ)のハンギョレ新聞社で「世界的な極右の台頭の背景と含意」をテーマに行われた対談で、このように語った。

 同氏は「今日の極右政治勢力は自分たちの理念を露骨に表明せず、『愛国者』を装いつつ『左派に握られた国を正しい道に引き戻さなければならない』と主張する」として、「インターネットとソーシャルメディアで強い存在感を確保し、それを上手に利用する。オンラインにおいてミームと象徴で通じる、完結した『極右のコミュニケーションのエコシステム』を構築してきた」と説明した。

 グルムケ教授は「民主主義は制度が整ったからといって自然に回るものではない」として、民主的文化の形成と維持に向けた市民社会の積極的な努力と教育の重要性を強調した。

 昨年の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領による12・3違法戒厳の失敗以降に韓国社会で繰り広げられている状況については、「戒厳直後に数多くの市民が国会前に集まったことは、韓国社会に民主主義を守る強い力が存在する証拠」だとして、韓国民主主義に対する楽観的な見通しを示した。

 グルムケ教授は、シン教授と共同で進めている過激主義の国際比較研究の一環として、ドイツ学術交流会(DAAD)の助成を受けて訪韓中。同氏は2004~2012年にドイツ連邦憲法擁護庁の過激主義専門委員を務めたほか、長きにわたってドイツ政府と欧州連合(EU)に過激主義への対応策を助言してきた。シン教授も、ニューライトと反共団体が横行した20年あまり前の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時代から韓国社会で極右的な言説、組織、大衆行動を追跡しており、学術研究や報道など様々なメディアを通じてその危険性を警告してきた。

ドイツの政治学者トマス・グルムケ教授(左)と中央大学のシン・ジヌク教授が17日午後、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で、「韓国と世界の極右化傾向」について意見を交わしている=リュ・ウジョン先任記者//ハンギョレ新聞社

 今回、2人は90分あまりにわたって対談をおこなった。対談は、シン教授がグローバルな極右化現象で注目すべき論点を整理して提示し、グルムケ教授がそれについて意見を表明するというかたちで行われた。以下、一問一答。

-韓国でも近ごろ、極右に対する社会的関心がとみに高まっているが、それがなぜ非常に危険なのか、韓国社会にどのような結果をもたらすのかについては、はっきりと認識できていない傾向がある。なぜ私たちはこの問題に真剣に取り組むべきなのか。

 「歴史を振り返れば、何を失いうるかが分かる。ドイツのワイマール共和国は、1933年に右翼過激主義ナチスによって崩壊した。私たちは、民主主義が自らを守れない時にどのようなことが起きるのか、そして独裁とは実際に何を意味するのかをこの目で見た。今、米国で起きていることをみてみよう。米国は今も民主主義国家だが、権威主義的統治へと墜落する恐れがある。韓国の視点からも、極右による(国家)掌握の試みに立ち向かう回復力が足りない時にどのようなことが起きるのかを考えることができる」

-世界史において極右は19世紀後半まで遡る。21世紀の西欧民主主義において極右が「主流」の一部となるまでの過程も長かった。あなたの最初の著書は、1999年の博士論文をもとにした『米国の極右』だ。その時期と比べて、今日の極右が最も変化したのはどういったところか。

 「当時の米国の極右派はクー・クラックス・クラン(KKK)、民兵組織、スキンヘッドのような、たやすく識別できる周辺的集団だった。ドイツも同じだった。現状はまったく異なる。決定的な変化のきっかけはインターネットとソーシャルメディアだ。その影響力は過小評価できないほど巨大だ。今日の極右は、似たような理念を持つ人々同士がコミュニケーションをとり合うことで、グローバルな社会運動となっている。今日の極右は相反する2つの属性を同時に持つ。理念の面では非常に民族主義的だが、技術的条件(インターネット)のおかげで非常に国際的でもある。彼らが全面的に合意する、要となる理念の諸要素が存在するからだ。人種主義、反移民感情、外国人嫌悪などが代表的な例だ」

-学問的に過激主義に分類される集団でさえ、自らを愛国者、保守、あるいは単に右派と呼ぶことが多い。同時に「極右」、「極左」のような用語が政治的、理念的攻撃の道具として乱用されてもいる。過激主義は急進主義や保守主義とどう違うのか。

 「用語の重要性には全面的に同意する。現在、米国ではトランプ大統領と『MAGA(米国を再び偉大に)』勢力が『保守』を自称しているが、彼らは決して保守ではなく『反動(reactionaries)』と呼ぶことこそふさわしい。ドイツ初の民主主義体制だったワイマール共和国(1919~1933)は、非常に現代的な憲法を持っていたが、ヒトラーのナチスによって崩壊した。ナチスが敗れた後、1949年にドイツ連邦共和国(当時は西ドイツ)の憲法を制定した人々は、同じことが二度と繰り返されないことを望んだ。その要となる目標のひとつが『民主主義の敵から自らを守れる憲法』を作ることだった。いわゆる『戦闘的民主主義(militant democracy)』だ。

 韓国の憲法体系においては、誰が過激主義者なのかは明確だ。憲法のスペクトルの外で活動する理念と集団が過激主義だ。一方、『急進主義(者)』は依然として憲法の枠の中に存在する。急進的な改革を構想することは可能であり、憲法と衝突しないこともありうる。しかし議会の廃止、選挙不正、単一の権威者による統治などの、憲法の根幹を傷つけることを目指す理念や政治構想は、過激主義とみなされる。ドイツは自己防衛的な民主主義の機構として『憲法擁護庁(Verfassungsschutz)』を作った。過激主義に分類されるあらゆる動きを監視し、毎年報告書を発行している。それが直ちに禁止を意味するわけではないが、公的監視の対象になるということを意味する」

-2000年代以降、極右勢力の戦略、言語、政策は大きく変化した。民主的選挙を権力獲得の手段にしたり、ポピュリズム的宣伝を採用したりといった傾向が顕著だ。主流政治と社会制度の中での地位も変化した。何が極右の台頭を可能にしたのか。

 「過激主義者の選挙参加は新しいことではない。ドイツのナチスも1920~1930年代に選挙に出た。真に新しいのは、今日の極右政治勢力はもはや自分たちの理念を露骨に表に出さないということだ。彼らは『愛国者』を装い、『左派に握られた国を正しい道へと引き戻すべきだ』と主張する。彼らの語りは過去とはまったく異なる。数多くの『暗号化された言語』を使用している。ここにおいても決定的な変化は、インターネットとソーシャルメディアでのつながりだ。今はインスタグラムやX(旧ツイッター)のようなオンライン空間で強い存在感を確保し、それをうまく利用している。極右コンテンツは刺激的で興味を引く。新たな語りと象徴、特に若い世代に人気の『コード』をうまく使い、オンラインでそれを拡散させる能力だ。主にオンラインにおいて、ミームとシンボルで通じる、完結した『極右のコミュニケーションのエコシステム』を構築している。その中では伝統的なジャーナリズムや公的討論は必要なく、批判的な問いも存在しない」

ドイツの政治学者トマス・グルムケ教授が17日午後、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で、「韓国と世界の極右化傾向」について意見を述べている=リュ・ウジョン先任記者//ハンギョレ新聞社

-多くのアナリストが「極右の主流化」現象を語っている。一時は病理的であるとか周辺的な現象であると考えられていた考え方、言説、行動様式が、次第に「正常」なものとされていっているというのだ。何が原因なのか。

 「極右が勢力を広げているのは、既存政党の失敗、すなわち彼らが社会問題に十分に対応できなかったことが原因だ。ドイツではよくサッカーに例えられる。ゴールを決めたのは極右だとされているが、実際には民主主義政党がボールをゴール前まで持ち込み、最後に極右がゴールを決めたのだ。例えば、欧州における極右の最も重要な議題は『移民』だ。民主政党はこの問題で、市民が日常で直面する明白な諸問題を無視してきたし、現実的な代案も示してこられなかった。犯罪やその他の社会問題も同じだ。社会的に弱い階層が助けを求めても、政府は『予算がない』と言って放置する。なのに、コロナ禍のような危機に襲われたら、突如として無限の財源が現れた。人々は問う。『私が必要だと言った時は金がないと言っていたのに、この金はいったいどこから出てきたのか』。こういった例が多すぎる。極右はこのような矛盾を直ちに宣伝の材料にする」

-最近、多くの国で若い世代の極右に対する支持率が高まっている。あなたが言ったように、オンラインとソーシャルメディアは極右言説とサブカルチャーに彼らをさらす。どのような要因が若者をぜい弱にすると考えるか。

 「最大の原因は『民主的役割モデル』の不在だ。結局、私は改めて民主的制度権の失敗を言わざるを得ない。極右に魔法のような秘けつはない。彼らの成功は他の勢力の失敗のおかげだ。私の学生時代には、体制批判的で進歩的なものがよさそうにみえた。環境と人権を語ることがクール(cool)だった。今は真逆だ。性平等を擁護したり民主主義を支持したりといったことは『ダサい』という認識が生まれた。青少年にとって『クール』は絶対的な価値であるため、これが最も危険だ。言い換えれば、極右の天才的戦略のせいではなく、民主的な諸政党の失敗のせいなのだ」

-あなたは長きにわたってグローバル極右と超国家的なつながりについて研究してきた。このようなネットワークは今どのように進化していて、どれほど強いのか。

 「彼らは『グローバルな反グローバリズム』という名の下に連帯している。彼らは自由主義エリート、多文化主義、性平等、移民受け入れなどを推進する『グローバリスト』を敵と規定する。『世の中は以前のそれではない。伝統をよみがえらせなければならない』というのが、全世界の極右の共通言語だ。今日、極右はもはや周辺的で病理的な現象ではなく、世界政治の重要な行為者だ。彼らは理性よりも感情に訴える。民主主義者たちは論理と論証を重視するが、極右は30秒のティックトックの映像で怒りと恐怖を刺激する。民主主義には感情がないことが問題だ。極右は象徴、歌、旗、集団のアイデンティティーによって感情を組織するが、民主主義にはそれができない。民主主義にも感情をよみがえらせる必要がある」

中央大学のシン・ジヌク教授が17日午後、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で、「韓国と世界の極右化傾向」について意見を述べている=リュ・ウジョン先任記者//ハンギョレ新聞社

-警察、軍、情報機関、検察のような機関は、一般的な政府省庁や公共機関よりはるかに強い強制力を持つ国家機関だ。このような国家機関が独裁や抑圧の道具へと転落しないようにするには、どうすればよいか。

 「第一に、民主的監視と統制だ。統制する機関を統制する装置が必要だ。例えば、警察は社会を統制するが、議会のような機関が警察を監視すべきだ。第二に、自由主義者や民主的な考えを持つ人々がよく犯す失敗を避けることだ。『警察や軍隊は保守的で反動的だからかかわりたくない』と言って無視すると、それらの機関は民主的価値に根を下ろすことができず、反民主的な考えを持つ人々ばかりになる可能性もある」

-ナチス体制とホロコーストの教訓から出発したドイツの「市民政治教育」は、今日の過激主義への対応の一部としてどのように機能するか。

 「ドイツは連邦政府だけでなく、16のすべての州にもそれぞれ政治教育センターがある。連邦政治教育センターは特にオンライン資料の出版と提供に優れている。各学校で政治教育が行われてはいるものの、特定の政治傾向によって影響を与えてはならないという合意がある。憲法に対しても中立でなければならないという誤解もあるが、それは誤りだ。ドイツの公務員は憲法順守を宣誓する。職務においては政党や運動に関して政治的中立を守らなければならないが、憲法的価値が攻撃された際には中立であってはならない」

-この時代の市民政治教育はどのように革新されるべきか。

 「ソーシャルメディアのような現代的な道具を積極的に用いるとともに、若い世代に権限を与えるべきだ。16~18歳の賢い青少年、青年たちがどのようなメッセージに反応するかは、彼らが最もよく知っている。ユーチューブやティックトックのようなプラットフォームの上位のハッシュタグは、概して大衆文化や反民主的な話題が支配する。『民主主義』や『平等』のような単語が上位になることは、ほとんどない。私たちは賢い若者たちが民主的コンテンツを作り、フォロワーが増えるよう、後押しすべきだ」

-韓国では昨年、右派政権が12・3違法戒厳を試みたが失敗。その後も大揺れで、今も続いている。このことをどうみるか。

 「最も印象的だったのは、戒厳直後の、多くの市民が国会前に集った大規模な集会の光景だ。それは、社会の中に民主主義を守る強い力が存在する証拠だ。軍を動員したクーデターの試みに立ち向かって、あれほど多くの市民が勇敢に、秩序ある行動に立ち上がったことは、驚くべきことだ。制度も重要だが、市民が積極的に民主主義のために行動し、努力することこそ最も重要だ。韓国の民主主義の未来を楽観しうることを示すシグナルだと思う」

チョ・イルチュン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/religion/1224236.html韓国語原文入力:2025-10-20 05:00
訳D.K

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