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韓国、堕胎罪廃止以降も法不在…「女性の自己決定権」優先する判決出たが、条項に矛盾

登録:2025-09-02 08:34 修正:2025-09-02 09:03
「160万の宣言:堕胎罪廃止全国大学生共同行動」の会員が2020年11月7日午後、ソウル永登浦区の永登浦駅で「堕胎罪ピリオド」集会を開催。政府の「週数制限立法予告案の白紙撤回と堕胎罪の完全廃止」を求めている=イ・ジョンア記者//ハンギョレ新聞社

 妊娠中絶した女性の配偶者が執刀医を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の控訴審で、妊娠した女性の自己決定権は配偶者の堕胎同意権に優先するとの判決が下された。一審と二審の判断が逆転した。韓国で堕胎罪が非犯罪化されて以降、後続立法がないため解釈上の混乱が繰り返されていると指摘する声があがっている。

 ソウル高裁民事17-3部(アン・スンフン裁判長)は先月21日、A氏が産婦人科医のB氏を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の控訴審で、原告敗訴の判決を下した。A氏は、妻が自身と相談せずに2023年に妊娠15週で妊娠中絶手術を受けたことに対し、執刀医のB氏を相手取って「精神的損害の賠償」を求めて7億ウォンの損害賠償請求訴訟を起こした。A氏は「母子保健法は中絶手術の要件として配偶者の同意を規定しており、同意なしに手術したことは民法上の違法行為」だと主張。母子保健法14条1項は、本人・配偶者に優生学または遺伝学的な精神障害や疾患がある場合▽強姦または準強姦による妊娠▽法律上婚姻できない血族・姻戚間の妊娠、などの5つの条件に該当する場合、配偶者の同意を得て妊娠中絶手術が行えると規定している。刑法上の堕胎罪の例外事由を規定したもので、A氏の妻はこのようなケースには該当しないが、A氏は「通常の中絶に対してもこの規定を類推適用して配偶者の同意を得るべきだった」と主張した。B氏は「堕胎罪には憲法不合致決定が出ているため、その違法性阻却事由であるそれらの条項も効力が喪失している」として、「類推適用されると解釈するのは女性の自己決定権の侵害」だと主張した。母子保健法14条1項の実効性問題は、憲法不合致決定で2021年に妊娠中絶が非犯罪化されてからくすぶっていた。刑法の堕胎罪が失効した以上、例外条項も独自の効力は持ちえないという主張が相次いだが、国会による後続立法がなく今も法に残っているため、解釈が分かれている。

 一審はB氏に、A氏に対する500万ウォン(約52万8000円)の慰謝料の支払いを命じた。一審は、母子保健法14条1項は有効だとして、「この事件においては、中絶することにより、母子保健法の条項の類推解釈で認められる配偶者の同意権を侵害したとみるのが妥当」だと判断した。そして「妊娠22週以前には(女性の)自己決定権が優先されるため、配偶者の同意を得る必要はないという主張は、被告(執刀医のB氏)の独自解釈」だと判断した。これは、妊娠中絶手術を行った医師に対し、中絶に同意していない夫への賠償責任があると認めた初の司法判断だった。

 控訴審も母子保健法14条1項は有効だとしたが、それを通常の妊娠中絶に類推適用することはできないと判断した。控訴審は「憲法裁の憲法不合致決定の趣旨を考慮すれば、この事件の手術に母子保健法の条項を類推適用することは、妊娠した女性の自己決定権を一律にさらに制限することになるため、決定に反する」として、「類推適用できるとしても、類推適用して保護される原告(夫)の法的利益が、妊娠した女性本人の自己決定権や、その行使を実現する上で必要不可欠な被告(執刀医)の職業遂行の自由より優先するとはみなし難い」と判断した。

 妊娠した女性の自己決定権を優先した判決だが、依然として母子保健法14条1項の効力を認めているという限界がある、とも指摘されている。チェ・ヒョンジョン弁護士(公益人権弁護士会希望法)は「結論は妥当だが、母子保健法の効力を認めたことで自己矛盾が発生している」とし、「一般堕胎罪はなくなったが、むしろ中絶が認められる例外事由として規定された『強姦による妊娠』などは、配偶者の同意を得なければならないという矛盾した結論に到達する」と述べた。そして「母子保健法の条項削除などの措置を取っていない国会の義務放棄のせいで生じた限界」だとして、「人権機関は繰り返し堕胎の非犯罪化を勧告している。韓国司法の判決も、人権基準により忠実になるよう改善されなければならない」と述べた。

チャン・ヒョヌン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1216389.html韓国語原文入力:2025-09-02 07:00
訳D.K

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