(1からつづく)
■大統領は選出職の公職者にすぎない「下僕のトップ」
尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の事例を見ながら、韓国の大統領の座はどうも呪われているかもしれないと改めて思いました。李承晩(イ・スンマン)元大統領は4・19革命で追い出され、ハワイで死去しました。朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領は部下の銃に撃たれ命を落としました。全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)元大統領は退任後、刑務所に送られました。
独裁とクーデターの時代が終わった後も同じでした。金泳三(キム・ヨンサム)、金大中(キム・デジュン)元大統領は在任中に息子が拘束される屈辱を受けました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は退任後、検察の捜査を受けて自ら死を選びました。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)元大統領、尹錫悦前大統領も収監されました。韓国の大統領たちは一体どうしてこのような悲惨な末路を迎えるのでしょうか。理由は何でしょうか。
一番大きな理由は勘違いです。大統領は主権者である国民に権限を委任された選出職の公職者に過ぎません。「下僕のトップ」です。それでも大統領は自分を絶対君主だと考える傾向があります。自分の身分を王と勘違いする下僕が結局不幸になるのはあまりにも当然のことです。
有権者も同じです。大統領一人をうまく選んで社会を変えようとする習性から抜け出せずにいます。民主主義の経験が蓄積されなかったために起きる現象です。
成均館大学未来政策研究院が7月8日、改憲と政治制度改革をテーマに討論会を開きました。全北大学のキム・ジョンヒョン教授が「韓国型大統領制の改憲の必要性および方策」について発表しました。キム教授は韓国の大統領制の問題点をこのように指摘しました。
「大統領は憲法上保障された権限に基づき、行政府の他にも立法府と司法府に強い影響力を行使する。現在のように大統領が最高裁判所や憲法裁判所、中央選挙管理委員会、監査院などの憲法機関の構成権を持つ場合、これらの機関が大統領から独立性を保つ上で障害となる。
大統領は人事聴聞会が義務付けられていない主要高位公職者に自分の側近を任命することで、行政府の国務委員でない大統領周辺の参謀が国家の重要事案を牛耳ることができるようにする。過去には大統領府、現在は大統領室で大統領を補佐する側近たちが、国民の代表機関である国会の検証を経ずに内閣を圧倒している」
「大統領が人事権を直接・間接的に行使する公共機関と公職関連団体、全国的な組織を備えた官辺団体が、韓国社会全般に大統領の影響力を伝播させる。しまいには民営化した私企業の人事にも行政府が持っている持分を口実に介入する。
大統領とその側近たちは検察、国税庁、警察、金融監督院、国家情報院などの権力機関を自分たちの側近で埋め、公共部門・民間部門を問わず国と社会のあちこちを自由自在に動かそうとしている」
韓国憲法は大統領を「国家の元首であり、外国に対して国家を代表する」と定めています。また「行政権は大統領を首班とする政府に属する」とし、行政府の首班の地位まで与えています。 「国家の元首」であり「行政府の首班」であるため、いわゆる「帝王的大統領」になるのです。大統領から国家元首の地位を剥奪する時が来ました。
尹錫悦前大統領は歴代大統領の中でも、大統領としてのアイデンティティに対する勘違いが最も深刻なケースに当たります。上命下服、同一体原則という誤った制度と文化に染まった検察で生涯過ごし、民主主義や政治に対する理解が全くなかったからです。検察では検事総長は帝王です。逆説的に、尹錫悦前大統領のおかげで帝王的大統領制の弊害が赤裸々に露呈しました。
■「最小限の改憲」をするためには
尹錫悦前大統領の没落を機に、帝王的大統領時代を終わらせなければなりません。そのためには改憲が必要です。李在明(イ・ジェミョン)大統領の7月3日の記者会見では、改憲についての質疑応答がありませんでした。残念でした。
李在明大統領の改憲公約は5つでした。第一に、憲法前文に5・18光州民主化運動の精神を収録すること、第二に、直接民主主義の強化などを通じて民主主義を回復すること、第三に、国民の基本権を拡大・強化すること、第四に、再任できる任期4年の大統領制(現在は再任不可の任期5年の大統領制)で責任政治を強化し国政運営の安定を図ること、第五に戒厳宣言および再議要求権の要件強化などで帝王的大統領の権限を分散することです。
改憲は内容も重要ですが、速度と方法がより重要です。どうすべきでしょうか。 今は大統領就任直後です。大統領の影響力が最も強い時期です。
李在明大統領が改憲の意志を明確にしなければなりません。改憲をめぐる論議は国会に任せるべきです。改憲は与野党の合意がなくては実現できません。与野党が合意できる線で「最小減の改憲」を行うべきです。欲を出してはいけません。
与野党代表選出の党大会が終わり次第、国会に改憲特別委員会を設置して改憲論議に着手しなければなりません。来年の地方選挙で国民投票を実施すべきです。与野党の合意が難しければ、合意可能なレベルで第1段階の改憲を行い、地方選挙後に第2段階の改憲をする案もあります。
いかなる方法であれ、李在明大統領の在任中に必ず改憲を成し遂げなければなりません。そうしてこそ、尹錫悦前大統領のような「怪物」大統領の再出現を防ぐことができます。そうしてこそ、大韓民国も救い、李在明大統領自身も救われます。皆さんはどう思われますか。