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尹大統領の極右的世界観が韓国社会に及ぼす「ファシズム的」害悪

登録:2025-02-04 06:36 修正:2025-02-04 09:20
[ハンギョレ21] 
「不正選挙」フレームを利用して進歩などに反対する「極右同盟」 
民主共和政実現のために「より多くの民主主義」を求め闘うべき 

キム・ミンハ|政治評論家
尹錫悦大統領(写真左)が2025年1月23日、ソウル鍾路区の憲法裁判所で開かれた弾劾審判第4回弁論で、証人として出席したキム・ヨンヒョン前国防部長官に自ら証人尋問をし、キム前長官が答弁している/聯合ニュース

 大統領尹錫悦(ユン・ソクヨル)は不正選挙の真相究明について、果たしてどれほど熱意を持っているのだろうか。憲法裁判所の弾劾審判の手続きに応じる尹錫悦を見て思ったことだ。当初、尹錫悦は不正選挙が実際にあることを前提にした主張を展開してきた。さらに、憲政史上初めて捜査機関に逮捕された時に公開した自筆の手紙にも、「わが国の選挙で不正選挙の証拠はあまりにも多い」、「不正選挙を陰謀論と一蹴することはできない」と書いている。ところが、弾劾審判に出席してからは、非常戒厳宣言と不正選挙論の関連性について「事実を確認しろというレベル」だったと述べた。同じ法廷に証人として出席した前国防部長官のキム・ヨンヒョンも、大統領が非常戒厳宣布当時、不正選挙を理由に挙げなかった理由を尋ねられ、「証拠が多いが確認されたことはなく、公には不正選挙に言及できなかったため」という趣旨で答えた。

■問題的であっても問題にしてこそ問題になる

 不正選挙論について本気だったなら、尹錫悦は就任するやいなやこの問題の解決に政権の命運をかけるべきだった。不正選挙の根絶より重要なことがどこにあるだろうか。しかし、そのような情況は見当たらない。

 もちろん、尹錫悦が不正選挙論を信じていなかったわけではないようだ。「ニュース打破」が報道した、大統領選挙当時に尹錫悦陣営で作成された「不正選挙関連管理対策」という文書によると、不正選挙論をかなり真剣に取り上げた痕跡が見られる。2022年4月、当選が決まった大統領と与党議員たちが集まった席で、ユ・ギョンジュン前議員が不正選挙論に対して反論し、尹錫悦と舌戦を繰り広げた事実も確認された。

 ならば、一体何だろうか。尹錫悦の態度を一言でまとめると、「不正選挙は存在するが、すぐに真相究明する必要はなく、自分に有利な時に活用すればいい」ということではないだろうか。私たちはここで、尹錫悦が「告発教唆」事件や「(政治ブローカーの)ミョン・テギュンゲート」に対して、あれほど厚かましい態度を維持できた理由を知る手がかりを見つけることができる。どうせ不正選挙で当選する世の中なのに、検察が政党に特定の人に対する告発をそそのかして選挙介入を試みることや、未公表の世論調査を受けて特定人の公認を約束したことぐらいは、それほど大したことではないのだ。

 これは一見、エリート特捜部検事の世界観のような気もする。議員や(財閥の)会長の中で、叩いてほこりが出ない人が果たしているだろうか。基本的に皆が罪を犯して生きているなら、罪の代償を払うかどうかは捜査の可否によって決まるのだ。すなわち、問題にすれば問題になり、問題にしないなら問題にならないという冷笑的な世界観が背景にあるわけだ。

内乱罪被告人である尹錫悦大統領が2025年1月21日午後、ソウル鍾路区の憲法裁判所で開かれた弾劾審判第3回弁論に出席し、被請求人の席に座っている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦とキム・ヨンヒョンのコンビの荒唐無稽な問答にも、この世界観につながる態度が反映されている。尹錫悦は弾劾審判でキム・ヨンヒョンを自ら承認尋問したが、これは尋問というよりは、判事の前にもかかわらず、二人の共犯がはばからず互いに偽証のために口裏を合わせているように見えた。尹錫悦側の意図をキム・ヨンヒョンが把握できず、むしろ自爆してしまう、例えば布告令第1号の正当性をキム・ヨンヒョンがあまりにも熱心に説明したために「誤って写してきた」という尹錫悦の主張が崩れ、「違法性を知ったが実行可能性がなく放っておいた」という結論で取り繕われる場面などは、コメディに近かった。いずれにせよ、判事の前でこんなことをする者はほかにいるだろうか。行為そのものが問題になるのではなく、問題的行為があっても、問題にして初めて問題になると考える人でなければできないことだ。

■極右ユーチューブ勢力の世界観

 考えてみれば、尹錫悦が憲法と法律に合わない非常戒厳を宣布し、内乱容疑の真ん中に突進してしまったのも、この世界観の影響かもしれない。ひとまず、非常戒厳宣布で始まる一連の構想を貫徹するのが優先であり、国家非常事態だったのかを問い詰めることはその後のことだ。キム・ヨンヒョンに対する検察の控訴状によると、尹錫悦は国会の戒厳解除要求案議決直後にも、国会議員を引き出す戒厳軍の作戦を続けるよう指示し、「国会議員が190人入ってきたというが、実際190人が入ってきたことは確認もできないのではないか」と述べた。戒厳解除要求案議決という実体的な真実が存在しても、戒厳軍がその乱闘の中で国会議員を引き出して監禁すれば、いくらでも定足数などの要件が満たされていないとみなすことができるということだ。このような態度から見て、尹錫悦にとって不正選挙論は、自らそれをどれほど心から信じているかとは別に、総選挙の結果を否定するために宣布した非常戒厳に名目を与え、極右ユーチューブ視聴者層から支持を引き出すための手段として活用されているわけだ。

 問題は、このような態度が尹錫悦個人の法的・政治的利得の影響を論じることを越え、韓国社会全般に及ぼす害悪を論じなければならないほどになったことだ。ソウル西部地裁に対する極右ユーチューブ勢力のテロが代表的な事例だ。

 尹錫悦の非常戒厳宣布の直後、極右ユーチューブの反応は微妙だった。時間が経てば司法府によって野党代表が片づけられ(?)、与党候補が再び政権に就くのに有利な構図が作られるところだったのに、何のためにやぶ蛇にするのかという雰囲気だった。しかし、戒厳軍が選挙管理委員会侵奪を目標にしたという事実が確認されると、普段から不正選挙論を主張してきた人々は「選管上陸作戦に成功した」として歓迎した。

 彼ら極右ユーチューブの世界観において、韓国は中国共産党の執拗で組織的な浸透と操作の対象だ。野党「共に民主党」はもちろん、与党「国民の力」の一部勢力も中国の尖兵の役割を果たしており、マスコミとインターネット空間は中国資本と中国人に掌握されて久しい。韓国の選挙は中国政府の驚くべき技術力に支えられて操作されており、韓国はまるで香港のような境遇になるというのが彼らの主張だ。

■ファシズムへの対応はただ一つ、許さないこと

2020年11月3日、米連邦下院議員選挙でジョージア第14選挙区に共和党候補として出馬したQアノン陰謀論者のマージョリー・テイラー・グリーン氏(中央)が、支持者たちと共に集会に参加し、米国国旗に敬礼している/AP・聯合ニュース

 尹錫悦が支持層に向けて繰り返し発信したメッセージの核となるものは、「韓国版Qアノン(QAnon)」と言えるこの世界観を承認することだ。もはや反中国コードは「親中-親北朝鮮-権威主義-共産主義-民主党-進歩-フェミニズム-差別禁止法」を一つの「反対すべき対象」に結ぶ接着剤の役割を果たしている。すなわち、尹錫悦の「反国家勢力と主権侵奪勢力による不正選挙」というフレームは、先立って極右集団が考案した概念の鎖を、「反対」するための同盟として「尹錫悦-国民の力-朝鮮日報-極右ユーチューブ-保守キリスト教界-極右化された若い男性」を一つに束ねる役割を果たすわけだ。

 極右同盟が力による解決策を主張し、尹錫悦を熱狂的に支持し、実際に司法府を物理的に攻撃するまでに至ったのは、事態がファシズムの様相を帯び始めたことを示唆する。彼らは今や憲法裁判官を公然と攻撃し、弾劾審判の結論に対する不服を予告している。

 ファシズムに対する対応方法は、歴史的に見てただ一つ、それを容認しないことだけだ。現在のような状態が続くと、極右同盟は引き続き影響力を拡大していくか、少なくとも保全するだろう。そのような点で、現状維持は答えにならない。民主共和政を守ることを越え、より完全に実現するための、より多くの民主主義を求める闘いを続けなければならない理由が、まさにここにある。

キム・ミンハ|政治評論家(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/56806.html韓国語原文入力:2025-02-03 21:12
訳H.J

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