内乱罪被疑者の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が自身の弾劾審判で、捜査中であることを理由に「裁判遅延戦略」を試みる可能性が提起されているが、先の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾審判では、憲法裁判所はこのような主張を認めていない。
2016年12月に開始された「大統領朴槿恵弾劾審判」で、朴元大統領側は「チェ・スンシル氏らの刑事裁判を見守ろう」と主張した。すべての弾劾訴追事由を刑事裁判のように一つひとつ問うべきだ、とも主張した。憲法裁が職権でパク・ヨンス特別検事チームなどに捜査記録の提出を要請したことに異議を申し立ててもいる。
しかし憲法裁は、これらをすべて棄却した。弾劾審判を前に刑事訴訟法の準用範囲を検討した憲法裁は、それを根拠に弁論準備手続きで「弾劾審判は100%刑事裁判のように進めることはできない」と述べた。弾劾審判は刑事訴訟に関する法令を準用することが原則だが、「憲法裁判の性質に反しない限り」という条件がつくことから、刑事訴訟法を完全に適用する必要はない、との趣旨の判断だ。
刑事裁判の過程では、検事が提示した証拠に被告が同意しない場合は、証人尋問や検証手続きでそれらを一つひとつ改めて立証しなければならない。しかし当時、憲法裁は、当事者が同意しなくても裁判所の職権で証拠を採択したり審理を継続したりする「職権主義」を行使すると述べた。実際に憲法裁は、朴元大統領の弾劾訴追事由を個別に判断することはせず、5つの類型に区分して判断すると述べ、朴大統領側が申請した39人の証人のうち29人を棄却してもいる。法務部も当時、憲法裁に提出した意見書で「弾劾審判手続きで刑事訴訟に関する法令を無条件に準用した場合、憲法裁判の固有の性質を損なう可能性が排除できない」としている。
法曹界では、尹大統領の弾劾審判もこのような基準にもとづいて迅速に進められるだろう、との見方が優勢だ。また、尹大統領が起訴された場合は、刑事裁判が行われていることを理由に弾劾審判の審理の中断を要請することもありうるが、棄却される可能性が高い。ソン・ジュンソン検事長の場合、告発教唆事件の裁判が行われているとの理由で弾劾審判が停止されたが、単なる実行者であったため控訴審で無罪が宣告されたソン検事長の弾劾審判と、内乱容疑が明白な尹大統領のそれとは性格が異なる、との分析が有力だ。ある元憲法裁判官は16日のハンギョレの電話取材に対し、「刑事裁判を理由にソン検事長の弾劾審判が停止されたのは例外的な事例」だとして、「一審有罪、二審で無罪となった告発教唆事件は容疑が明確ではなかったため弾劾審判が停止されたと考えられるが、大統領の弾劾事件は、他の事案とは異なる見方をすべき」だと述べた。元憲法研究官のノ・ヒボム弁護士も、「憲法裁判は処罰のためのものではなく、違法な行為をした大統領を任期中に職務から排除して憲政秩序を回復するための制度であるため、刑事裁判とは機能が異なる」と指摘した。