国会が14日に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾訴追案を可決したことで、尹大統領を罷免するかどうかを決める憲法裁判所の選択に注目が集まっている。憲法裁は事件を受理してから180日以内に「罷免決定」または「棄却」のいずれかを宣告しなければならない。憲法裁は、尹大統領の行為が憲法と法律に重大に違反しているかどうかを集中的に検討するとみられる。国務委員や軍・警察の関係者などの「12・3内乱」の核心人物らの供述を総合するだけでも、3日の尹大統領の非常戒厳宣布行為は「違憲的要素」が明白で、罷免決定に長い時間はかからないとの見通しが優勢ではあるものの、尹大統領は「決してあきらめない」という強硬な立場を明らかにしているだけに、審判が長引く恐れもあると懸念する声もあがっている。
■非常戒厳は大統領の統治行為か?
14日に弾劾案を受理し、正式に弾劾審判に入った憲法裁は、16日午前に憲法裁判官会議をおこなって主審裁判官を決めるなど、事件処理の日程について議論する予定だ。憲法裁は、尹大統領の弾劾審判のための憲法研究官タスクフォース(TF)も設置することを決めている。
弾劾審判の争点の要は、尹大統領の戒厳宣布行為が憲法上の大統領の統治行為に当たるかどうかだ。尹大統領は12日の談話で、「大統領の非常戒厳宣布権の行使は、赦免権や外交権の行使と同様の、司法審査の対象にならない統治行為」だとして、「大統領の高度な政治的判断」だと主張した。大統領の権限を行使したのだから司法審査の対象とはならない、との主張だ。
だが、これは1997年の最高裁の「全斗煥(チョン・ドゥファン)氏内乱罪認定判例」に反する。1980年の全斗煥新軍部による非常戒厳宣布に対し、最高裁は「非常戒厳の宣布や拡大が国憲紊乱(びんらん)という目的を達成するために行われた場合には、裁判所はそれそのものが犯罪行為に当たるかについて(有罪か無罪かを)審査することができる」と判断した。最高裁はこの時、戒厳軍による国会封鎖について「国憲紊乱目的」が認められると判断し、これが全氏の内乱罪の主要な根拠となった。
ある元憲法裁判官は「尹大統領の非常戒厳宣布は国憲紊乱が目的だったというのは、軍や警察の関係者の拘束令状発行、国会での証言で一部は疎明されたとみるべきだ」と述べた。
違憲的な要素は明白にあるが、尹大統領の反発も強い。尹大統領は12日の国民向け談話で、約30分間にわたって、裁判で自らを弁護するかのように「12・3非常戒厳は内乱罪に当たらない」と詳しく反論した。本格的な審理がはじまれば双方の弁論が激化し、裁判が長引きうるということだ。ある元検事の弁護士は、「尹大統領は法律家なので、法律的争点を作り続けて裁判を空転させうる。尹大統領は誰よりも攻撃と防御を多くおこなってきた人物」だと述べた。
■刑事訴訟を理由に弾劾審判一時停止?
尹大統領の内乱罪の捜査は始まったばかりであることから、「憲法裁審判の一時停止」の可能性も提起されている。憲法裁判所法51条は「被請求人に対する弾劾審判請求と同一の理由で刑事訴訟が行われている場合、裁判所は審判手続きを停止できる」と定めているからだ。裁判官は、捜査機関の捜査資料を弾劾審判の資料として用いることもある。そのため与党の一部からは、「起訴中の審判停止」条項を根拠として審判を一時停止できる、と主張する声もあがっている。
だが、「審判の一時停止」条項は強制規定ではない。また、国家元首の職務を停止させる大統領の弾劾事件はできるだけ早く終わらせるべき、というのがこれまでの憲法裁内の世論だっただけに、法曹界では、憲法裁は審判の一時停止を受け入れないだろうとの見方が優勢だ。憲法裁法38条に則り、憲法裁は弾劾事件を受理してから180日以内に判決を言い渡さなければならない。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の弾劾審判は64日で棄却されており、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の罷免にかかった時間は92日だ。法曹界からは、2カ月後の来年2月、または遅くともムン・ヒョンベ、イ・ミソンの2人の裁判官の退任日である来年4月中には結論が出るだろう、との見通しが示されている。
別の元裁判官は、尹大統領の内乱罪裁判中の弾劾審判中止の可能性について、「尹大統領は布告令も自ら下しており、その内容もすでにすべて公開されているなど、(12・3内乱についての)事実関係の大半は明らかになっている。あえて捜査が終わるのを待つ必要はない」と述べた。