「ゴロゴロゴロゴロ」
8日午前0時を少し過ぎたころ、キム・ソンミさん(47)はアスファルトの上を転がるキャスターの音で目を覚ました。外を見ると、4人の外国人観光客が大きなスーツケースを一つずつ引きながら隣家の「韓屋ステイ」に入っていくところだった。
今月13日、「北村(プクチョン)」と呼ばれるソウル三清洞(サムチョンドン)の自宅で取材に応じたキムさんは、「いつ無礼な観光客が隣の家に入っていくか分からないから、毎晩緊張する」と語った。夜遅くにバンに乗って狭い路地まで入ってきたり、酒に酔って路地でわめき散らしたりすることも多いという。キムさんは3年前、北村でも最も静かな路地の評判を聞いて移り住んできたのだが、昨年8月に企業型韓屋体験施設が隣にできたため「静かな夜」を失った。
10年あまり嘉会洞(カフェドン)の韓屋に住んでいたAさんも、「オーバーツーリズム」(過剰観光による観光客と住民との摩擦)が深刻化したため、「より静かな場所」を求めて2019年に三清洞に引っ越してきた。しかし、今は企業型韓屋体験施設のせいで三清洞からも去るべきか真剣に悩んでいる。Aさんは、「このままでは韓屋で暮らしてきた住民がみな去っていってしまう」と懸念する。
鍾路(チョンノ)区庁などによると、現在ソウルで営業中の韓屋体験施設は270。このうち210が鍾路区に、さらにそのうち120が三清洞や嘉会洞などの北村一帯に集中している。このところ急速に韓屋体験施設を増やしているN法人は、北村一帯に14、西村(ソチョン)や益善洞(イクソンドン)も含めて鍾路区だけで34の韓屋体験施設を運営している。鍾路区庁の関係者は、「韓屋体験業についての問い合わせは一日に1、2件ほどある」と語る。
北村でこのような企業型韓屋体験施設が営業できるようになったのは、2020年9月に北村の地区単位計画が再整備されて以降だ。住民の説明によると、以前は韓屋に居住する住民が余っている部屋を宿泊客に貸す程度で、大きな騒音はなかったが、今は一棟貸しの無人営業であるため管理そのものが難しくなっている。このような理由から、10人あまりの北村住民が今年2月に「定住権を守ることを目指す北村住民の会」を立ち上げた。彼らは4月に、217人の北村住民の署名を集め、ソウル市と鍾路区庁に「企業型韓屋体験業」がこれ以上北村に入ってこないよう、地区単位計画を変更するよう要請している。
2020年に鍾路区議会議員として地区単位計画の再整備に賛成したソウル市議会のユン・ジョンボク議員(鍾路2)はハンギョレの電話取材に対し、「住民が韓屋を少し活用しながら、韓国を代表する文化である韓屋で仲良く暮らしていく北村を作ろうとしたのであって、企業に金もうけさせるために都市計画を見直したのではない。企業型韓屋体験業がこれ以上入ってこられないよう、地区単位計画を再整備すべきだ」と述べた。
ソウル市は、住民の定住権は保護すべきだとしつつも、地区単位計画の再整備については今後検討するとの立場だ。ソウル市は今年3月、韓屋を新築・修繕する韓屋体験業者に対する補助金や融資の限度を10%引き上げる韓屋体験業振興策を発表している。ソウル市韓屋政策課の関係者は、「鍾路区庁などが北村を特別管理区域に指定し、住民と企業が共生しうる方策を準備しているところだ」としつつも、「地区単位計画を改めて整備する際にこれらの請願事項を反映して検討する」と語った。