「週末に緊急の政府与党会議を開いて空売り禁止措置を発表する国は、世界で韓国だけでしょう」
経済部処(省庁)のある官僚が苦笑いしつつそう言った。与党と政府の主要関係者が出席する週末の高位党政協議会は、通常「レゴランド問題」など市場に大きな衝撃が生じた時に開くのが一般的だ。月曜日に市場が動揺しないよう早めに収拾対策を発表するという趣旨だ。有権者の「票集め」を狙った空売り禁止は、このような対策には程遠いにも関わらず、同じ形式を取ったのはおかしいという話だ。
今回の措置で、金融当局は「嘘つき」という立場に追われた。空売り禁止発表のわずか2日前の今月3日までは、「事実と違う」「確定していることはない」と報道説明資料で明らかにしていたからだ。金融委員会は現在に至るまで、立場を変えた理由をきちんと説明していない。キム・ジュヒョン金融委員長は5日、「韓国の特異な状況のため」とだけ述べた。
7日、企画財政部など政府部処の話によると、来年4月10日の国政総選挙を控え、金浦市(キンポシ)などのソウル編入、空売り全面禁止など、政界主導で公約があふれ始め、官庁界がざわついている。特に、従来の政策の方向性と衝突する足並みの乱れ、行政府パッシング(素通り)などが露骨にあらわれ、難色を示している。強引な政策推進にブレーキをかける「最後の砦」となるべき経済官僚たちは、汝矣島(ヨイド)の国会ばかりを眺めている様相だ。
総選挙用の政策転換で体面を損なったのは、経済を担う企画財政部と経済副首相(企画財政部長官)も同じだ。チュ・ギョンホ副首相はこれまで「銀行業界に超過利潤税(Windfall tax)を賦課すべきだ」という野党「共に民主党」の主張に、度々反対の立場を明らかにしてきた。しかし、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が先月30日の国務会議で「高金利にあえいでいる小商工人・自営業者はまるで銀行の奴隷となってしまっているようだ」と発言した後、空気ががらりと変わった。6日、イ・ボクヒョン金融監督院長は「超過利潤税が良いのかいろいろと考える必要があるが、それを土台に(銀行の)問題点が議論される必要はあると思う」として積極的な姿勢をみせた。当の企画財政部の税制室関係者は「私たちは超過利潤税を検討したこともない」と本音を示した。
「与党が金浦のソウル編入を不動産市場を念頭に置いて提起したとは思いたくありません」。不動産市場の安定を担当する国土交通部のある実務者はこう語った。首都圏の有権者に住宅価格が上がることを期待させるという「見え透いた公約」ではないことを願う、という意味だ。しかし続けて「(公約調整のための)党と我々側の事前協議はなかったと聞いている」と述べた。政界の人気迎合的な政策要求を緩衝し調整する経済省庁の役割と機能が低下し、党の一方通行が続いている。
このような状況によって、政府自身もつじつまの合わない自己矛盾に陥っている。企財部は「経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、財政準則(財政赤字および国家債務の上限を規制する制度)を導入していない国はトルコと韓国だけ」だとし、財政準則導入の必要性をこれまで強調してきた。ところが、OECD加盟国のうち空売り全面禁止を施行している国はトルコだけだったところへ韓国も加わり、説得力を失うことになった。
政策の組み合わせの精密さが落ち、通貨政策も混乱に陥った。現在の基準金利は年3.50%で、中立金利(経済を過熱または萎縮させない均衡金利、2%半ば~後半の推定)より高い。韓国銀行が、高物価と累増した債務問題解消のために「引き締め環境」を維持しているということだ。家計と企業は貸付金利が上がるなど、融資を受けるコストが大きく増えている。
しかし、一方では高金利による貸付不良化の懸念も出ているところに、もう一方で「新しい借金」がまた増えるという矛盾が発生している。不動産市場のハードランディングを防ぐための政府政策が、大衆の借金心理を刺激したためだ。家計貸付が今年4月から再び増えると、政府はあたふたと「家計貸付引き締め」に入ったが、尹大統領の「銀行の奴隷」発言はこれを再び戻し、貸付金利を人為的に下げる余地がある。韓国銀行内部では、金融通貨委員会会議や金融報告書などを通じて「家計貸付の増加に政策金融が影響を及ぼしている」、「政策協力を強化しなければならない」と、不愉快さ表わす声が漏れている。
問題は、本当にお金のかかる公約戦はこれからだという点だ。空売り禁止に続き、予算・税金関連の公約が本格的に出てくると予想されることから、政府の担当者たちのムードは張りつめている。空売り禁止の初施行日である6日には「政府・与党が株式譲渡所得税の賦課基準を緩和する」というあるネットメディアの未確認報道で動揺したのは、証券界だけではなかった。課税当局は「事実ではない」という立場だが、大衆の人気を追う公約が主流となっているがために、実効性のあやしい無責任な予備公約も話題にのぼっている。
企画財政部の主要関係者は「脆弱階層や脆弱分野に対する支援を増やさなければならない時だが、選挙を前に根拠が足りないばらまき公約が政界からあふれ出るのではないかと心配だ」と述べた。