与党「国民の力」が金浦市(キンポシ)のソウルへの編入を党の方針として推進する中、金浦がソウルに編入されればソウルが北朝鮮と接する軍事境界線隣接地域になるため、首都防衛計画に混乱が生じると指摘されている。
シン・ウォンシク国防部長官は3日、ソウルの国防部内での担当記者団との昼食懇談会で、金浦市のソウル編入によって生じる安保問題について、「(北朝鮮が金浦に侵入して)ソウルに上陸したという報道がなされれば、象徴性があるのは事実」だとしながらも、「(この問題は)軍事作戦の面では有利不利のない価値中立的なもの」だと述べた。シン長官は「金浦がソウルに編入されるとすれば、金浦を担当していた陸軍師団や海兵隊を首都防衛司令部に配属するかどうかなどを判断すればよい。責任区域の調整に伴う部隊調整はそれほど難しいことではない」と述べた。
しかし「ソウル市金浦区」が現実化すれば、ソウルが直面する脅威が異なってくる。金浦と北朝鮮の間の川幅は、狭いところでは1.25キロだ。北朝鮮から迫撃砲を撃たれれば届く距離だ。「メガソウル」は北朝鮮の長射程砲の脅威だけでなく、迫撃砲の脅威にもさらされることになる。金浦は脱北民団体が対北朝鮮ビラを飛ばすところで、2014年以前は北朝鮮に対する心理戦として愛妓峰(エギボン)のクリスマス燈塔に火をともしていた場所でもある。北朝鮮は、ビラ散布の震源地と愛妓峰に対して照準射撃を行うと威嚇したため、住民は不安に震えなければならなかった。有事の際には「軍事境界線隣接地金浦」の脅威が「首都ソウル」の脅威へと変わりうる。北朝鮮の武装ゲリラが大統領府を襲撃した1968年の1・21事態を除けば、休戦後にソウルで南北が武力衝突したことはない。金浦が京畿道であれソウル市であれ北朝鮮の攻撃を受けてはならないが、脅威の性格によって韓国の受ける影響は変わる。
2001年9月11日の同時多発テロの際、米国メディアは「America under Attack」と見出しを付けて報道した。1941年の真珠湾奇襲以降、米本土が攻撃を受けるのは初めてだったからだ。有事の際、「Seoul under Attack」との見出しを付けた外国メディアの報道が登場すれば、韓国の国家競争力と外国人投資の誘致が直撃を受ける可能性は排除できない。
また、金浦のソウル編入は「ソウル死守」という現在の韓国軍の作戦計画にも大きな影響を及ぼしうる。
ソウルは休戦ラインから40~50キロ離れている。作戦の縦深(作戦の範囲や長さ)が短い。軍はソウル死守のため、休戦ラインの南の地域をGP、GOP、FEBA(戦闘地域戦団)、A(アルファ)、B(ブラボー)、C(チャーリー)、D(デルタ)、E(エコー)に区分している。韓国軍は、ソウル以北に設定されたFEBA地域に大規模な兵力と兵器を配備しソウルを守っている。金浦がソウルに編入されれば、現在のソウル死守作戦計画に混乱が生じうるということだ。
文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は2018年の9・19軍事合意で、ソウル以北の緩衝区域を広げた。1978年に朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領は、北朝鮮軍の長射程砲の射程外となる忠清圏への首都移転を考慮している。だが「ソウル市金浦区」になれば北朝鮮との緩衝区域が事実上なくなり、ソウルは北朝鮮軍の迫撃砲の射程内へと「北上」することになる。
かつて首都圏防衛の責任を担っていた予備役将軍は、ハンギョレの電話取材に対し、「ソウル以北から緩衝区域が消えれば、ハマスがガザ地区の隣接地域を奇襲したように、ソウルが北朝鮮の奇襲に直にさらされる恐れが高まる」と述べた。