福島第一原発事故の汚染水放出に触発された中国政府の日本産水産物全面輸入禁止と関連し、日本政府が世界貿易機関(WTO)への提訴を検討しているという。汚染水をめぐって日中間の軋轢(あつれき)が激化する中、来月初めの国際会議を契機に高官級対話が模索されているが、実現は容易でない雰囲気だ。
毎日新聞は30日「(日本政府は)対話を続ける構えだが、中国の軟化は見通せない状況で、政府は世界貿易機関(WTO)への提訴も含めた対応策の検討にも着手した」と報じた。日本政府関係者は同紙に「過去のWTO提訴の前例を精査するなど検討作業に既に着手している」と述べた。
日本政府はWTOへの提訴を検討しながらも、ひとまず中国との対話で問題を解決する考えだ。外務省幹部は同紙に対し、「9月上旬までの1回目の放出後のまとまったデータをもとに交渉していく」と語った。
しかし、中国が態度を変えなければ、さらに強力な対応が必要だという声が出ている。最近の水産物全面輸入禁止に続き、数千件を超える抗議電話、日本人学校への攻撃など、ますます激しくなる中国の「日本叩き」が影響を与えた。
林芳正外相は29日の記者会見で、中国を相手にWTOへの提訴を検討するのかという質問に即答は避けたが、「WTOの枠組み等のもとで必要な対応を行っていく」とし、可能性を残した。高市早苗経済安保担当相は、中国の輸入禁止について「経済的威圧」と批判した。また、オーストラリアが中国をWTOに提訴したことを挙げ「何らかの形での対抗措置も検討しておく段階に入っている」と強調した。
提訴に対する慎重論もある。読売新聞は「手続きは年単位の時間を要する上、2019年には、韓国政府による日本産水産物の輸入規制を巡る争いで、日本は逆転敗訴した」とし、日本政府はWTOへの提訴には慎重姿勢だと伝えた。
日中政府が解決の糸口を見出すために高官級会談を成功させられるかも注目される。岸田文雄首相は来月5~7日、インドネシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を機に、中国の李強首相と会う案を模索している。時事通信は「(政府関係者は)李首相との会談は難しいとの見方を示した。日本政府内には、中国の対抗措置が長引くとの観測が広がる」と伝えた。
対話の試みは続く見通しだ。中国の習近平国家主席と岸田首相は9~10日、インドで開かれるG20首脳会議にも出席する。毎日新聞はこの日、複数の外交筋の話として「日中韓3カ国が外務省高級事務レベル協議を9月下旬にソウルで開催する調整に入った」と報じた。