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日本の「敵基地攻撃」方針に沈黙…大韓民国の「保守」は死んだのか

登録:2022-12-21 10:21 修正:2022-12-21 11:15
政治BAR_クォン・ヒョクチョルの「見えない安保」 
 
日本、反撃能力で北朝鮮に先制攻撃の場合 
憲法上「北朝鮮も領土」である韓国の主権を侵害 
大統領室「自国防衛に深い悩み」…日本に理解示す 
米国と日本、「北朝鮮領土」を韓国領土とみなさず 
「領土守護」忘れた保守、「奇異な沈黙」
9月30日午前、東海公海上で韓米日の軍艦が機動訓練を行っている。最前方から、米原子力推進潜水艦アナポリス、原子力推進空母ロナルド・レーガン、韓国駆逐艦文武大王、日本護衛艦あさひ、米イージス駆逐艦ベンフォールド、米巡洋艦チェンスラスビル=海軍提供//ハンギョレ新聞社
政治BAR_クォン・ヒョクチョルの見えない安保//ハンギョレ新聞社

 日本は「日本に対する攻撃を防ぐための必要最小限の自衛措置として相手の領域に有効な反撃をすることが可能」という内容を骨子とする「敵基地反撃能力」を国家安保戦略として採択した。日本政府は「反撃能力の行使は日本の自衛権の行使であり、他国の許可を得るものではない」という立場を明らかにした。有事の際、韓国の許可なしに日本が北朝鮮を攻撃しうると公言しているわけだが、朝鮮半島の安保に責任を持つ韓国大統領室はのんびりした態度だ。日本の反撃能力について、大統領室は18~19日、「韓米日安保協力という大きな枠組みの中で議論可能な内容」と繰り返し明らかにした。18日、大統領室関係者は「北朝鮮の脅威は大韓民国だけでなく日本にも直接的な脅威となっている状況であり、そのような点で日本も今いろいろと自国防衛のための悩みが深いのではないかと思う」と述べた。まるで日本の反撃能力を理解するというようなニュアンスだ。

北朝鮮の領土=大韓民国の領土なのに…大統領室、日本の北朝鮮攻撃方針に「自国防衛の悩み」

 大統領室だけでなく、保守マスコミの日本の反撃能力関連報道も生ぬるい。保守の土台は愛国心と領土守護であるはずだ。韓国の憲法第3条は領土を「朝鮮半島とその附属の島嶼」と規定している。日本が韓国の同意なしに北朝鮮を先制攻撃するとしたら、それは韓国領土を侵犯することになる。日本の反撃能力の行使は、韓国憲法の領土主権と衝突する。大統領は就任式で次のような宣誓をする。「私は憲法を順守し、国家を保衛し、祖国の平和的統一と国民の自由と福利の増進および民族文化の創達に努め、大統領としての職責を誠実に遂行することを国民の前に厳粛に宣誓します」。憲法第69条で規定している内容だ。しかし、大統領室の日本の反撃能力への対応を見ると、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は憲法上の約束を守っているのか」という疑問が生じる。

 大統領室関係者は19日、日本の反撃能力を「韓米日安保協力の大きな枠組みの中で後続協議を続けることができる」と述べた。大統領室は、米国が韓国と日本の間で仲裁・調整の役割をすれば、日本が有事の際に韓国の許可なしに北朝鮮を攻撃することは起きないと考えているようだ。実際、日本が反撃能力を備えたとしても、米国に依存する可能性が高い。日本が北朝鮮のミサイル発射台を攻撃するのは、最先端のミサイルを備えたからといってできることではない。北朝鮮のミサイル発射台の位置を事前に把握し、攻撃の兆候を探知するためには、高性能偵察衛星、地上監視用ドローンが必要だ。攻撃前に特殊部隊が北朝鮮に侵入してミサイル発射台の位置を正確に把握しなければならず、このように収集した情報を攻撃部隊とリアルタイムで共有できる指揮通信システムを備えなければならない。ミサイル発射台への攻撃を正確に行うには、北朝鮮の防空網も同時に制圧しなければならない。

 日本が反撃能力の行使に必要な情報収集分析と打撃能力を十分に備えるには、莫大な費用と時間が必要だ。結局、米日間の政策調整が行われるので、「韓米日安保協力という大きな枠組みの中で議論可能な内容」と大統領室は判断したのだろう。言い換えれば、米国を信じるということだ。しかし、日本の反撃能力保有に対して「大胆で歴史的な措置」と歓迎した米国の態度からは、韓国の領土主権侵害に対する懸念や考慮は見られない。

北朝鮮の金正恩国務委員長は9月25日から10月9日までの間、北朝鮮軍戦術核運用部隊・長距離砲兵部隊などの訓練を指導した。写真は当時の北朝鮮軍の訓練の様子/朝鮮中央通信・聯合ニュース

米国と日本は北朝鮮領土を韓国領土として認めたことがない

 日本は反撃能力行使の名分として自衛権を掲げているが、実際の争点は北朝鮮の領土を韓国領土としてみなすかどうかだ。日本は国連加盟国である北朝鮮を韓国とは別の主権国家とみなしている。北朝鮮の領土は韓国の領土ではないため、北朝鮮を先制攻撃する際、韓国の許可は必要ないということだ。2015年10月の韓日国防長官会談で、自衛隊が北朝鮮地域に進入する場合は事前の同意が必要だとした当時のハン・ミング国防長官の要求に対し、日本の中谷防衛大臣は明確な回答を避けたという。

 米国は、北朝鮮領土が韓国領土なのかについて明確な立場を示していない。この問題をめぐる議論は、朝鮮戦争の頃、韓米間で激しく展開された。北朝鮮領土は韓国領土だという韓国政府の態度は明確だ。しかし朝鮮戦争当時、米国の考えは全く違った。1950年9月26日、米国務長官のアチソンは、米国防長官代理に送った電文でこのように明らかにした。

 「38度線以北に対する大韓民国の主権は、一般的に認められていない。大韓民国とその軍隊は国連軍の一員として38度線以北地域で軍事作戦と軍事占領に参加できるが、(大韓民国の)主権の北朝鮮地域に対する拡張のような政治的問題は、朝鮮半島の統一を完成させるための国連の措置を待たなければならない」

 このような米国の主張を受け、1950年10月7日、国連総会は38度線以北地域に対する韓国政府の管轄権を認めず、朝鮮半島全体で国連の監視のもと選挙を実施し、統一韓国政府を樹立することを決議した。朝鮮戦争当時の米国の北朝鮮占領政策の基調は、38度線以北に対する大韓民国の主権を否定し、国連の名で北朝鮮を占領し統治するということだ。

 1950年秋、韓国軍第1軍団が米軍より半月ほど先に北進し、咸鏡南道咸興(ハムフン)に進駐した後、第1軍団民事処が中心となって初期占領政策を推進した。しかし、続いて米軍第10軍団が進駐し、韓国軍第1軍団民事処は米軍第10軍団民事処の指揮を受けることになった。この過程で韓国軍と米軍は鋭く対立した。韓国軍1軍団のユ・ウォンシク民事処長が「ここは大韓民国の領土だ」として業務引継ぎを拒否すると、米軍はこのように通告する。「ここは国連軍の占領地区であって、大韓民国の領土ではない。大韓民国の主権はここでは認められない」

 1950年秋に韓国と米国が激しく繰り広げた北朝鮮地域の統治主体と方式の議論は、同年冬、中国軍の参戦で終わった。そして現在、韓国は憲法上の領土条項を米国に堂々と打ち出せる立場になったのか。状況はそう簡単ではない。1950年10月以降、国連では北朝鮮地域の大韓民国主権を否定した決定を覆す何の措置もなかった。米国は朝鮮戦争当時の北朝鮮地域の統治主体と方式を変えたという話をしたことがない。

日本の岸田文雄首相が16日、東京で記者会見をしている。日本政府は同日開かれた臨時閣議で、反撃能力の保有を含め防衛力を根本的に強化する内容を盛り込んだ安保3文書の改定を決めた/聯合ニュース

保守政党・マスコミ、「領土守護」を強調しながらも日本の「敵基地攻撃」方針には沈黙

 米国は2005年以降、有名無実化した国連軍司令部を再活性化させている。在韓米軍司令官が国連軍司令官と韓米連合司令官を兼任しており、米国は朝鮮半島有事の際に国連軍の資格で北朝鮮に進入することができる。もし米国が中心となった国連軍が北朝鮮に進入すれば、1950年秋と同様に北朝鮮の地で大韓民国の主権はないも同然になる。

 大統領室は、日本の反撃能力に対する懸念を韓米日安保協力の枠組みの中で解決するという方針だが、米国の仲裁・調整の可能性に大きな期待をするのは難しい。米国と日本は、韓国と違って北朝鮮を韓国領土と認めていないからだ。

 与党「国民の力」など保守政党と保守マスコミは、普段は「大韓民国は朝鮮半島の唯一の合法政府」であるとし、「北朝鮮の土地も韓国の領土」と主張してきた。日本の反撃能力の行使は、この主張と正面から衝突することになる。それでも保守政党とマスコミは、日本の反撃能力に対して「奇異な沈黙」で一貫している。「この国の保守は凍りついて死んだのか」と疑問が生じるほどだ。

▽引用した資料 
『韓国1950戦争と平和』(パク・ミョンリム著、ナナム刊) 
『朝鮮半島有事の際の米日同盟における日本の軍事的役割:歴史的経緯と制度化の様相を中心に』(ユン・ソクチョン著、国立外交院発行) 
『日本の敵基地攻撃能力の保有問題:分析および含意』(ユン・ソクチョン著、国立外交院発行)

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1072486.html韓国語原文入力:2022-12-20 9:15
訳C.M

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