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子どもを失い、残ったのは「長い闘い」…梨泰院惨事、国家賠償の3つの争点

登録:2022-11-24 05:59 修正:2022-11-24 08:16
[ハンギョレ21] 
弁護士団体が相次いで取り組む「梨泰院惨事」法律支援、国家賠償はなされるか
22日午前、梨泰院惨事の遺族がソウル瑞草区にある「民主社会のための弁護士会」の大会議室で開かれた立場発表記者会見で涙を流している=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 梨泰院(イテウォン)惨事が発生してから18日目となる2022年11月15日、惨事の犠牲者遺族が初めて一堂に会した。犠牲者17人の遺族30人あまりはこの日、「民主社会のための弁護士会」(民弁)がソウル駅近くで開いた懇談会に参加し、2時間30分ほど話を交わした。民弁によると、遺族らは皆で集まって互いを慰め、コミュニケーションをとる機会がいまになってやっと用意された点を残念がったという。真相究明と責任者処罰が必要だとする意見も出た。ある遺族が「(犠牲者が)なぜそこに行ったのかを問うのではなく、なぜ帰ってこれなかったのかを問わなければならない」と語ったと民弁は伝えた。

 これまで政府は、惨事の遺族との話し合う場を設けなかった。ただし、国家賠償の可能性には言及した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の海外歴訪中の11月13日、大統領室の関係者は、カンボジア・プノンペンのプレスセンターで記者団に対し、梨泰院惨事に関連する国家賠償の可能性の有無について法律検討に入ったことを明らかにした。

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大統領歴訪中「国家賠償の法律検討」

 弁護士団体が政府より先に出た。11月8日、民弁が「10・29惨事真相究明および法律支援タスクフォース(TF)」を設立し、グッド・ロイヤーズ公益情報提供センターも、国を相手取る損害賠償訴訟に参加する遺族等を募集した。大韓弁護士協会(大韓弁協)も11月14日、梨泰院参事に関する法律支援をすることを明らかにした。梨泰院惨事の遺族と被害者が国を相手取り責任を問うことができるよう、法律支援に乗りだしたのだ。

 民弁の「10・29惨事TF」共同幹事を担当するイ・チャンミン弁護士は「すでに民事訴訟で国家賠償を要求することが可能なほど(明らかになった国の過ちは)十分だ」とし、「どのラインにまで惨事当日の状況が報告されたのかが重要だ。警察や行政安全部などの指揮系統にいる人々が状況を認知していたという事実が明るみに出れば、国が責任を負わなければならない賠償額は変わる」と述べた。現在、警察庁の特別捜査本部(特捜本)が進めている捜査では、やはりこれらの指揮系統に業務上過失致死傷の容疑を適用できるかどうかが核心となっている。

 もし惨事の遺族と被害者が国家賠償を要求することになれば、国の責任を問う争点は大きく分けて3つある。ハロウィーンを控えた事前の準備段階での惨事の予見可能性▽惨事当日の10月29日夜から10月30日深夜の間の政府の対応の適切性▽主催者がいないイベントに対する政府の責任の有無だ。

2022年11月3日、ソウル鍾路区にある参与連帯のアルムドゥリホールで「梨泰院惨事と政府の対応に対する緊急記者会見」が開かれた=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 一つ目、警察と龍山(ヨンサン)区役所は、ハロウィーンを控えあのように人が集中する状況を予想できなかったのだろうか。龍山警察署が作成した文書『2017~2022年ハロウィーン対策』によると、警察は2020年に「人口の密集による圧死および墜落など」に備えなければならないとする文言に言及したことがある。もし警察が惨事の可能性を予測できたにもかかわらず、これを防ぐ注意義務を怠ったという事実が認められれば、国の責任を問うことができる。イ・チャンミン弁護士は「龍山警察署は2022年10月初めから数回、ハロウィーンを控え梨泰院一帯に人が集中するという情報報告書を作成し、ソウル警察庁に伝えていた。にもかかわらず、事前準備の計画は立てられなかった」と述べた。大韓弁護士協会も、11月14日に公開した報道資料で「3年ぶりにマスクなしで開かれる祭りの期間だったので、惨事当日の梨泰院一帯に大規模な人波が押し寄せることは十分に予見される状況」だったとし、「龍山区役所と龍山警察署も、独自に市民の安全に対する事故を懸念する情報報告書と文書を事前に作成していたことが分かった」と指摘した。

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1998年の危険発生防止未措置、国家賠償責任を認定

 二つ目に、梨泰院惨事当日の政府対応でも、違法性が問われるいくつかの部分がある。市民らが圧死の危険性を伝え何度も112番で通報したが、警察が適時に警察力を配置しなかったからだ。惨事犠牲者のための国家賠償請求の訴訟人団を募集する公告文を出したグッド・ロイヤーズのチョン・スミ代表弁護士は「112番の通報だけでなく、ハミルトンホテルの街頭に設置された監視カメラ(CCTV)などでも警察が緊急の状況をモニタリングできたが、措置は取らなかった」とし、「公務員である警察が、職務上行わなければならなかったことを行わなかった点は違法であり、国家賠償法によって遺族は国家に損害賠償請求訴訟を起こせる」と説明した。最高裁は1998年、警察官が警察官職務執行法第5条で規定された「危険発生防止措置」を取らなかったという理由で国家賠償責任を認める判決を下したことがある(最高裁判所98タ16890判決)。

 三つ目に、龍山区役所や行政安全部などは「主催者がいないイベント」だったという理由で地方自治体の法的義務はないと主張している。しかし、災害および安全管理基本法は、国と自治体は災害管理責任機関として災害と事故に備えなければならないとする義務を強調していた。災害が発生する懸念がある場合も自治体の首長は、応急措置を取る義務▽動員命令▽危険区域設定▽通行制限などを行わなければならない。民弁の「10・29惨事TF」共同幹事を担当するオ・ミネ弁護士は、11月8日に開かれた記者懇談会で「災害および安全管理基本法によって、龍山区とソウル市、行政安全部は安全対策を用意していなかった法的責任を避けることはできない」と述べた。

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少なくとも3~4年要する長い闘い

 「国が適切な責任糾明をせず、挫折感と無力感が感じられると遺族は語っている。法律をよく知らない遺族の場合、訴訟を起こすと国によって不利益を被るという漠然とした不安感がある。全員が委縮している」(チョン・スミ弁護士)。梨泰院惨事の犠牲者遺族と面会したヤン・ホンソク弁護士(法務法人イ・ゴン)は「(梨泰院惨事の)犠牲者家族は(互いに誰なのか分からず)全員が断片化されている。それぞれの遺族の立場を全体の立場で一般化できない難しさががある。それぞれ別の犠牲者家族が訴訟を起こしても、裁判所では同じ結果が出るはずだ。ただし(国を相手取る訴訟は)少なくとも3~4年を要し、非常に長い闘いになるだろう」と述べた。

イ・ジョンギュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1068491.html韓国語原文入力:2022-11-23 18:28
訳M.S

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