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ソウル豪雨、「便器の水が瞬く間に部屋に」半地下で辛うじて生きのびたものの…

登録:2022-08-12 03:55 修正:2022-08-12 07:10
浸水被害が集中したソウル冠岳区・銅雀区一帯 
路地裏には濡れた床材や家電製品などが山積み 
ソウルでは20万戸が地下か半地下の部屋
10日、ソウル冠岳区新林洞の路地の両側に、浸水被害を受けた住民たちが運び出した様々な什器が置かれている=ソ・ヘミ記者//ハンギョレ新聞社

 「この真っ黒なのがすべて便所の水の跡です。掃除機をかけたり雑巾でふいたりしても落ちないですね。薬を撒いてもにおいも落ちないし」

 10日午後、ソウル銅雀区新大方1洞(トンジャック・シンデバンイルトン)の集合住宅の半地下に住むPさん(66)は、タンスの下の床材をめくってセメント製の床についた複数の黒い染みを指差した。濡れた床を乾かすためにボイラーをつけたため外より室内温度が高く、額と首にタオルを巻いているPさんは大粒の汗をぬぐった。8日夜7時30分ごろ、Pさんの自宅の玄関前にあった浄化槽から水が逆流しはじめた。同時に家の中では、トイレからの水が部屋の中にあふれた。Pさんは「3台の揚水機で排水したが、ぜんぜん追いつかなかった」と語った。

 この日、浸水被害の集中したソウルの冠岳区(クァナック)・銅雀区一帯を見て回ると、8日から9日にかけての豪雨の跡が生々しく残っていた。大通りにも乾いていない泥があちこちに残っており、浸水した車も放置されていた。集合住宅が密集している狭い路地の奥は、半地下の居住者たちが運び出した什器で車が通りにくいほどだった。

 8日夜に40代の姉妹と娘の一家3人が亡くなったソウル冠岳区新林洞(シルリムドン)の住宅街一帯は、道の両側に床材、家具、服、マットレスなどが山積みになっていた。3人が死亡した住宅から直線距離で100メートルほど離れた集合住宅の半地下に住むKさん(52)は「人が死んだというのを聞いてぞっとした」と語った。この住宅の半地下に住んでいるのは3世帯で、居住者全員が玄関の扉を開け放ち、浸水した自宅を片付けているところだった。Kさんは「(8日には)大田(テジョン)に建設現場の仕事をしに行っていたため、家にいなかった。(避難した)隣の人の話を聞くと、夜は水が胸の高さまで来たという。だとすれば玄関のドアが開くはずはない。もしあの日、家で寝ていたら、防犯窓のせいで窓からも出られなかっただろう」と語った。Kさんは洞住民センターに被害届を出したが、「届け出たところで補助はたかが知れている。解決策がない」とため息をついた。Kさんは冷蔵庫、テレビ、炊飯器、扇風機など、家の中にあったほぼすべての家電製品を捨て、前日(9日)夜から宿泊施設で生活している。

10日、ソウル銅雀区新大方1洞の集合住宅の半地下に住むPさんが、居間の床材をめくって浄化槽の水があふれた跡を見せてくれている=ソ・ヘミ記者//ハンギョレ新聞社

 8日夜の豪雨で命の危険を感じた住民もいた。夫と共に半地下住宅に住んでいるYさん(63)は「私が揚水機を借りに住民センターに行っている間に、家の中に水が入らないように玄関のドアを閉めていた夫が、家の外に出られなくなっていた」とし「消防隊が窓を取り外してピアノの上に登っていた夫を救助したが、もう少し遅れていたら本当に死んでいたかもしれない」と語った。Yさんは「また雨が降るというし、また家が浸水するのではないかと非常に心配だ」と言ってため息をついた。

 11日も、集合住宅の密集するソウル冠岳区の狭い路地の奥は、半地下住宅の居住者たちの出した什器でいっぱいだった。片付け作業も真っ最中だった。路地の奥では、掘削機の運転手がゴミ収集車にゴミを積んだり、陸軍特戦司令部所属の軍人たちがグループに分かれて、浸水した廃棄物を住宅から路上に運び出したりしていた。中古家電のリサイクルショップの前には洗濯機、冷蔵庫、エアコン、室外機などが25台以上積んであった。

 「冷蔵庫を1つ買うだけで80~90万ウォン(約8万~9万円)するのに、どうすればいいのか…。私たちには買うお金がないのに。あれを買ったらひと月どうやって暮らすんですか、まったく」

 ソウル冠岳区新林洞の半地下住宅に住むUさん(71)は9日から3日連続で、駐車場でスプーンやおたまなどの家財道具を、漂白剤を薄めた水に浸したスポンジで洗っていた。集合住宅の入口の横にある駐車場の奥には冷蔵庫、物干し、掃除機など、Uさん夫婦が半地下住宅から運び出した家財が置かれていた。Uさん夫婦の半地下の家は8~9日の豪雨で浸水。Uさんは「一生かけてそろえた家財なのに涙が出る。買い直すのも簡単ではない。私は体が悪く、夫は30年ほど建設現場で働いて耳を悪くしているのに、こんな人はあまり使ってくれない」とため息をついた。

 浸水被害を受けた住民たちは、当面は臨時居住施設、子や親戚の家などに身を寄せているが、長期的にも他の住居地を当たることが難しい境遇にある。銅雀区の住民のシム・インテクさん(75)は「私は基礎生活(生活保護)受給者なので、国が貸してくれる金(LH低所得層住居費支援)で住めるところがあまりない」とし「むかし大林洞(テリムドン)に住んでいた時も浸水被害を被ったことがある」と語った。Yさんも「不動産(公認仲介士事務所)に家を当たろうとしたが、この近くはみんな事情が似たり寄ったりなので部屋がないと言われた」と語った。Kさんは「来年も再来年もこのようなことが起きないという保証はないので、絶対に半地下には住まないつもり」としつつも「安い家を見つけるのは難しいと思う」と語った。

 ソウル市が10日に「地下や半地下は住居として使用できないようにする」と発表したことについて、住民たちは肯定的な反応を示しつつも、政策の実効性については疑問を呈した。半地下住宅の住人で、今回の豪雨の被害を受けたキム・ヨンチョンさん(64)は「良い対策のように見えるが、半地下は高い階よりはるかに安い。この価格で他の場所が探せるかどうかは分からない」と語った。

 家主たちは、豪雨で自分たちも被害を受けたと吐露した。半地下住宅を5世帯に貸しているBさん(56)は「財産上の被害が大きい。賃借人に保証金を返してくれと言われれば全て返さなければならないし、洗濯機、冷蔵庫、エアコンも全て買い替えなければならないのに、政府が家主に被害補償してくれるという話はまだ聞いていない」と語った。家の前に浸水した家電を運び出していたキム・ジョンスさん(70)も「以前、区役所が遮水幕を設置してくれたのだが、それでは防げなかった」と語った。

8日の豪雨で浸水した跡が残っているシム・インテクさんの家=ソ・ヘミ記者//ハンギョレ新聞社
8日の豪雨で浸水した跡が残っているシム・インテクさんの家=ソ・ヘミ記者//ハンギョレ新聞社
ソ・ヘミ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1054317.html韓国語原文入力:2022-08-11 07:00
訳D.K

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