北朝鮮が25日、韓日歴訪を終え、帰国の途についたジョー・バイデン米大統領に見せつけるかのように、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と短距離弾道ミサイル(SRBM)3発を(時間差を置いて)ほぼ同時に発射したことで、朝鮮半島で緊張が高まっている。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長は、バイデン大統領が韓日首脳と対北朝鮮抑止力の強化方針を重ねて明らかにしたことを受け、米国と韓国・日本を射程に収める大陸間弾道ミサイルと短距離弾道ミサイルの発射で「強対強」の対応という答えを示したわけだ。多くの専門家は、金正恩総書記が「6月上旬」招集を予告した労働党中央委第8期第5回全員会議を機に「7回目の核実験」決定を下す可能性も排除できないとみている。
北朝鮮が同日午前6時頃に発射した大陸間弾道ミサイルは、新型の火星17型である可能性があるという。軍当局は大陸間弾道ミサイルの飛行距離は約360キロメートル、高度は約540キロメートルだと説明した。午前6時37分と6時42分に発射した2発は、北朝鮮版イスカンデル(KN23)と呼ばれる短距離弾道ミサイルの可能性がある。2番目のミサイルは高度約20キロメートルで消失し、発射に失敗したものとみられる一方、3番目のミサイルの飛行距離は約760キロメートル、高度は約60キロメートルと推定された。
北朝鮮が大陸間弾道ミサイルと短距離弾道ミサイルを「同時に」発射した背景には、いくつかの戦略的な思惑があると言える。
第一に、発射の「時期」が意味深長だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は「北朝鮮の挑発が韓米首脳会談後、バイデン大統領が米国に到着する前に行われたことに注目する」と述べた。北朝鮮が2種類の弾道ミサイルを一緒に発射したのが、中ロ共同空中訓練の時期と重なった事実も注目に値する。24日、中国とロシアの軍用機6機は独島(ドクト)の東北側の韓国防空識別圏(KADIZ)に進入した。韓米首脳が「核」を拡大抑止の手段と明示するなど、強硬方針を明確にしたことをうけ、応酬に出たと分析できる部分だ。
第二に、軍事技術的には北東アジア情勢がこじれた今が、金総書記が強調してきた「核抑止力の多種多様化」を試す「適期」だと判断した可能性がある。国家情報院は同日、国会に「金正恩政権発足以来、2種類以上の弾道ミサイルを同時発射した初めての事例」だと報告した。キム・テヒョ国家安保室1次長は記者団に対し、「最初は火星17型(大陸間弾道ミサイル)で発射し、その次に2発のSRBMを発射したことには、核運搬性能の改良の意図が含まれていると判断した」と述べた。多様なミサイルに核弾頭を搭載して使用しようとする性能改良に向けた努力だということだ。
第三に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で揺れる民心を「外部との対決構図の強化」でなだめる効果も狙ったようだ。何よりも北朝鮮は、米国がロシアや中国とそれぞれウクライナ戦争と経済・通商をめぐる軋轢のため、戦略的軍事行動をしても国連安全保障理事会レベルの制裁をするのは困難な状況も考慮したものとみられる。
状況の深刻性は、金正恩総書記の戦略的武力示威を防ぐ制御力が見当たらないことにある。11月の中間選挙を控え、政治的に守勢に追い込まれたバイデン大統領が、選挙前に金総書記に意味ある提案をする可能性はほとんどないというのが大方の見通しだ。バイデン大統領は22日、金総書記に伝える言葉があるかという質問に対し、「ハロー、以上」(Hello.Period)と答えた。尹大統領にも対話に乗り出す意向はないとみられる。尹大統領は23日、CNNとのインタビューで、「あちら(北朝鮮)の顔色をうかがう政策は失敗した」と述べた。
キム・テヒョ1次長は記者団に対し、「豊渓里(プンゲリ)の核実験場と別の場所で、7回目の核実験を準備するための核起爆装置の作動試験を行っていることを探知した」とし、「数日内に核実験が行われる可能性は低いが、その後の時点では十分ありうるとみている」と述べた。