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プーチン独裁への拒否感を背景に続くIT人材流出…ウクライナ侵攻で加速化

登録:2022-05-07 02:42 修正:2022-05-07 07:41
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イ・ヨンインのグローバルアンテナ
2022年2月27日、ロシアのモスクワで市民がロシアのウクライナ侵攻に反対するデモを行っている/ロイター
イ・ヨンインのグローバルアンテナ//ハンギョレ新聞社

 ロシアの侵攻でウクライナから多くの難民が故国を去った。戦争の惨禍から逃れる女性と子どもが多い。ロシアでも戦争以降「エクソダス」(国外脱出)が続いている。情報技術(IT)をはじめとする専門知識を持っている人たちがほとんどであるため、「頭脳流出」(Brain Drain)と呼ばれる。権威主義的統治に拒否感を感じていたところへ、西欧の制裁で投資も得られなくなったためだ。旧ソ連崩壊を前後に発生した「大脱出」のトラウマがまだ残っているロシアにとっては、かなり大きな経済的・人口学的・心理的打撃になりうる。

 ロシア出身の経済学者、コンスタンティン・ソニン教授(米シカゴ大学公共政策大学院)は最近ツイッターで、2022年2月24日のウクライナ侵攻以後、母国を離れたロシア人は3月8日までで20万人に達すると推定した。ロシアとしては特に、IT人材の脱出がかなりの痛手になりうる。ロシア電子通信協会(RAEC)によると、ロシアのウクライナ侵攻後の1カ月間、IT業界従事者7万人がロシアを離れたという。4月にはさらに7~10万人が出国すると予想されたが、それを裏付ける最新統計はまだない。

10年間続いてきた頭脳流出

 ロシアの頭脳流出の増加は、ウクライナ戦争が引き金を引いただけで、この10年間続いてきた流れだ。何よりも、2000年と2004年の2期を務めた後、3期連続の政権維持を制限する規定のため、「実権を持つ首相」に甘んじたプーチン大統領が、3期目を迎えた2012年が分岐点だった。旧ソ連崩壊後、海外への移住が急増したが、プーチン大統領の初期政権の2000年代には移住が急速に減り、沈静化した。ロシア連邦統計庁によると、1997年の国外移住者数は23万2990人だったが、その後減少し続け、2009~2011年には毎年3万人を少し上回る水準だった。だが、2012年には12万2750人、2013年には18万6380人と急増し始め、2014年には30万人台、2018年には40万人台まで増えた。

 エクソダスの波が始まった2012年から2020年まで、ロシアを離れた人口はおよそ260万人に達する。ロシアの人口が約1億4500万人であることを考えると、それほど多い数ではないかもしれない。しかし、ソ連崩壊の2年前の1989年から10年間で250万人が去ったことと比べれば、決して無視できない数だ。

 何よりもプーチン政権下での海外移住は、ソ連崩壊前後に発生したエクソダスと性格が明確に異なる。1980年代後半と1990年代、ロシア人たちは政治的動機よりは生計を立てるために西欧に移住した。そのため、「ソーセージ移住」とも呼ばれた。一方、2000年代以降の移住には政治的動機が少なくない。

 米シンクタンクのアトランティック・カウンシルが、2000年以後のロシアからの移住者400人を対象とし、2017~2018年に深層調査した結果はこれを如実に示している。回答者のうち40%は移住の理由が「政治的な環境」にあると答えた(複数回答)。29%は「迫害と人権侵害」を挙げた。回答者の平均年齢は25~45歳で、36%が博士や修士号を持っていた。ロシアの政治的雰囲気が、若い高級ブレーンを居づらくさせたものと推測できる。

 ロシアのウクライナ侵攻以降の頭脳流出の原因も、大きな枠組みからみればこれと変わらない。細部的にはアップルなど西欧IT企業の撤収や制裁でスタートアップの投資失敗、強制徴集に対する懸念も影響したものとみられる。しかし、それらの背景にあるのは権威主義体制に対する不満だ。現在、ロシアに残っているIT人材がウクライナ侵攻に最も批判的だという報道もある。

 実際、世界的に成功したスタートアップの立役者の中には、西欧に移住したロシア人がかなりいる。2015年に英国でサービスを始め、ユニコーン企業に成長したモバイルバンキングアプリ「レボリュート」(Revolut)のニコライ・ストロンスキー氏が代表的な人物だ。レボリュ―トは2021年、約330億ドルの企業価値を認められた。コラボプラットフォームのミロ(Miro)も、2人のロシア人企業家が創業し、現在180億ドルの企業価値を持つものとみられる。

ロシア人材獲得競争

 ロシア人材の優秀さには定評がある。アトランティック・カウンシルのイリーナ・フラックス非常任研究員によると、ロシアは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で2番目に教育水準が高い。ロシア人の96%は少なくとも高卒以上の学歴を持っている。研究開発人材は67万9千人で、米国、中国、日本に続き世界4番目の規模だ。ロシアは物理や工学、数学、化学、人工知能(AI)、ロボット工学などの分野で世界を主導している。また、約180万人のIT人材の中でもプログラムとサイバーセキュリティの専門家が多い。

 このような高級人材の流出は、長期的にはロシアの生産性と成長潜在力を低下させる可能性が高い。AIと第5世代(5G)技術が発展し、ロシアでもIT分野の専門家の需要が増えているためだ。ロシア政府も人材流出を心配する兆候がみられる。プーチン大統領は3月2日、IT企業に3年間税金を免除し、融資を支援するなどの施行令に署名した。しかし、この程度の措置でエクソダスが止まるかは疑問だ。

 今後、ロシアの高級ブレーンを獲得するための各国の競争も激しくなる見通しだ。中でもIT人材が慢性的に不足しているイスラエルが積極的だ。ロシアと隣接するジョージアや中央アジア諸国、トルコなどもIT人材の流出を歓迎している。第2次世界大戦当時、ヒトラー統治下のドイツの科学者を呼び込んで航空やミサイル技術、核兵器、宇宙開発プログラムを大きく発展させた米国も、ロシア人材に注目している。フラックス氏はアトランティック・カウンシルのホームページに「最高の才能を持つロシア人材を獲得すれば、新しい技術と革新能力が流入し、米国経済を活性化させるだけでなく、米国の国家安全保障にも役立つだろう」と書いた。ロシアのウクライナ侵攻は、人的資本の流出というブーメランになって戻ってくる可能性もある。

イ・ヨンイン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1041795.html韓国語原文入力:2022-05-0614:15
訳H.J

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