「検察の起訴・捜査権の分離」など検察改革法案に対する立場表明を控えていた尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領は、結局「検捜完剥(検察の捜査権完全剥奪)は腐敗の温床を作る」という1年前の検察総長辞任の名分を掲げ、国会議長の仲裁案に対する与野党の合意に反対の意思を明らかにした。与野党の合意に対する検察の反発と批判的世論を盾に「参戦」を決めたものとみられる。
24日に与野党合意案の再論を求めたイ・ジュンソク代表に対し、クォン・ソンドン院内代表が「再論は不可能だ」と一蹴し、党指導部の間で混乱が起きたことを受け、チャン・ジェウォン次期大統領秘書室長は25日、状況の収拾に乗り出した。チャン室長はソウル鍾路区通義洞(チョンノグ・トンウィドン)の政権引き継ぎ委員会事務室前で記者団に対し、「『検捜完剥法案が通過することは憲法精神に大きく反することであり、国や政府が憲法精神を守るべき責務を放棄することである』という(尹次期大統領の)検察総長辞任の際の発言と考えに全く変わりはない」と伝えた。これまで検察捜査権廃止立法に意図的に距離を置いていた姿とは異なる、積極的な意思表明だった。これに先立ち、尹次期大統領は、検察が全国高等検察庁長会議を開き、共に民主党の「検察捜査権廃止法案」に強く反発した8日、「検事を辞めて久しいし、刑事司法制度は法務部と検察が進めればいい」とし、「私は国民の暮らしの問題に集中したい」と述べた。与野党の院内代表が先月22日、捜査権分離法案に合意した後も、引き継ぎ委は「仲裁案の受け入れを尊重する」というメッセージを出した。
しかし、与野党の合意にもかかわらず、全国高等検察庁長らが辞表を提出し、国民の力の支持層からも反発が激しくなったことを受け、尹次期大統領は反対の意思を少しずつ示し始めた。 尹次期大統領は24日、ペ・ヒョンジン次期大統領報道担当を通じて、「一連の過程を国民が懸念する姿とともに、見守っている」と述べた。翌日にはチャン・ジェウォン室長を通じて、「検捜完剥は腐敗の温床を作る」というメッセージまで出した。
与野党の合意に世論が好意的でないという点も、尹次期大統領の「意見表明」に影響を及ぼしたものと見られる。韓国社会世論研究所(KSOI)がTBSの依頼で今月22日から23日にかけてソウル在住の成人1005人を対象に実施した調査(信頼水準95%、標本誤差±3.1ポイント)では、起訴・捜査分離をめぐる国会議長仲裁案を与野党が受け入れたことについて、「評価しない」という意見が42.5%で「評価する」(34%)より多かった。与野党の支持層がいずれも仲裁案に否定的なことが世論調査の結果として現れたのだ。
尹次期大統領側の関係者は同日、本紙の取材に対し、「尹次期大統領がまだ大統領に就任していない者として直接メッセージを出すのは、現政権と文在寅(ムン・ジェイン)大統領、また三権分立の下で国会議長と党にとっても、介入と思われる恐れがあるという考えから、これまで発言はしないという意思を明らかにしてきた」とし、「今日の発言は既存の立場と全く変わっていないという点を強調し、懸念を示すとともに、自分の政界入りの名分を改めて強調したものだ」と説明した。また、別の引き継ぎ委関係者は、「クォン院内代表が尹次期大統領と意見調整なしに『国会議長仲裁案』を受け入れたことをめぐり、党内でも懸念の声が高まっている状況だ」とし、「党と尹次期大統領が立場を確認したため、うまく収まるものとみられる」と述べた。