尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領の最側近など国民の力に辞任を迫られた時も「法と原則に則って任期を守る」と言っていたキム・オス検察総長が、17日、共に民主党の検察捜査・起訴権分離に反発して電撃的に辞意を表明した。これ以上職務遂行を続けるのは意味がないと判断したためとみられる。文在寅(ムン・ジェイン)大統領に要請した面会が事実上拒否されたことも、キム総長が辞意を固めた要因に挙げられる。1年以上任期が残っている文在寅政権の最後の検察総長が民主党の法案に反発して「辞任カード」を持ち出したことで、尹錫悦政権としては「不都合な同居」を心配しなくても済むなど、漁夫の利を得たと言える。
検察内部では、キム総長が世論戦の最後の手段として辞任カードを取り出したとみられている。検察捜査権分離法案が国会で議決されてから辞任した場合、事後対応に終わるため、先手を打って辞表を提出したというのだ。ある検察幹部は、「総長辞任は事実上既成事実であり、民主党の『検捜完剥』(検察捜査権の完全剥奪)法案の国会通過以前か以後かの選択肢が残されただけだ」とし、「法の可決後に辞表を投げれば大きな反響を呼ぶことができないため、最大の効果をあげられる時点で先制的に辞任カードを切ったようだ」と話した。
大統領府がキム総長の面会要請を拒否したことも、キム総長の辞任時期を繰り上げるのに影響を及ぼしたという分析もある。大統領との面会も、大統領の拒否権も期待できなくなり、検察総長としての身動きの幅が狭くなったためだ。大統領府高官は15日、記者団にキム総長の大統領面会要請について「今はこの問題(検察捜査権廃止)について国会が議論すべき『立法の時間』であることを、数回にわたって伝えている。それをもって答弁の代りにする」と述べ、与党民主党の検察捜査権分離法案の推進を後押しした。
尹錫悦次期大統領がハン・ドンフン司法研修院副院長(検事長)を法務部長官候補に指名したことも、キム総長の今回の選択に影響を及ぼしたものとみられる。検事長出身のある弁護士は、「キム総長が国会を訪れ、連日説得戦を繰り広げている状況で、尹次期大統領がハン検事長を法務部長官に指名し、民主党の『検捜完剥』法案強行の意志に油を注いだ。キム総長としては民主党の説得作業に無力感を感じた可能性がある」と指摘した。
後輩検事たちが指摘した指導部の責任論も早期辞任の背景に挙げられる。最近辞意を表明したソウル北部地検のイ・ボクヒョン部長検事は、「中村スミス(日本の植民地時代には中村に苗字を変え、GHQ時代にはスミスに苗字を変えた日和見主義者を皮肉った喩え)」「砂の穴に頭を突っ込むダチョウ」などの表現を使い、キム総長ら検察指揮部を非難した。これに対し、キム総長は周辺に「検捜完剥に対応するのは良いが、他人を傷つける言葉や行動は慎んでほしい」という意思を伝えたという。全国高等検察庁長や地検長に続き、一般の検事らも今月19日、最高検察庁で全国平検事代表会議を開き、検察捜査権分離法案の推進に対応策などを議論する予定だ。
検察内部では、キム総長の辞意表明に「やむを得ない選択」という反応が出ている。キム・フゴン大邱地検長は「決定を尊重する。(検察に)残った検事長たちは法案の通過を阻止するために最善を尽くす」と述べた。一方、残念だという声もあがっている。ソウル地域検察庁のある幹部は、「今は検捜完剥法案に組織的に対応しなければならない時期なのに、組織のトップが不在だと、戦列が乱れる恐れがある」とし、「総長の辞任で国会に対する説得作業などがすべて中止せざるを得なくなるかもしれない」と語った。
キム総長の辞表はパク・ポムゲ法務部長官を経て文大統領に提出される。文大統領がこれを受理すれば、キム総長は前任の尹錫悦氏に続き、与党の検察捜査・起訴権の分離に反発して中途辞任した2人目の検察総長になる。文大統領は昨年3月4日、尹錫悦検察総長(当時)の辞意を、表明から1時間後に受け入れている。
パク・ポムゲ法務部長官は同日、キム総長の辞表提出に「非常に複雑な心境」だと、法務部報道官室を通じて伝えた。次期法務部長官に指名されたハン・ドンフン副院長は立場表明文を出し、「キム・オス総長の辞意表明は、手続きを無視した立法暴走で国民の被害が火を見るように予想される状況で、刑事司法業務に責任を負う公職者としての衷情だと理解する」と述べた。