「心血管系の疾患も基礎疾患としてありますが、防疫当局から新型コロナウイルスワクチンの追加接種を受けるよう連絡を受けたことはありません」
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者である50代の男性Sさんは、感染に脆弱な高危険群だが、コロナワクチン接種が始まってから優先接種の連絡を一度も受けていない。Sさんは「今年初めにワクチン接種が始まり、(HIV)感染者たちは異常反応とコロナ感染に対する恐怖が大きかったが、防疫当局が関連情報を提供するのを見られなかった」とし「HIV感染者コミュニティの中で米国など海外発表資料を翻訳して共有するなど、自ら生き残る道を探さなければならなかった」と話した。
「HIV/エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)感染者の人権の日」である12月1日を控え、本紙が新型コロナの流行の中で起きているHIV/エイズ感染者の話を聞いたところ、中央防疫対策本部(防対本)は先月17日のワクチン追加接種計画の発表で、免疫低下者の追加接種間隔を2カ月に「維持」するとしながらも、追加接種計画にHIVやエイズ感染者は含めていないことが分かった。大韓エイズ予防協会の関係者は「HIV/エイズ感染者は免疫力が弱く、基底疾患が多く、憩いの場のような施設生活をするケースも多いため、ワクチン接種が非常に重要だ」とし、政府の政策を批判した。世界保健機関(WHO)は少なくとも40カ国がHIV/エイズ感染者に優先的に新型コロナワクチン接種を実施していると把握している。
HIV/エイズ感染者は、新型コロナという巨大な感染症の前で保護を受けられなかっただけでなく、すぐに保健医療サービスの死角に追いやられた。新型コロナ患者の診療に全ての公共医療資源が動員されたためだ。「HIV/エイズ人権連帯ナヌリ+」のユン・ガブリエル代表は「去年の新型コロナ流行初期に中耳炎を起こして治療を受けなければならなかったが、公共病院が入院患者を受け入れていないため、手術を受けるまでに1年かかった」と話した。
防疫当局が新型コロナ局面でHIV/エイズ感染者を保護できなかっただけでなく、追加で発生しているHIV/エイズ感染者を把握することにも失敗しているとの懸念も出ている。本紙の取材の結果、保健所の力量がコロナ対応に集中し、健康診断機能が麻痺し、HIV感染の有無を判断する匿名検査が2年近くまともに行われていなかった。
ソウル市保健局が把握した資料によると、新型コロナ流行前の2019年には、ソウルで計2万7406人がHIV検査を受け、122人が陽性判定(陽性率0.4%)を受けた。新型コロナ流行初年度の昨年には検査者が4641人(陽性83人、陽性率1.8%)に落ちた。今年は検査件数がさらに減り、10月末現在、1490人だけがHIV検査(養成率5.8%)を受けた。ソウル市の関係者は「もともとソウルの25の自治区全体でHIVの匿名検査が行われてきたが、現在は7区(鍾路区、中浪区、江北区、道峰区、冠岳区、江南区、恩平区)だけが検査を行っている」と述べた。
嘉泉大学吉病院のオム・ジュンシク教授(感染内科)は「HIVにさらされる可能性が減らない状況で検査件数が減れば、感染しても感染したかどうかが分からない患者が増えている可能性が高い」とし「保健所のような公共機関が新型コロナに対応するため余力がないならば、民間機関に委託してでも検査ができるように対策を準備すべきだ」と述べた。