国際労働機関(ILO)事務局長に出馬したカン・ギョンファ前外交部長官が、開発途上国の経済開発協力と政労使対話を主な公約に掲げた。しかし、全国民主労働組合総連盟(民主労総)が「カン前長官の経験とビジョンは、ILO事務局長の職責からは相当かけ離れている」と論評を出すなど、労働界からは労働者の権益保護に関するカン前長官の問題意識が見られないという指摘が相次いでいる。
ILOのホームページに公開されたカン前長官の公約内容によると、カン前長官は「パンデミックの影響を大きく受けた開発途上国のためのILO技術協力プロジェクトを拡大し、受恵国の雇用状況を改善するために努力する」とし「国際通貨基金(IMF)および世界銀行と緊密に協力して基金を拡大し、技術支援を強化する」と提案した。慢性的な雇用不足に苦しむ開発途上国を経済的に支援し、雇用を創出するという趣旨だ。これに先立ち、カン前長官は今月1日、ILO事務局最高位職の事務局長に出馬することを明らかにした。
ILOは、国際労働基準を提示し各国の労働懸案を議論する国連傘下の専門機関だ。2014年に韓国政府が全国教職員労働組合(全教組)を法外労組と規定したとき、労働者の結社の自由に反すると判断し、是正するよう強く勧告したのもILOだ。このように国内法で解決できない懸案を国際労働規範として規律できるため、ILO事務局長選挙は労使共に関心を集める事案だ。
カン前長官は、気候変動の危機による産業の構造調整を支援し、このための政労使対話も推進すると約束した。また、社会保障制度をプラットフォーム労働者などに拡大し、職場内の性差別を解消するとも提案した。これは2019年にILOが提示した「100周年宣言」にも収録された部分だ。
しかし、ILOの役割を考慮すれば、カン前長官の問題意識が狭すぎるという懸念も出ている。民主労総は3日に論評を出し、「労働分野における経験不足という現実を反映するかのように、カン前長官はILOの最も重要な役割に関する見解を全く提示できなかった」と評価した。ILOの最も重要な役割は、国際労働基準を確立して履行を監視・監督することだが、カン前長官の公約にはその部分が欠けているという指摘だ。民主労総は「他の候補がILOの『規範的』な役割を優先し、『変化する仕事の世界の現実に合わせて国際労働基準を整備する』、『労働安全保健を基本権に含めるための理事会の努力を後押しする』といった公約を最優先順位に提示している点から見て、カン前長官の国際労働基準に対する公約の空白は致命的だ」と明らかにした。
実際、カン前長官が打ち出した公約には、ILOの主要機能である「労働者権益保護」に関する内容は事実上全くないという評価が出ている。例えば、ILO100周年宣言に盛り込まれた労働者の結社権と強制・児童労働の根絶、安全で健康な労働条件などは、公約から抜けていた。韓国労働社会研究所のキム・ジョンジン先任研究委員は「最近のILOの関心事は、技術の変化により労働者の普遍的権利がますます破片化している状況で、団体交渉権や産業安全など労働者の普遍的権利をどのように保障するかということだが、ILO事務局長に挑戦するならば、このような内容を扱わなかったことは残念だ」と指摘した。
文在寅(ムン・ジェイン)政権が昨年、3つのILO協約を批准する過程で、協約内容を国内法に完全に盛り込まなかったにもかかわらず、カン前長官がこれを「治績」に掲げた点も批判を受けている。カン前長官は「関連省庁および国会とともにILOの核心協約の批准を成功裏に果たした」と略歴を紹介した。
しかし、正義党は前日の2日の論評で、「昨年(協約によって)改正された労組法は、依然として特殊雇用職とプラットフォーム労働者の団体交渉権を保障しておらず、国際基準に反する状況であり、強制労働廃止協約は国家保安法と相反するという理由で批准を先送りしている」とし「カン前長官が事務局長に立候補するには、少なくとも自国の基準を国際基準に見合うよう引き上げるのが基本」だと指摘した。民主労総も論評で「国際社会が見る韓国の現実は『労働後進国』であり、『アジア太平洋地域出身の女性』であることを前面に出しても、このような現実を覆うことはできない」とし「カン前長官はこうした現実を変えるために何をしてきたのか、また何ができるのか」と問い詰めた。
1919年のILO設立後、これまで事務局長を務めたのは10人。2012年までは主に国連機関出身者や弁護士などが務めたが、英国の労働組合総連盟出身のガイ・ライダー総長が労働運動家の中で初めて務めた。基本任期は5年だが、理事会を経て再任が可能だ。来年10月に任期が終わるライダー総長の後任には、カン前長官と現在ILO事務次長であるオーストラリアのグレッグ・バインズ氏ら4人が志願している。カン前長官が当選した場合、初のアジア太平洋地域の女性事務局長という象徴性があるが、今のところバインズ事務次長が労働懸案に関して専門性を最も高く評価されている。