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メッセンジャーで通報したのに…暴行を受けた末、死を選んだ韓国海軍一等兵

登録:2021-09-08 04:04 修正:2021-09-08 08:22
被害兵士、暴行受けたことをメッセンジャーで艦長に伝えたが 
艦長は分離措置せず「和解の席」設ける 
調査対象の指揮官たちは捜査中に海外派兵
姜邯賛艦=海軍提供//ハンギョレ新聞社

 国防部は6日の定例ブリーフィングで、最近人気を集めているネットフリックスのドラマ「D.P.」で再現された軍内の過酷行為(暴行・脅迫をはじめ肉体的、精神的に苦痛を与える行為)について、「日課後の携帯電話の使用などにより、悪質な事故が隠蔽できない兵営環境に変わりつつある」と述べた。

 その翌日の7日、海軍の「姜邯賛(カン・ガムチャン)艦」に勤務していた兵士が、先輩兵から暴言やいじめを受け、転入4カ月後に自殺していたことが明らかになった。被害兵士は、このような事実を携帯電話のメッセンジャーを通じて艦長に通報していたが、被害者と加害者の分離が行われないまま20日あまり放置されるなど、典型的な軍内の事件・事故対応が今回も繰り返された。ようやく軍の捜査が開始された後も、海軍は艦長などの主要捜査対象者を海外派兵させるという、納得しがたい措置を取っていた。

 軍人権センターはソウル麻浦区(マポグ)の事務所で記者会見を開き、「姜邯賛艦に転入した一等兵のJさんが、先輩兵による暴行と軍当局の措置の不備により、休暇中だった6月18日、自宅で自ら命を絶った」と明らかにした。軍人権センターは「毎回、軍で人が死ぬたびに、強引に事件を取り繕い隠蔽し、責任を負う人間を減らそうとする軍の特性は絶対に変わらない」と述べ、海軍にきちんとした捜査を求めた。

 同事件の捜査は、強制わいせつ被害を訴えて死亡した空軍のL中士事件(中士は軍の階級)後、軍内の事件処理に対する厳しい実態調査と改革が進められている中で行われていた。軍人権センターのイム・テフン所長は「空軍のL中士事件で国防部長官は国民に謝罪した。この事件が外部に知られていなかったという事実は、依然として軍が軍首脳部の論理で情報を遮断していることを如実に示している」と非難した。

 海軍の関係者は「現在、死亡原因および遺族が提起した兵営不条理などについて、軍の捜査機関が捜査している」と明らかにした。軍消息筋は「(記者会見の内容は)概ね正しい。派兵中の当該部隊の幹部たちは、近く復帰した後にさらに捜査を受ける予定だ」と述べた。

「だらけてる」…3月初め、先輩兵たちの暴言・暴行

 軍人権センターの説明を総合すると、2月1日に姜邯賛艦に転入したJ一等兵は、2月11日に父親が事故に遭ったため、同月25日までの2週間、請願休暇を取った。休暇から復帰後は防疫守則に従って3月9日まで自主隔離を行い、その後、内務生活に入った。直後に先輩兵の暴言、集団でのいじめが始まったという。先輩兵たちが「蜜を吸っている」(のんびり休んでいるという軍の隠語)などと言ったり、J一等兵が乗組員室に入ってくると他の兵士がみな出て行ったりしたという。軍人権センターは「2人の先輩兵は甲板で、J一等兵が業務をきちんとやっていないと言って、胸と頭を何度も押して倒した。J一等兵が『(業務を)どうすればよいのか』と尋ねると、彼らは『死ね』と答えたという」と述べた。

 乗組員室(生活館)で暴行があったという話を生前のJ一等兵から聞いたという同僚兵士の供述もある。一部の先輩兵が乗組員室で暴言を吐き、J一等兵が席から立ち上がると、再び押して座らせるなどの暴行を加えたという。暴行の加害者とされる2人の先輩兵は暴行を否認しているという。

軍人権センターのイム・テフン所長が7日午前、ソウル麻浦区の軍人権センターで、海軍姜邯賛艦所属一等兵死亡事件に関する記者会見を行っている/聯合ニュース

3月16日に艦長に通報も「和解しろ」

 J一等兵は被害を指揮官に報告したが、被害者保護と加害者の処罰はまともに行われなかった。J一等兵は3月16日、艦長にカカオトークのメッセンジャーで先輩兵の暴行と暴言を通報したという。しかし艦長はJ一等兵の乗組員室を移し、職務を甲板兵からCPO(上級副士官)当番兵に変更しただけだった。J一等兵は、一度出港すると数十日は続く海上勤務のため、限られた空間で加害者と顔を合わさざるを得ない状況に置かれた。

 結局、3月26日夜にJ一等兵は自傷を試み、その途中で艦長に連絡して苦痛を訴えたという。艦長は3月27日午前1時ごろ、J一等兵に「加害兵士を呼んで謝罪させる場を持つのはどうか」と提案し、加害者を呼んで対話させたという。軍人権センターは「被害者と先輩である加害者を分離せず、和解させるとの理由で同じ席に呼んだのは2次加害であり、非常に不適切だ」と批判した。

 姜邯賛艦の指揮部は4月1日にようやく加害兵士に経緯書を書かせ、その後、軍紀指導委員会に付したのみで事件を終結した。軍紀指導委員会とは、軍紀訓練を施したり兵士を減点したりする所で、実質的な懲戒、捜査との連携は行われない。軍人権センターは「加害兵士を下船させて捜査せず、軍紀指導委員会に付して終結させ、事件を隠蔽した」と述べた。J一等兵は自傷行為を行ったうえパニック障害を訴えていたが、艦長は事件発生から1カ月が経った4月6日になってようやくJ一等兵を下船させ、民間病院に診療を委託した。精神科に入院したJ一等兵は結局、6月8日の退院から10日後、休暇中に自宅で自ら命を絶った。

艦長を調査せず派兵した海軍

 J一等兵の自殺後、軍の捜査が開始されたが、真相究明に向けた軍事警察の捜査は遅々として進んでいない。現在、暴行の加害者とされる兵士の1人は立件されているが、艦長ら幹部はアフリカ付近に展開する清海部隊(文武大王館)の新型コロナウイルス集団感染事態に伴い、7月20日に緊急派遣された状態だ。イム・テフン所長は「供述が濁される可能性があるにもかかわらず、軍事警察は船が戻れば艦長らを調べる予定だと述べるばかりだ。作戦が計画されたとしても、過酷行為による死亡事件が起きたら、(加害者に対する)人事措置を取るのが原則だ。作戦という名の下に、殴打・過酷行為の加害者を意図的に移動させたと疑わざるを得ない」と述べた。

 清海部隊に派遣された関係者たちは近く帰国する予定だ。海軍関係者は「調査は進められていたが、緊急派遣部隊の任務でしばらく中断していた。彼らが復帰すれば調査を続ける予定だ」と述べた。

イ・スンウク、キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1010806.html韓国語原文入力:2021-09-07 16:09
訳D.K

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