大統領府が東京五輪を契機とした文在寅(ムン・ジェイン)大統領の日本訪問を諦めたことには、結局、両国初の首脳会談の“成果”をめぐる双方の隔たりが埋まらなかったためだ。さらに、終盤に突如飛び出した在韓日本大使館関係者の暴言をめぐる日本政府の対応が、満足のいくものではないという判断も働いたものとみられる。
大統領府のパク・スヒョン国民疎通秘書官が19日、文在寅大統領と日本の菅義偉首相との会談が見送られた背景として取り上げた理由は二つある。韓日間の協議内容が「首脳会談の成果としては依然として不十分」である点と、「その他の諸事情」である。
同日午前、大統領府高官が配布した書面ブリーフィングと同じ脈絡だ。韓日両国が23日に東京で首脳会談を開くことにしたという読売新聞の報道が出たことを受け、大統領府高官は「現在両国が協議しているが、依然として成果としては不十分であり、大詰めの段階で登場した会談の障害については、まだ日本側から納得できる措置がない状況であるため、訪日と会談が実現するかは不透明」だと述べた。この日朝から政府内外で文大統領の訪日の可能性が低いという見通しが示されたことから、書面でのブリーフィングは“予告編”だったわけだ。
大統領府高官は同日午後、記者団に会談が実現できなかった理由について「外交的協議だから具体的に明らかにするのは難しい」とし、コメントを控えた。しかし韓国政府は今回の会談の成果として、2019年7月に日本が半導体の主要な材料に対して取った「輸出規制措置の撤回」が必要だという立場を貫いてきたという。その代わり、韓国政府はこれに関する世界貿易機関(WTO)提訴を撤回し、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を完全に復元する案を提示したというのだ。一方、日本は韓国政府が日本軍「慰安婦」被害者問題と日帝強制占領期(日本の植民地時代)の強制徴用労働者に対する韓国最高裁の賠償判決(2018年10月)に対する具体的な解決策を示すよう求めてきた。この過程で歴史問題の懸案に対しては「持続的対話を通じた協議」を続けながら日本の輸出規制を解除する方向である定程度意見が調整される雰囲気だったが、結局隔たりを埋められなかったものとみられる。大統領府関係者は「究極的な目標は関係復元」だったとし、「全般的に少しずつ進展はあった」と述べた。
文大統領の訪日が実現しなかった決定的な要因は、性的な表現を使って文大統領の訪日意志を皮肉った在韓日本大使館の相馬弘尚総括公使の発言と、これに対する日本政府の生ぬるい対応だったとみられる。韓国政府は、相馬公使を即刻本国に送還するなど「可視的かつ相応の措置」が必要だという立場だったが、日本政府は「遺憾」という表明を繰り返しながらも、具体的な措置は取らなかった。加藤勝信官房長官は同日午前の定例記者会見で、相馬公使の更迭問題については「在外公館職員の広い意味での人事ということになるが、外務大臣が勤務地での在任期間なども考慮したうえで適材適所の観点から判断しており、引き続き、そうした考え方にのっとって対応されるものと承知している」と述べるにとどまった。そもそも文大統領の訪日をめぐる反対世論が高かった状況で、相馬公使の発言後に韓国の国内世論がさらに悪化した点も無視できない要因となった。
これに加え、同日朝の読売新聞の報道などを通じた日本政府のリークも、会談の見送りに影響を及ぼしたという分析だ。以前にも日本のマスコミは「韓国政府が慰安婦と徴用工をめぐる賠償問題で妥協せず、文大統領を“特別待遇”しない方針だ」、「文大統領を含め、首脳間の会談時間は1人当たり15分程度になる見込み」など、韓国政府の反応を試したり刺激する報道を繰り返した。これを受け、韓国政府は「両国の外交当局間協議の内容が日本政府当局者の話などを引用して日本の立場と視角から一方的にマスコミに流出されていることに対し、強い遺憾を表する」と明らかにした。
これにより世界の祭りである五輪を機に韓日関係の修復を目指した文在寅政権の試みは水泡と帰した雰囲気だ。先月、英国で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)当時、日本の事情で韓日首脳間の略式会談が失敗したにもかかわらず、韓日関係の負担を減らすために意欲的に進めてきた試みまで実現しなかったためだ。一部では、大統領府が“成果”にこだわり、不可能に近い“取引”を成功させようとしたこと自体が誤りだったという声もあがっている。どうであれ、文在寅政権任期内に韓日関係が新たな転機を迎えることは、さらに困難になったものとみられる。
一方、20日午後には東京でチェ・ジョンゴン外交部第1次官と日本外務省の森健良事務次官の二者協議が予定されており、韓日首脳会談の見送りと相馬公使の措置などに関する議論がどのように行われるかが注目される。