23日に予定された東京五輪開会式に合わせて文在寅(ムン・ジェイン)大統領が訪日する問題をめぐり、韓日外交当局間の熾烈な駆け引きが続いている。一見、1年7カ月ぶりに開かれる韓日首脳会談を「15分程度の略式会談」にするか、「1時間程度の正式会談」にするかという会談の形式をめぐる対立のように見えるかもしれない。しかし、その裏には強制動員被害者への賠償問題、日本軍「慰安婦」被害者に対する賠償問題など、長年の懸案に対する見解の隔たりが依然として埋まらない厳しい現実がある。
英国のコーンウォールで先月12~13日に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)での日韓両国首脳の「略式会談」が流れた後、両国の外交当局は文大統領の東京五輪開会式への出席に向け、水面下の交渉を続けてきた。秘密裏に続いた訪日関連協議を先に公式化したのは韓国だった。パク・スヒョン大統領府国民疎通首席秘書官は7日、「文化放送」(MBC)の朝のラジオ番組に出演し「韓日間首脳会談の開催を望んでおり、その結果、韓日間の懸案による対立が解消される成果もあればと思う」とし、「そろそろ日本政府がこれに関する何らかの答えを示してほしいと思っている」と述べた。
すると、菅義偉首相は翌日の記者会見で、両国間の懸案に対し「韓国側に適切な対応を強く求めていく」という立場を強調しながらも、「(文大統領が)訪日される場合は、外交上、丁寧に対応することは当然のことだ」と答えた。この答弁で文大統領と菅首相の会談自体は事実上確定したかのようにみえた。菅首相の立場としては、G7サミットで文大統領の会談要請を拒否したのに続き、自国で開かれる宴に出席するという隣国首脳の要請を再びはねのける名分はなかったものとみられる。
しかし、会談の開催が決まった直後から、その形式をめぐる論議が始まった。日本経済新聞は11日付の1面で、文大統領が23日の東京五輪開会式に出席するのに合わせて「会談する方針」だと報じたが、共同通信は同日、「韓国は本格的な首脳会談開催を期待」しているが、菅首相は「元慰安婦と元徴用工をめぐる賠償問題で韓国が妥協しない姿勢を見せている」とし、文大統領を“特別待遇”しない方針を6月末に決めたと報道した。同通信はまた、首相官邸関係者の話として「文大統領を含め、1人当たりの(会談時間は)原則15分程度になるだろう」と報じた。菅首相が文大統領をほかの要人たちと同様に扱い、事実上“招待客の一人”にしたい思惑をうかがわせたということだ。日本がこのような挑発的な内容を公開したのは、水面下の交渉過程で韓国政府が強制動員と慰安婦判決など両国間の懸案問題について、日本が要求してきた解決策を提示しなかったためとみられる。
これを受け、今度は韓国が反撃に出た。同報道に対し、外交部は11日夜、記者団に送った立場表明で「両国外交当局間協議の内容が最近、日本政府当局者などの話として、日本の立場と視点で一方的にマスコミに流出していることに対し、強い遺憾の意を表する」とし、「こうした状況では両政府間協議は持続することが難しく、日本側が慎重に対応することを求める」と明らかにした。
韓国政府はこれまで水面下の交渉を通じて、2019年7月に日本が取った輸出規制措置に対しては「撤回」を要求し、日本が望む歴史関連懸案への対応については「韓日外交当局間対話を通じて協議していこうという立場」(11日外交部の立場表明)を伝えたという。言い換えれば、韓国の要求は“現金”で受け取り、日本の要求には“手形”を渡すと明らかにしたわけだ。新型コロナによって四面楚歌の困難の中で行われる東京五輪への文大統領の訪問をテコに、日本の譲歩を引き出す戦略を取ったのだ。
政府高官も、いま重要なのは「形式と成果だ。これ以上日本の反応に対応せず、状況を注視する」と述べた。ここでいう形式とは、「1時間程度の正式会談」であり、成果とは、政府がこれまで地道に要求してきた「輸出規制措置の撤回」などを意味するものとみられる。しかしこれまで、韓国が強制動員と慰安婦問題など懸案に具体的な解決策を提示しない限り首脳会談に応じない意向を示してきた日本は、1時間程度の正式会談に応じた場合、吹き荒れるであろう国内世論の圧迫を負担に感じている。
韓国政府の「遺憾」表明に対し、日本政府は再び一歩引く反応を示した。加藤勝信官房長官は12日午前に行われた定例記者会見で、前日発表された韓国外交部の立場表明に対する質問を受け、「東京オリンピック開会式への外国要人の出席については、日本政府が招待の主体ではない。日韓首脳会談の有無についても仮定の質問であることから、答えるのを差し控えたい。そのなかで、菅首相が先日会見で述べたように『大統領が訪日される場合は、外交上、丁寧に対応することは当然だ』という政府の認識に変わるところはない」と述べた。
大統領府は繰り返し、「今後日本側の態度が重要だ」と強調した。大統領府関係者は同日午後、記者団と書面で行った質疑応答で「政府は韓日首脳会談を開く用意はあるが、会談が開催されれば成果がなければならないという立場」だとし、「最近の日本のマスコミ報道を見る限り、首脳の五輪開会式への出席問題や韓日関係改善問題を政治的に利用するような印象があり、注意深く見守っている」と明らかにした。
「15分間会談」と「1時間会談」をめぐる両国の駆け引きが円満な合意点を見出せなければ、久しぶりに両国間に漂っていた“温度”が消え、文大統領の訪日そのものが実現しない可能性もあるという見通しも示されている。