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[ルポ]韓国初の国産機動ヘリ「スリオン」試乗で、記者は言葉を失った

登録:2021-06-23 05:36 修正:2021-06-24 10:50
韓国初の国産機動ヘリコプター「スリオン」試乗記 
パイロットが万歳の姿勢で見せた「自動飛行」は夜間・悪天候時に有用 
取材陣が冷や汗かく中 「泗川湾、いい景色でしょう」 冗談も 
性能・欠陥改善したというが…輸出・民間の注文は「いまいち」
陸軍に納品された初の韓国産機動ヘリコプター「スリオン」=KAI提供//ハンギョレ新聞社

 今月4日午後、慶尚南道泗川(サチョン)市にある韓国航空宇宙(KAI)のヘリポート。

 「海兵隊」という文字が鮮明に刻まれた鷲の翼の色をしたヘリコプター1機が、力強い羽ばたきで激しい風を巻き起こしながら待機していた。本紙の取材陣を乗せてテスト飛行に乗り出す初の国産機動ヘリコプター(KUH)「スリオン」の試作機(量産に先立ってテスト飛行)第3号機だ。スリオンは鷲を意味する韓国語「トクスリ」の「スリ」に数字の100を意味する韓国固有語の「オン」を合わせた言葉で、「完璧なヘリ」という意味を持っている。

悪天候時にも浸透・救助作戦可能にする停止・自動飛行

 ヘリポートの隣にあるコンテナの建物内のブリーフィング場で試乗日程や経路、注意事項を聞き、安全装備を着用してからヘリに乗りこんだ。内部が完全に露わになっていた。試作機のため内部のインテリアが施されておらず、ヘリの中の骨組みとその間を神経網のように通過する電源、信号制御ケーブルがそのまま見えていた。操縦席と搭乗客の座席もやはり部品を組み合わせただけのものだった。

 スリオン試作機第3号は、スリオンに海兵隊上陸作戦支援機能を加えた派生ヘリ「マリンオン」の試作機を元に作られた。操縦士2人、機関銃の射手2人、完全軍装兵力9人の計13人が搭乗できるように設計された。今でもマリンオンの機能・性能改善テスト用に活用されている。この日の試乗には、本紙の取材陣やKAI広報室の職員、エンジニア、パイロットなど計10人が搭乗した。

 「離陸します」。近くの空軍部隊の管制塔から離陸許可を受けた操縦士がヘッドセットを通じて言うと同時に、翼がさらに大きく回り、ヘリが宙に浮かんだ。第1段階のテスト飛行は地上での停止飛行だ。少し浮かび上がってから、その場にじっと止まっている。パイロットは万歳の姿勢で操縦桿から手を完全に離して見せた。「自動停止飛行モード」だという。

 操縦士が再び操縦桿を操作すると、ヘリが300メートルの高さに上昇し、泗川湾の海に向かって飛んでいく。GPSに入力しておいた路線に従って、目標地点に向かって自動的に飛ぶ機能も試演した。パイロットは「視野が確保されない夜間や悪天候の中でも侵入・救助作戦を可能にする機能」だと説明した。

 「下に見える泗川湾は壬辰倭乱(文禄・慶長の役)の際、李舜臣(イ・スンシン)将軍が亀甲船を初めて使い、倭軍の艦船を撃退したところです。あの横にオーシャンビューのゴルフ場が見えますよね。あのゴルフ場のリゾートは俳優ペ・ヨンジュンさんが新婚旅行に訪れたところです」。晴れた天気のおかげでワラビ畑が碁盤状になっている島々とその間を結ぶ大橋など多島海の景色が足元に広がる中、パイロットの400年の歴史を行き来する“サービス”の説明が続いた。

済州島消防庁に納品され、救助用に使われているスリオン=KAI提供//ハンギョレ新聞社
警察に納入されたスリオンが独島の上空を飛んでいる=KAI提供//ハンギョレ新聞社

泗川湾に急に敵の対空砲基地?

 「あっ!前に見える島の裏側に敵の対空砲基地があるという情報が入りました。敵の対空砲攻撃を避けるため、これからは戦術飛行を行います」。パイロットの言葉と共に、ヘリは海に向かって真っ逆さまに下降した後、水面すれすれに島の中に潜り込んでいく。さらに渓谷と稜線に添って飛行し、やっと離れたと思うと、再び向かい側の渓谷と稜線の腰に沿って滑るように飛ぶことを繰り返した。その度に搭乗者の目に見える窓の外の風景は、投げ捨てられたカメラで撮られた映像のように次々と変わった。同時に搭乗者たちは冷や汗をかき始めた。壬辰倭乱の際、亀甲船を見た倭軍がこのような状態だったかもしれない。緊張感あふれる飛行が3、4回繰り返された後、戦術飛行のテストが終わった。

 「大丈夫ですか?泗川湾の景色、素晴らしいでしょう?」。ヘリが「戦術飛行で敵の対空砲基地に接近し、機関銃で焦土化」させた後、再び海上に出てからパイロットが後ろを振り向きながら笑顔で尋ねる。

「大丈夫なわけがないだろう」と思わずつぶやきそうになったが、口には出さなかった。帰りに再び戦術飛行をされたら、大声で叫んだかもしれない。出発地点に復帰する時は、戦術飛行の代わりに、海面上での自動停止飛行を見せてくれた。パイロットは「海でヘリを利用して遭難者を救ったり、海兵隊が侵入作戦を遂行するのに有用な機能」だと説明した。

 ヘリが出発地に着陸し、約30分の試乗が終わった。ヘッドセットを外してヘリから降りて同僚たちの顔を見ると、「言いたいことは多いが、今は我慢する」という表情がありありと見えた。年齢が高いほど、顔から血の気が失せていたが、取材陣では中ぐらいの年齢の記者も戦術飛行で酔ってしまい、背中と顔には冷や汗が流れた。同乗したKAI広報チーム長は「今日の戦術飛行は実際の軍作戦時とほぼ同じくらい厳しいものだった。パイロットに何かあったか、よっぽど嫌われたようですね」と、冗談を飛ばした。

韓国初の国産機動ヘリコプター「スリオン」の組立ラインの様子=KAI提供//ハンギョレ新聞社

スリオン、“名品”から”ガラクタ”に転落?

 ヘリ試乗に先立ち、スリオン開発過程の不正に対する監査院の監査結果を報じた本紙の記事(2017年7月18日付、“名品”から“ガラクタ”に転落したスリオン)を見た。記事の内容を見ると、スリオンは、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2006年6月から6年間1兆2950億ウォン(約1260億円)を投じ、李明博(イ・ミョンバク)政権(2012年6月)で開発が完了された初の国産の機動ヘリだ。老朽化した軍用ヘリを代替し、国内ヘリ開発能力を確保するための事業だった。

 しかし「名品ヘリ」を標榜したスリオンは監査院の監査の結果、「ガラクタ」だったことが明らかになった。プロペラが胴体にぶつかる事故が発生したことを始め、結氷環境で飛行中に表面が凍りつく恐れのある欠陥などが見つかった。しかし、防衛事業庁は2009年1月、事業日程が迫っているという理由で結氷性能試験などを見送り、試験評価を省略して、スリオンの納品を受けた。このため、2015年に3度の墜落事故が発生した。

 李明博元大統領と朴槿恵前大統領はそれぞれ、スリオンに直接試乗し、「国家領土守護の象徴」、「航空産業発展の証」などの賛辞を送った。韓国政府は「名品兵器」や「輸出動力」、「技術自立」などあらゆる美辞麗句を動員し、スリオンの開発と実戦配置を広報してきた。しかし、監査院の調査で明らかになったスリオンの問題点と関連機関の不正は、このような賛辞とは程遠いものだった。

 結局、スリオンの“墜落”は防衛産業の不正全般にメスを入れる結果につながった。監査院の報告を受けた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「防衛産業の不正は単純な不正にとどまらず、国の安全保障に大きな穴を開ける利敵行為に当たる」とし、「防衛産業の不正撲滅は保守・進歩の問題ではなく、愛国と非愛国の問題であり、これ以上先送りできない積弊清算の課題」だと述べた。文大統領は「個別事件の処理で終わらせず、二度と繰り返されないよう、その結果を制度改善に結びつける国家的努力が必要だ」とし、防衛産業の不正全般を改善するよう指示した。

KAIが開発中の小型武装ヘリコプターが試験飛行前に点検を受けている=KAI提供//ハンギョレ新聞社
KAIが開発中の小型武装ヘリコプターの側面=KAI提供//ハンギョレ新聞社
kAIが開発中の小型武装ヘリコプターがミサイルを発射している=KAI提供//ハンギョレ新聞社

KAIの「性能改善」

 KAIはスリオンのこうした暗い歴史と関連し、「スリオンは今、4次量産段階だ。監査院の監査は開発過程と1・2次量産段階を対象としたが、今はいずれも改善された状態だ。現在は様々な民需用派生商品まで作って納品している」と述べた。2018年にも海兵隊作戦中にマリンオンが墜落して人命事故まで起こしたことについては「明らかな人災だった。フランスの部品会社が水冷式部品を空冷式と送ってきたことから発生した事故だった。その後、部品をフランス政府が保証し、KAIが装着前に全数検査することに手続きを変えた」と説明した。

 スリオンはこれまで陸軍・海兵隊納品量を含め、計160機が作られた。一部は警察や海洋警察、消防庁、山林庁など民需用として供給された。今は、慶尚南道消防庁や中央119などから注文を受けたものを作っている。

 KAIはスリオンの性能改良と派生型(注文に応じてスリオンの機能変更・追加)商品の製造とともに「小型武装ヘリ(LAH)」と「小型民需ヘリ(LCH)」も開発している。ギアボックスや動力伝達装置など中核部品の国産化と次世代高機動ヘリの開発にも乗り出している。電気航空機の実証機を開発し、都心航空交通(UAM)事業に参入する計画もある。

泗川/キム・ジェソプ先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/999448.html韓国語原文入力:2021-06-15 15:13
訳H.J

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