高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が、ソウル市のチョ・ヒヨン教育監(教育委員長に相当)やユン・ソクヨル前検察総長らが関与したとされる事件の捜査に相次いで着手し、発足と共に政治的攻防の渦に巻き込まれているという懸念の声があがっている。ユン前総長の場合、有力な大統領選候補とされることから、野党の攻勢が激しくなっている。人材と捜査経験の足りない公捜処があまりにも多い事件の捜査に乗り出したため、これらをまともに処理するのは難しいという見方もある。
公捜処の発足後、「2021年公第○号」から始まる事件番号を付与し、捜査に着手した事例は計9件。公捜処の第1・2号事件はチョ・ヒヨン教育監による不当な特別採用疑惑と国家公務員法違反嫌疑事件だ。第3号は「ユン・ジュンチョン面談報告書」を虚偽で作成した疑惑が持ち上がっているイ・ギュウォン検事事件、第4号は起訴されたイ・ソンユン・ソウル高等検察庁長事件の公訴状を流出した事件、第7・8号はユン・ソクヨル前検察総長の「オプティマス・ファンド詐欺疑惑」と「ハン・ミョンスク元首相捜査チームの偽証教唆関連捜査妨害疑惑」事件だ。第9号は釜山(プサン)Lシティ政官界ロビー疑惑事件に関する検察指導部の“手抜き捜査”疑惑だ。第5・6号は外部に知られていないが、キム・ハグィ元次官不法出国禁止事件と、この事件の捜査もみ消し疑惑に関連した事案とみられている。
法曹界では、発足当時から限界として指摘されてきた「政治的中立をめぐる議論」が現実のものになりつつあるとの見方が優勢だ。ユン前総長事件が代表的な事例だ。市民団体の告発をもとに捜査することを非難するのは難しいが、捜査過程における雑音は避けられない。有力な大統領選挙候補を起訴すれば、それ自体で無理な捜査という論議に巻き込まれる可能性が高く、逆にこれといった結果を出せなければ、与野党から「手抜き捜査」または「意図を持った捜査着手」という攻撃を免れない。すでに政界では「野党陣営の大統領選候補叩き」(国民の力)、「大統領選挙候補とされているからこそ、厳正に捜査を受けなければならない」(共に民主党)という神経戦が繰り広げられている。
チョ教育監事件も、「第1号の捜査対象として適切なのか」という批判とともに、当事者も反発を強めている。チョ教育監側は2日、記者会見で「(公捜処捜査を触発した監査院監査は)進歩派教育監の人事権の行使にケチをつけるための政治的監査」だとし、「公捜処がこれといった根拠もなく漠然とした想像に基づいて捜査を開始した。違法な捜査になる可能性が高い」と主張した。
しかも、公捜処は深刻な人材不足問題を解決できずにいる。現在、公捜処の人員は検事13人と捜査官18人で定員の半分程度だ。実際、捜査に投入される捜査2部・3部所属の検事は部長検事2人を含む9人だが、このうち相当数は法務研修院で教育を受けている。今月17日に人事委員会を開き、10人の検事を新たに採用する手続きに入るなど、人材確保に総力を上げているが、現在着手した事件に対応するには不十分とみられている。公捜処が最近、警察庁に捜査官を最大20人まで追加派遣してほしいと要請したのも、このような人材不足を端的に表わしている。
人材不足で事件の捜査が長引けば、それだけで政治的問題になりかねない。瑞草洞(ソチョドン)のある弁護士は「主要事件9件のうちチョ・ヒヨン教育監事件を除けば、すべて捜査技法を熟知している検察関連事件だが、公捜処が彼らを相手に少しミスをしただけでも問題が発生する」とし、「(敏感な事件なので)もっと几帳面で体系的にアプローチしなければならないが。人材不足などで当面の課題を解決するのは難しいかもしれない」と述べた。