光州市東区鶴洞(クァンジュシ・トング・ハクドン)4区域の再開発地域で5階建ての建物が崩壊した事故の2カ月前に、同区域の別の建物の撤去過程で事故の危険性が提起されていたことがわかった。しかし、このような訴えに対し、東区区役所は施工業者などに「安全措置を強化せよ」という内容の公文を送るにとどまっていたことが明らかになった。撤去現場の安全を懸念する訴えに積極的に対応していれば防ぐことができたという点で、今回の事故は“人災”だったと指摘されている。
本紙の取材の結果、国民権益委員会が管理する「国民申聞鼓」(行政機関に苦情・意見を提示するオンラインの国民参加ポータルシステム)に、4月7日に「光州鶴洞4区域の撤去工事は人命事故の危険性がある」という公益通報が入った。市民のSさん(58)は「光州市東区鶴洞4区域の撤去業者が旧畜産業協同組合(畜協)の建物(5階)を撤去する過程で、危険な工事をしているのを見て公益通報をした」と話した。旧畜協の建物と9日に崩壊事故が発生した5階建ての韓方医院の建物は、わずか900メートルしか離れていない。通報文でSさんは「撤去予定の建物に土砂を積み上げ装備を上げた後に両方を撤去する過程で、間違ったら建物が道路に押し出されたり、破片が飛び散ったりして車が危険であるにもかかわらず、何の安全措置もなかった」と書いた。
(株)現代開発産業は昨年下半期から、鶴洞633-3一帯の12万6433平方メートル規模の鶴4区域再開発地域でマンションを建てるために撤去作業を進めてきた。鶴4区域は光州の代表的な老朽住宅密集地域の一つで、ここには地下2階~地上29階のマンション19棟、2282世帯分が建設される予定だった。工事を受注した現代産業開発は、専門建設会社のハンソル企業に下請けを出し、撤去工事を任せた。
Sさんは「撤去現場のすぐ横は車が通る道路だが、テントとパイプだけで遮断して撤去するのは人身事故が(起きるかもしれず)不安なので知らせた」と通報した。Sさんは「建物と道路が隣接しており、区域外に(破片が)落ちた場合、人身事故が起こるかもしれないのに、このように撤去していいのか」とし「その高さから破片一つでも落ちて(道路を通る)車のガラスにぶつかりでもしたら、その被害者はとんでもない目に遭うだろう。サーカスのどきどき感とは違う、不吉な予感にヒヤッとしながら現場を目撃し、思いつくままに書いた」と通報した。
Sさんの通報を受けた国民権益委員会は、光州東区区役所に陳情の内容を知らせ、東区区役所都市管理局側は4月12日、「組合および解体施工業者に対し、解体工事の際に事故など人身被害が発生しないよう安全順守の徹底および周辺の歩行者など被害が発生しないよう安全措置命令(公文発送)を出した」という返事を送った。Sさんは「東区区役所がたった1枚の公文を送った後、現場の管理監督をきちんと対処せず、大きな人身事故につながったようで残念だ」と話した。
Sさんはこの日、本紙のインタビューに応じ「当時、工事現場近くの道路で車が行ったり来たりしていたにもかかわらず、パイプでテントを組んだ仕切りを置いただけで工事をしていた」とし、「事務所から畜協の建物を撤去する様子を見ていたが、レンガ一つでも道路側に落ちたら、車を運転している人が致命傷を負うだろうと思い、不安だった」と話した。不安な気持ちでSさんは7日と9日、危険に進められている撤去工事の現場を写真と動画で撮影した。Sさんは「撤去対象だった畜協の建物の後ろに土砂を積み上げているのだが、土砂の傾斜が急で、撤去対象の建物が押し出されれば道路側に倒れる可能性があると思った」と話した。今回17人の死傷者を出した漢方医院の5階建ての建物でも、同じ方式の撤去作業が行われた。
しかし、Sさんが提起した危険な撤去工事のやり方に対する問題提起を、監督機関と施工業者は深刻に受けとめなかった。国民権益委員会側は「通常、国民申聞鼓に苦情が届けられたら、回答できる省庁に案内する」と説明した。鶴4区域再開発組合側は「4月に東区区役所から二つの公文書を受け取り、現場事務所に渡した」と明らかにした。しかし、現代産業開発と撤去施工を受注したハンソル企業はこれに関するハンギョレの質問に答えなかった。
今月9日午後4時22分、光州市東区鶴洞4区域で撤去中の5階建ての建物が崩れ、道路を走っていた市内バスに覆いかぶさり、9人が死亡、8人が重傷を負った。