本文に移動

射撃場や車、宿舎まで…女性軍人に性犯罪の安全地帯はなかった

登録:2021-06-08 08:45 修正:2021-06-08 15:50
軍事裁判所の判決文91件を分析 
「部隊内」で行われた性犯罪が最も多く 
10件中6件が「上官による性暴力」 
下官の間でも性的対象化が蔓延 
実刑は16%だけ…民間裁判より低い
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 強制わいせつ被害を届け出た後、保護や支援ではなく、懐柔やもみ消し、手抜き捜査を図られ、結局自ら命を絶った韓国空軍のL中士(軍の階級)の死後、軍内の性犯罪の実態と事件処理方法に対する改革を求める声が高まっている。軍の性犯罪の実態を見る限り、L中士の死は偶然起きた不運な事件ではない。女性軍人を対象にした性犯罪に寛大な閉鎖的男性中心の組織文化が慢性化した結果と言える。

 本紙は7日、軍事裁判所の判決文のインターネット統合閲覧・検索サービスで、「女性軍人」をキーワードに抽出した91件の判決文(2015年1月1日~2021年6月1日)を全数分析した。女性軍人が被害者の事件の罪名としては、強制わいせつや準強姦などの性犯罪が88件(96.7%)で大半を占めていた。このうち、強姦や準強姦など深刻な性犯罪も20件(21.9%)にのぼった。部隊内部や業務後の飲み会、休憩を取る女性軍人の宿舎まで、女性軍人が性犯罪から安全でいられる場所はなかった。トップダウンの階級章文化や女性軍人に対する性的対象化、男性軍人より業務的に劣等な存在として扱われてきた軍内外の認識が、軍内の蔓延した性犯罪の背景となっている。

女性軍人対象の性犯罪、10件中4件は部隊内

 空軍整備庫、軍需科事務室、遊撃訓練場、喫煙所、射撃場、所属部隊の兵舎…。

 業務空間であるべき軍部隊が、いつの間にか性犯罪の場所となっていた。判決文に登場した性犯罪の発生場所としては、部隊内部(40件、43.9%)が最も多かった。

 「いたずら」や「励まし」を口実にした身体接触と強制わいせつは、業務空間ならどこでも起きていた。加害者は、仕事をしている女性軍人のお尻を膝で軽く触ったり、射撃の姿勢を教えるとして体を密着させたり、理由もなくわき腹や太ももをつついたりした。さらに、訓練支援のために他の部隊に移動する状況でも、車の中で強制わいせつが起きた。通常、職級上は下官である被害者たちは、このような強制わいせつに侮蔑を感じながらも耐え、数回繰り返されてからようやく軍の捜査機関に通報した。

 強姦や準強姦などの深刻な性犯罪は、部隊の外で、会食やプライベートな飲み会の前後に主に発生していた。飲食店(3件)やカラオケ店(8件)、帰宅する車の中(7件)などで起きた性犯罪がそのケースだ。飲み会の席で男性上官がそれとなく女性軍人の体に触れたり、カラオケでチークダンスを強要したり、無理やりキスをするケースもあった。泥酔して意識がない女性下官を、男性上官がホテルや宿舎、車などで性的暴行を加えた事例(準強姦、準強制わいせつなど)も11件に達した。

 女性軍人が休息を取る私的な生活空間も性犯罪の場所になっていた。判決文に記された女性軍人が対象となった犯罪のうち、23%が女性軍人の宿舎で起きた。その中でも女性軍人の宿舎に忍び込んで物を盗んだり、わいせつ行為をするなどの犯罪が10件にのぼった。2019年、ある陸軍兵士は未明の時間帯に女性軍人たちが暮らすマンションに14回にわたって侵入し、自分の体液をトイレに備えられたボディソープに混ぜたことで、執行猶予を言い渡された。

 携帯電話や小型カメラなどを利用した盗撮事例もあった。昨年5月、ある陸軍兵士は女性シャワー室の換気扇の羽の隙間から携帯電話を入れて動画を撮影していたのが発覚した。被害者は自分と同じ所属部隊で一緒に勤務する女性軍人だった。2017年javascript:img_view(38521)には、ある空軍兵士が女性の休憩室に忍び込み、補助バッテリー型の隠しカメラを設置して摘発された。

軍事裁判所の判決文の分析(単位:件)//ハンギョレ新聞社

10件中6件が「上官による性暴力」

 「短期で除隊するつもりなのか」、「小隊長になりたいと言っていただろ?ちょっと難しいんじゃないか」

 昨年1月、部下将校にわいせつな行為を行い、罰金刑を言い渡されたある陸軍部隊の将校は、被害者に対し、自分の「第1次評定権」を強調したという。このように上級者が長期服務や進級を希望する初級幹部に対する人事評定権を悪用した事例は、判決文で最も多く発見される類型だ。上官による性暴力(57件、62.6%)が最も多い理由でもある。

 被害者は、初任地に赴任したり、長期服務評価を控えた副士官(下士18件、軍曹6件)が最も多かった。中尉・大尉など尉官級将校が被害者であるケースも13件と、少なくはなかった。判決文で確認された加害者は、副士官と尉官級将校がそれぞれ13件、左官級が5件など、主に初級幹部の人事評価に直接・間接的に影響を及ぼし得る人々だった。

 軍人を職業に選んだ被害者にとって長期服務の可否は性犯罪のもみ消しのための懐柔の道具として使われた。2017年、ある陸軍部隊の主任元士は「父親だと思ってほしい」と言いながら所属部隊の副士官にわいせつな行為をしたが、被害者がこれを通報すると、「長期服務希望なのに、主任元士を責めていいのか」とし、事件をもみ消そうとした。被害者らは「長期服務に悪影響が出る恐れがある」という理由で通報をせず、我慢していたという。2017年に発生した性的暴行事件の判決文を見ると、被害者は「長期選抜、進級など職業軍人の夢を繰り広げる」ために我慢していたが、加害者が何食わぬ顔で続けて酒席への出席を勧めることに耐えかねて通報したというケースもある。

 女性軍人が上官である場合も軍の性犯罪から安全なわけではなかった。下官が女性上官を性的に侮辱したり、性的暴行を加える事例も9件(9.8%)もあった。男性と女性というジェンダー間の位階が、軍で絶対的な階級的位階を圧倒したケースだ。2018年、ある医務兵は意識を失って医務室に運ばれてきた女性上官の身体を触り、強制わいせつ罪で執行猶予を言い渡された。

 特に、新兵教育隊に入所したばかりの訓練兵らが、女性教官を性的に侮辱した事例(6件)が多かった。昨年7月、ある訓練兵は新兵教育大隊の個人火器射撃場で訓練について説明するある女性教官に向かって「女の分際でうるさい」と言い、上官侮辱罪で執行猶予が言い渡された。昨年2月、論山(ノンサン)訓練所で、ある訓練兵が手りゅう弾の訓練中に女性教官の声を真似して性的に侮辱する発言をし、執行猶予が言い渡された。

軍事裁判所の性犯罪実刑判決はわずか16.4%

 軍事裁判所の処罰は民間裁判所に比べて軽すぎた。全体判決のうち15件(16.4%)だけに実刑が言い渡された。執行猶予53件(58.2%)、罰金刑15件(16.4%)、宣告猶予は3件だった。実刑率だけで見れば、性犯罪で起訴された民間人が一審裁判で実刑を言い渡される比率(25.2%)より低い数値だ。

 緩い処罰と思われる事例も少なくなかった。2017年、高等軍事裁判所は、食事の最中に女性軍人の首や肩、腰などをしつこく触ったある将校に対し、「開放された飲食店で行われており、通常の腰のマッサージと見られる」として無罪を言い渡した。第3軍団普通軍事裁判所は2019年10月、女性軍人の宿舎に無断侵入し、ツイッターで知り合った未成年被害者の裸写真を流布した軍人に懲役2年の執行猶予(4年)を言い渡した。「執行猶予以上の前科がなく、犯行を自白し反省している」という理由だった。

 特に軍事裁判所は刑を宣告する際、「数年間誠実な軍服務をしてきた」とか「同僚部隊員が嘆願書を提出した」などの理由で減刑するケースも多かった。2019年、高等軍事裁判所は、後輩の女性軍人を自分の部屋に誘引し、わいせつ行為をした被告人に対し、「被害者は被告人の処罰を望んでいる」など罪質が良くないとしながらも、「被告人の指揮官をはじめ部隊員たちが被告人の善処を懇願している」として、執行猶予を言い渡した。

女性軍人を“同等な同僚”として見られない軍内の男性中心文化の変化が必要

 直接の性犯罪ではなくても分析対象になった判決文の中では、女性を性的に対象化する視線や、男性軍人に比べて業務的に劣等な存在と見る認識が多く見つかった。2016年、ある女性将校が直属の上官である中佐の「女性軍人は嫌いだ」「女性軍人は有利なときは戦友と言い、不利なときは女性と言う」などの性差別的な発言に苦しみ、部隊を離脱する事件が発生した。2017年、「僕は女性軍人の前に立つと手が震えて評価を受けられない。生物化学兵器防御訓練の女性将校がきれいなので、手が震える」などと述べながら、むしろ女性将校を告訴した人に対し、誣告罪の罰金刑が言い渡されたりもした。

 軍人権センターの活動家のパン・ヘリン氏は「女性軍人を対象とする性犯罪が上官や下官を問わず頻繁に起きている理由は、最終的には女性軍人を同等な同僚と見なさない軍内の認識によるものとみられる。女性軍人に対する性犯罪を単なる一部の男性軍人の逸脱として扱うのではなく、軍内の男性中心文化に対する全般的な認識改善と反省が伴わなければならない」と述べた。

イム・ジェウ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/women/998384.html韓国語原文入力:2021-06-08 02:10
訳H.J

関連記事