カメラの前に立って肉声を聞かせたことがない。「今日は誰々と会ったらしい」という声だけが伝わる。ところが「好評」一色だ。このような潜行ともいえない潜行がもう3カ月続いている。これまでの「汝矣島の政界」ではめったに見られなかった方式だ。ユン・ソクヨル前検察総長の話である。突発的な失態のようなリスクが大きい直接露出は避けつつ、言いたいメッセージだけを伝える「非対面・一方向メディア政治」ということだ。政治初心者としては安全な装置だが、実体を表に出さない時間が長くなるほど、大衆の関心も薄れていく。ユン前総長の支持率が最近停滞しているのも、これと無関係ではなさそうだ。
非対面の間接政治で友好的なイメージ築く
ユン前総長は今年3月に検察総長を辞任した後、重要な懸案について直接発言した例がほとんどない。5・18光州民主化運動をめぐり「現在も進行中の生きた歴史」とし、いくつかのメディアにショートメッセージで答えた程度だ。一言の言及もなかった4月7日の再・補選の事前投票現場を除けば、マスコミのカメラに捉えられたこともない。その代わり、ユン前総長が誰かに会った後、側近がメディアに「事後報告」したり、相手の口を借りてメディアに知られる。この過程で「多くの政治家に会ってきたが、路地文化を理解している人はユン前総長だけだ」(モ・ジョンリン延世大学教授)、「半導体についてかなりよく知っており、習得も早くて驚いた」(チョン・ドッキュン・ソウル大学電気情報工学部碩座教授)などの称賛があふれる。大衆と直接疎通はせず、自分が望むイメージだけを着実に積んでいるわけだ。政治家初心者としては安全な方法だ。生のままではなく精製され意図された良い姿だけを見せることができるからだ。イメージコンサルティング専門家のホ・ウナ議員(国民の力)は「初心者の政治家が政界に進出する前に、より安全に進出するために緩衝地帯を設けているのだ。周りの人を通じたメッセージで自分は負担を減らし、大衆の反応を見ることができる」と分析した。
クォン・ソンドン、チョン・ジンソク、ユン・ヒスクなど国民の力の議員たちと相次いで接触し、入党ムードを作ったのも同じ脈絡とみられる。彼らの口を借りて党内の「友好的世論」を形成することができ、後に状況が変わっても「私の考えではなかった」と抜け出すこともできるからだ。国民の力のある2回当選議員は「ひとまず自分と近い議員と会った事実を彼らの口を通じて知らせ、党内に友好的なムードをつくっている。党のムードを探ると同時に友軍を作る戦略だ」と説明した。
政権に“ジャブ”打つ課外政治
ユン前総長はこれまで、外交、経済、不動産、小商工人、半導体、建築など多方面の専門家に会い、「大統領選挙の授業」に熱中した。「捜査以外の知識はない」という批判に反論するための措置とみられる。特に、彼が専門家たちに会って意見を分かち合った分野を見ると、住宅価格の暴騰を抑えられずにいる不動産政策▽不安定になった労働市場▽新型コロナで直撃を受けた自営業・小商工人問題▽政府規制で20代の民意を刺激した仮想資産問題▽グローバル半導体戦争など、文在寅(ムン・ジェイン)政権が直面している国内外の懸案を網羅している。専門家との会合を通じて文在寅政権の失政を浮き彫りにし、「代案勢力」としての存在を認識させる狙いがあるということだ。キム・ドンモ韓国政治コミュニケーション学会長(湖南大学教授)は「ユン前総長が現政権の弱点に関する専門家らに意図的に会い、“ジャブ”を打ち続けている」とし「自分は現政権とは違い、代案を提示できるということを見せる方式で存在感を高め続ける作業をしている」と分析した。
30代のスピーカーを立て、ユーチューブでの間接コミュニケーション
ユン前総長は2日、30代の時事評論家チャン・イェチャン氏を初めて自分の「スピーカー」に立てた。モ・ジョンリン教授と延禧洞(ヨニドン)の路地商店街で会ったときの映像と写真がチャン氏のユーチューブチャンネルで公開され、チャン氏はこれからユン前総長の公報参謀の役割をする予定だと明らかにした。特定メディアに本人のスケジュールやメッセージを流したり、側近を通じて事後報告を行う「検察式広報」から、ユーチューブによる大衆的なコミュニケーションへと変化を図っているとみられる。特に30代を前面に出したのは、次期大統領選挙でスイングボーターに浮上した20~30民意に向けた戦略的選択という分析が出ている。汝矣島研究院長出身のソン・ドンギュ中央大学メディアコミュニケーション学部教授は「脱政治化・脱理念化している20~30代に、ユン前総長は進歩と保守の二分法ではなく、目の前の現実の中のソリューションを提供する姿を見せようとしている」とし、「巨大キャンプなどこれまでの権威を破壊することが、若い層には革新として受け入れられる」と解説した。
「ユン・ソクヨル式政治」は検証回避の手段?
しかし、ユーチューブチャンネルも編集された画面を通じて意図されたメッセージを伝えるだけだ。大衆と会うことを避け、「非対面・一方通行」で好評を伝えるユン前総長の政治方式には、本質的な変化はないということだ。このため、このようなメディア政治に対して懐疑的な声も出ている。キム・ドンモ教授は「ユン前総長が勢力整備など準備ができていないか、前面に登場したときになるべく打撃を少なくするために慎重に準備しているようだ」とし「“塩梅をみる”ような行動が続けば、あまりに時間を置きすぎて国民を失望させる可能性もある」と述べた。有力な大統領選候補であるユン前総長が、争点に対する明確な立場を自分の口に出さず、コンテンツや政治力に対する国民の検証を避ける消極的な行動を取り続けるのは限界があるということだ。