1987年体制に入ってから、第3地帯(保守・進歩に続く中道のこと)は常に開かれていた。しかし、第3の候補は常に失敗した。
出発は1992年の現代グループのチョン・ジュヨン会長だった。チョン・ジュヨン会長は1992年3月の総選挙を控え、統一国民党を設立し、31議席の院内交渉団体を作った。12月、大統領選挙に出馬した。かろうじて16.31%の票を得た。
1995年の第1回全国同時地方選挙のソウル市長選挙では、第3の候補は無所属のパク・チャンジョン候補だった。かなりの勢いを上げたが、33.51%の得票で2位に終わった。
1997年の大統領選を控え、作家のユ・シミン氏が『97大統領選挙、ゲームの法則』という本を書いた。政権交替のためには第3の候補を立てなければならないといった。
同書では、金大中(キム・デジュン)総裁が大統領に当選するには、与党勢力の分裂、大多数のキム・ジョンピル支持者の全面的な支援、在野の支持という3つの条件が同時に満たされなければならないとし、「ラクダが針の穴を通る」ぐらい難しいことだといった。
そこで、例えばチョ・スン市長のような第3の候補を前面に押し出さなければならないとした。厳密にいえば、第3の候補論ではなく代理戦をせよという注文だった。 ところが、ラクダが針の穴を通った。
第3の候補論はそれでも力を失わなかった。2002年の大統領選挙の第3の候補はチョン・モンジュン議員だった。しかし、新千年民主党の盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補との一本化交渉により退いた。
2007年の大統領選には無所属のイ・フェチャン候補が出馬した。3度目の挑戦だった。第3の候補とはいえなかった。
2011年から第3の候補の地位に居続けているのは、政治新人のアン・チョルス教授だった。2012年大統領選挙、2016年総選挙、2017年大統領選挙、2018年ソウル市長選挙、2020年総選挙に挑戦した。ほとんどすべてにおいて失敗した。4月7日のソウル市長補欠選挙への挑戦は第3の候補としては最後の勝負だったはずだ。結局、また失敗した。
大韓民国の政治で第3の候補はなぜ毎回失敗するのだろうか。
一つ目は、反政治主義だ。
第3の候補は常に反政治主義をある程度利用した。チョン・ジュヨン会長も、アン・チョルス教授もそうだった。
政治をしながら反政治主義を利用するのは偽善だ。 有権者は愚かにみえるが間抜けではない。
二つ目は、確証バイアスがますますひどくなる傾向のためだ。
確証バイアスは情報化時代の副産物だ。事実と信頼が衝突すれば、かつては信頼を変えた。今は事実を受け入れない。“自分側”と“自分とは違う側”だけが存在する生態系では、第3の候補がかき分けて入り込む空間を作るのは難しい。
三つ目は、政党の主人が変わっていることだ。
これは若干の説明が必要だ。かつての政党の主人は総裁だった。政党を作ることが容易だったし、なくすことも容易だった。今の政党の主人は党員だ。政党を作ることも難しく、なくすことも難しい。第3の候補が自身の政治的な基盤である政党を新たに作るのは、ほとんど不可能だ。
それならば、もはや大韓民国の政治からは第3の候補は消えるのだろうか。アン・チョルス代表が最後で、第3の候補はもう出てこないのだろうか。
それはそう簡単ではない。ユン・ソクヨル前検察総長のためだ。アン・チョルス代表の神秘さが消える第3の候補の舞台に、ユン・ソクヨル前総長が登場している。絶妙なタイミングだ。
次期政治指導者の選好度調査で、ユン・ソクヨル前検察総長が最高値を記録している。誰よりもユン・ソクヨル前総長自身が最も当惑しているようだ。
100歳を越えた哲学者を訪ね、「私が政治をしても良いのか」と質問した理由もそのためだろう。
ユン・ソクヨル前総長の人気が高まる理由はなにか。文在寅(ムン・ジェイン)政権の実情のためだ。ユン・ソクヨル総長に対する無理な懲戒請求は、彼に“迫害を受ける義人”のイメージを贈った。
その後、韓国土地住宅公社(LH)問題が起こると、文在寅政権の審判のための政治的な代案として浮上している。しかし、そこまでだ。
ユン・ソクヨル前総長は来年の大統領選挙に出馬できるだろうか。できないと思う。
理由は二つだ。
一つ目は、彼は第3の候補だからだ。限界が明確にみえる。泡はいつか消えるはずだ。
二つ目は、彼が出馬すれば、大韓民国の検察はユン・ソクヨル前総長の政治組織に転落する。そんなわけはなかろうが、そうなっては絶対にならない。
最近、ユン・ソクヨル前総長は大韓民国の大統領にもなり得るし、うまくやれるだろうとほめそやす論客がいる。
文在寅政権の実情を批判するのは正当なことだ。しかし、“ユン・ソクヨル大統領づくり”にまで先頭に立つのは行き過ぎだ。継続すれば、いつか惑世誣民(世の中の人を欺き惑わすこと)の責任を厳しく問われることになるだろう。
ソン・ハニョン | 政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )