福島第一原発の事故により生じた放射性物質に汚染された水の海洋放出は、韓国にどのような影響を及ぼすのだろうか。
日本政府が13日、福島第一原発に貯蔵中の汚染水の海洋放出を決定したことをきっかけとして、海洋放出が韓国に及ぼす影響を憂慮する声が高まっている。
日本のメディアは、日本政府が13日に開かれた閣議で福島第一原発のタンクに保管中の汚染水を海洋に放出する計画を含む「処理水の処分に関する基本方針」を決定したことを報じた。実際に放出されるまでには2年ほどかかるというのが現地メディアの見方だ。東京電力が放出のための細部計画を樹立し、原子力規制委員会の承認を受けて準備するという過程を経なければならないためだ。
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来年10月頃にはタンクがいっぱいに…排出基準を超える放射性物質
福島第一原発の敷地内に設置されている1000基あまりの貯水タンクには、先月18日現在で125万844トンの汚染水が保管されている。2011年の事故発生後、溶融して熱を出し続ける核燃料を冷やすために注入した冷却水、原発敷地に流れ込む雨水や地下水などを、多核種除去設備(ALPS)で処理して集めたものだ。汚染水は1日平均でおよそ140トンずつ増え、来年10月頃には現在までに確保されているタンク容量(137万トン)が飽和すると予想される。
日本はこの汚染水のことを、放射性物質を除去したとの意味から処理水と呼んでいる。しかし、東京電力が昨年12月に発表した資料によると、一部の放射性物質は依然として排出基準を大きく上回っている。骨髄に蓄積され血液がんのリスクを高めることが知られるストロンチウム(Sr)90は、1リットルの汚染水に平均で3355ベクレル含まれている。排出基準(30ベクレル/リットル)を実に110倍以上も上回る高濃度だ。トリチウム(三重水素、H-3)の平均濃度は1リットル当たり58万1689ベクレルで、排出基準(6万ベクレル/リットル)の10倍近く、ヨウ素(I-129)の平均濃度も9.361ベクレル/リットルで排出基準(9ベクレル/リットル)を上回る。
日本政府は、排出前にほとんどの放射性核種をALPSで再処理して排出基準に合わせ、処理できないトリチウムは海水で希釈して濃度を排出基準の40分の1未満に下げて排出することを決めた。しかし、これでは海に流されるトリチウムの総量は変わらない。汚染水中のトリチウムの総放射線量は約860兆ベクレルと推定される。これは韓国のすべての原発から1年間に排出されるトリチウムの約4倍を超える量だ。最近、月城(ウォルソン)原発からの流出が物議を醸したトリチウムは、これに汚染された水産物を通じて人体に入り、有機結合型トリチウムに変われば内部被ばくを引き起こすといわれる。
海に放出された放射性物質は食物連鎖を通じて蓄積され、人間の食卓をも脅かす恐れがある。福島第一原発事故の汚染水海洋放出計画に対し、地理的に最も近く、海産物を好んで食べる韓国人が不安を感じざるを得ない理由がここにある。しかし、実際に汚染水の放出が韓国にどれほどの影響を及ぼすのか、との問いには、政府も研究機関もまだ確実な答えを出せずにいる。体系的な分析が行われていないためだ。根本的な理由は、分析のためのシミュレーションモデルに入力すべき情報が確定していないことにある。
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韓国に及ぼす影響「日本が公開した情報がないため分析できない」
原子力安全委員会のキム・ユヌ防災環境課長は、「シミュレーションには放出量、放出期間、放出濃度の3つの重要情報が絶対に必要となるが、具体的に発表されたものがないため、世界的にも行った所はないと認識している」と述べた。韓国原子力研究院のソ・ギョンソク環境・災害評価研究部長は、「シミュレーションを行うには正確な放出情報を知らなければならないが、情報が出てこないため始められない」と語った。海洋科学技術院の関係者も「まだ海洋放出のシナリオがないため予測が始められず、準備が不十分な部分を補完し続けている段階」と説明した。
日本政府が13日に海洋への放出を決定する際に発表した具体的な放出情報は、トリチウムを排出基準の40分の1未満に希釈して排出するというのがほぼすべてだ。東京電力は最近、汚染水の一部をALPSで2次処理したところ、主な放射性物質が基準値未満に下がったと発表した。しかし2次浄化を行ったのは汚染水総量のごく一部で、放射性物質がどの程度残っているのかなどの具体的な情報は公開されていない。
そのため、東京電力が細部計画を発表するまでは、韓国への影響を把握するための本格的なシミュレーション分析は難しい、というのが専門家の見立てだ。ソ部長は「海流の動きが時期ごとに変わるため、正確なシミュレーションのためには放出日程についての情報も重要だ。日本からシミュレーションに必要な信頼性のある情報の提供を受けられずにシミュレーションを実施すれば、むしろ混乱ばかりを招きうる」と述べた。
これまでに、福島第一原発の汚染水の海洋放出が韓国に及ぼす影響をテーマとする研究が全くなかったわけではない。昨年9月に、原子力学会発行の英文ジャーナル「原子力工学と技術」オンライン版に「福島処理水の海洋と大気への放出に伴う放射線量評価」と題する論文が公開されたが、この中でわずかに登場する。原子力研究院所属の研究員をはじめとする5人の研究者が参加したこの研究は、福島第一原発の汚染水に含まれるすべての放射性核種が、さらなる浄化処理なしに1年間にわたって放出されるとの仮定に基づいて行われた。
同研究チームは、汚染水の海洋放出により、韓国人が年間に追加で被ばくする放射線量を0.000014マイクロシーベルトと推定し、一般人の被ばく線量限度1ミリシーベルトを大きく下回るため、悪影響は及ぼさないと結論付けた。放出シナリオからして日本が検討している内容とはかけ離れた同研究論文は、著者の要請でその後撤回されている。この論文の意味付けは難しい。そのため現在のところは、汚染水の海洋放出の韓国への影響は、10年前の福島第一原発事故当時に放出された放射性物質のデータを用いた既存のシミュレーションの結果を参考にして推測するしかないというのが、専門家の指摘だ。
2013年に原子力研究院は、福島第一原発事故の際に放出されたセシウム(Cs)137が海流に乗って北上し、北太平洋を一周して4~5年で韓国の海域にまで流入すると分析した。しかし、長期間にわたり広範囲に広がって薄まるため、実際の流入量は検出可能濃度未満だというのが、当時の評価結果だった。
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北太平洋を巡って4~5年後に韓国海域に流入? 薄まって影響は微々たるもの?
2012年にドイツのキール大学ヘルムホルツ海洋研究センターが、福島第一原発事故で排出されたセシウム137の拡散をシミュレーションした結果も、汚染水の海洋放出の影響について語る際にしばしば言及される。この研究結果をまとめた論文でキール大学の研究チームは、韓国の海域に意味ある濃度のセシウム137が到達する時期について、放出からおよそ5年後との分析結果を提示した。しかし研究チームが論文とは別に公開したシミュレーション動画に、通常は分析が不可能な水準である小数点以下8桁まで下げた濃度を入れると、セシウム137はわずか220~400日で済州島と西海にまで到達する。福島から北東方向へと向かう黒潮とは反対方向に流れる微細な海流による拡散が捉えられるからだ。
海洋科学技術院は昨年9月、国会にキール大学のシミュレーション動画を分析した資料を提出した際、「より低い濃度を動画に含めれば、1カ月以内に済州島西海に到達しうる」としつつ、分析不可能な濃度を適用した分析は無意味だと強調した。しかし一部のメディアは、海洋科技院の説明の中の「放射性物質が1カ月以内に韓国に到達しうる」という部分を強調して報道した。海洋科学技術院のチョン・ギョンテ諮問委員は「あのような水準の濃度を適用するのは誤っているという話をしようとしたのだが、メディアでは反対に報道された」と説明した。
海洋水産部海洋環境政策課のカン・ジョング課長は「キール大学の研究結果は、福島第一原発から放出される放射性物質が1年以内に韓国の海に流入する蓋然性は十分あるが、逆に言えば環境に影響を及ぼすほどではないということになる」としつつも、「国民にはっきりと話せるようにするためには、我々がシミュレーションモデルを使って影響分析をしなけばならない」と述べた。