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「慰安婦」問題、ICJ付託案が30年経てようやく出てきたわけは?(前)

登録:2021-02-19 03:03 修正:2021-02-19 06:48
日本軍「慰安婦」被害者イ・ヨンスさんが16日、ソウルプレスセンターで開かれた日本軍「慰安婦」問題の国連国際司法裁判所(ICJ)への付託を求める記者会見で涙をふいている/聯合ニュース

 日本軍「慰安婦」被害者のイ・ヨンスさんが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して慰安婦問題の国際司法裁判所(ICJ)への付託を要請したことで、韓日両政府だけでなく市民社会や学界までもが、今後の事態の展開を注視している。ICJを通じて「慰安婦」被害者問題を解決しようとの方策が公論化されたのは、1991年の故金学順(キム・ハクスン)さんの初の公開証言から30年を経て初めてのことだ。

ICJ付託、なぜこれまで提起されなかったのか

 「慰安婦」問題を国際紛争処理機関に持ち込んで判断を仰ごうとする試みは、以前にもあった。1994年、挺身隊問題対策協議会(挺対協)をはじめとする韓国の市民社会団体は、1965年の韓日請求権協定と日本政府の賠償義務についての解釈を、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)に委ねようとした。PCAは他の国際裁判所とは異なり、国ではなく個人が当事者として参加できる。当時、韓国と日本の市民社会団体は、法律諮問団を組織して提訴を進めたものの、日本政府が1995年にこの提案を拒否したことから、実現には至らなかった。

1992年12月に東京で開かれた「日本の戦後補償に関する国際公聴会」で、顔を合わせた南北の「慰安婦」被害者が抱き合って涙を流している=伊藤孝司(写真家)//ハンギョレ新聞社

韓国政府は解決策として検討したのではないか

 活発な民間活動とは異なり、韓国政府は「慰安婦」問題のICJ付託に公式に言及したことはない。外交部などの省庁内部で関連事項を検討しただけで、政策としては真剣に検討しなかったという。「慰安婦」問題の位置づけに比べて複雑な戦略的考慮が要求されるICJへの付託は、実効性のある解決策にならないと考えたのだ。

 1991年の金学順さんの公開証言によって「慰安婦」問題が歴史の前面に再登場して以来、日本政府は「国民の募金」などで作った「アジア女性基金」(1995~2007年)を通じてこの問題を取り繕おうとした。基金の設立後、韓国政府は問題解決に向けた積極的な努力を行わなかった。政府の態度が変わったのは、「政府が慰安婦被害者などの賠償請求権問題について具体的な解決努力を行わないのは違憲」だとする憲法裁判所の決定が2011年8月30日に下されてからだ。憲法裁の決定以降、政府は請求権協定第2条の対日請求権に「慰安婦」被害者などの賠償請求権が含まれるかどうかについての解釈の違いなどの問題を、第3条に明示された「外交上の経路」(1項)や「仲裁委員会への付託」(2項)を通じて解決するため、協議を進めた。仲裁委は日本側の拒否により組織されなかった。しかし、韓日間の外交協議が行われて、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2015年12月、韓日両政府間の「慰安婦」合意に帰結した。

日本政府はどうだったのか

 日本政府は独島(ドクト)、強制動員被害者への賠償判決、「慰安婦」問題などの様々な懸案について、ICJに提訴する可能性に言及してきたが、韓国に正式に提案したことはない。独島については2012年8月のイ・ミョンバク大統領の独島上陸の直後に言及。強制動員被害者への賠償については、新日鉄住金(現日本製鉄)を相手取って起こされた強制徴用損害に対する賠償請求訴訟で、2018年10月30日に韓国の最高裁判所が原告勝訴判決を下した際に、安倍首相が自ら付託の可能性に言及している。「慰安婦」については、ソウル中央地裁が先月8日に日本政府に対し慰安婦被害者1人当たり1億ウォン(約955万円)の賠償を命ずる判決を下した際、茂木敏充外相がICJへの付託を含む「あらゆる選択肢を視野に入れ」対応していくと述べている。

2015年12月28日、ソウルの外交部庁舎で、慰安婦問題に関する協議を終えたユン・ビョンセ外交部長官(右)と日本の岸田文雄外相が共同記者会見を行っている=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

韓日両政府はICJに向かうか

 しかし、イ・ヨンスさんが具体的な提案を行ったものの、韓国と日本の政府は慎重な態度を示している。韓国政府は「慰安婦被害者などの立場をもう少し聴取」して「ICJへの提訴問題は慎重に検討」するとの立場だ。日本政府も「どういう意図で、どういう考えでご発言しているかも存じ上げませんので、コメントは控えたい」との反応にとどまった。日本政府はこれまで、「慰安婦」制度が当時の国際法上の犯罪だったということを認めてもいず、積極的に否定もしていない。その代わりに、1965年の韓日請求権協定によってこの問題は解決済み、との主張ばかりを繰り返している。日本政府としても考慮すべき事項が多いことの傍証と解釈される。

 国連憲章に規定された国連の主な司法機関の一つであるICJの判断を仰ぐには、紛争当事国間の合意が必要となる。韓国政府が付託を決めたとしても、日本政府の同意なしには不可能だ。外交部の内外では、日本政府が国際社会で「慰安婦」問題に再び火がつくのを快く思わず、米国政府から良い反応は得がたいことなども考慮したため、強制徴用問題もICJへの提訴を試みなかったとみている。

 両国がICJの判断を仰ぐことに大筋で合意しても、具体的にどのような争点を持ち込むかをめぐっては、合意に至ることは困難とも指摘される。国が他国と国際裁判を行う前に真っ先に考慮することは「勝訴の可能性」だが、この間の政府の検討過程においては「勝訴するかどうかは予断を許さない」と判断されたとみられる。また、ICJへの付託が請求権協定による仲裁より有利だという保障もなく、「慰安婦」被害者が強制動員された日本軍の「性奴隷」だったということを確固たる証拠に基づいて立証せねばならないという課題もある。高齢の生存被害者15人のうち、円滑な意思疎通が可能な被害者は数えるほどで、一貫性のある証言の整理も容易ではない。法理的に、1965年の請求権協定と2015年の韓日「慰安婦」合意で問題が解決されたという日本側の主張が国際法専門家らを説得する可能性も否定できず、また、現在の人権法ではなく当時の国際法が基準となって日本の行為を違法とする判断が得られない可能性も排除できない。政府関係者が、現段階でICJに付託する可能性は「ほとんどない」との反応を示す理由はここにある。

キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/983461.html韓国語原文入力:2021-02-18 10:47
訳D.K

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